地球ことば村
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ことば村・ことばのサロン

2018・5月のことばのサロン
▼ことばのサロン

 

「小学校英語―教科化に向けて変わること、変わらないこと―」


● 2018年5月19日(土)午後2時-4時30分
● 慶應義塾大学三田キャンパス南校舎444教室
● 話題提供:佐藤玲子先生(明星大学教育学部常勤教授)


小学校英語の教科化

 明星大学の佐藤玲子と申します。今日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。小学校英語の教科化について、できるだけ客観的にお話ができたらと思っております。
 これまで小学校5,6年で外国語活動という領域で必修でしたが、2020年から3,4年生で「外国語活動」として必修化、5,6年が「外国語」として英語が教科になります。
 私は17年間、現在も荒川の小学校で教員研修、児童の指導に関わってきております。小学校英語に関する学会には小学校英語教育学会、語学教育研究所、児童英語教育学会、都小学校英語教育研究会、エレック、外国語教育メディア学会、関東甲信越英語教育学会、全国英語教育学会、外国語教育学会などがあり、私もそのうちのいくつかに関わっております。


さて、ここでアクティビティーです!

What did you have for breakfast?
(参加者立つ。Did you have a banana? 質問にYesのひとは座る・・・・・摂った物を変えて何度も教師の質問が聞こえる。最後に残ったひとにはWhat did you have?と問いかけ I had a ….と答えてもらう。)

 これはSit-down Gameといって、数字だったり動物だったり、いろいろな言語材料で子どもたちとするアクティビティーです。子どもたちは過去形を前もって教えられていなくてもこの活動をやっている間に理解します。breakfastがわからなくても、朝起きて・・・と少し説明すると、「あぁ朝食のことだ」と推測してくれます。

 さて、ウォーミングアップをした後で、今日お話しするのは以下の項目です。
1. 文科省指導要領
2. Essential Points(私が大事にしていること)
3. 第一言語習得と第二言語習得
4. 子どもの学ぶ力とそれに寄り添った指導


2018-2019年度の補助教材を紹介しましょう。

 2020年に教科になりますので、検定教科書ができます。前年度末(2018年3月)に文科省から補助教材が出ました。3年生には「Let’s try 1」、4年生に「Let’s try 2」、5年生に「We can 1」、6年生に「We can 2」が各小学校に配布されています。

「Let’s try 1」、デジタル教材ですが、これを見ていただきましょう。
(画面の文字をクリックすると音声が聞こえる。What’s this? A nest. Yes! It’s a nest.など)

 教材はオーセンティックな音を聞かせるのが大切です。We Can!1, 2にはそれぞれ、これまでの補助教材「Hi, friends1, 2」も後ろにまとめて入っているので厚くなっています。Let’s watch and thinkという項目が構成の中にあります。(クイズ形式で七夕を説明している音声を聞く)このように見たり聞いたり、ということが「Hi, friends」より増えています。5,6年では文字と音の結びつきも学びます。話す、書く、読む、の部分もあります。Storyのところでは、音とアンダーラインが同期して、どこを読んでいるかがわかるようになっていますね。中学生の中には文字と音が結びつかないで音読がうまくいかないことがありますが、この教材では文字と音が結びつくように工夫されています。


1-1 文科省旧・新指導要領に見られる違い

 学ぶ内容がこれまでの4領域(聞く・話す・読む・書く)から5領域になります。「話す」が「やりとり」と「発表」に分かれるのです。読む、書くはこれまでより比重が大きくなっています。しかし、中学校のようにスペルを覚えて読むということではありません。意味と音が結びつき、次に音と文字が結びついてから、意味がわかって読む(読んだ気になる)、ということです。新指導要領には「定着」ということばがよく出てきます。また、「授業には、small talk(ちょっとしたおしゃべり)を2時間に一回10分くらい設けましょうと」提案されています。言語材料として新たに加わるのは、過去形・he/she・enjoy ~ing、扱わないのはwhose・which・進行形。これらは子どもたちの生活場面でよく使われる表現ですが、扱いません。
 みなさんは5領域の「やりとり」と「発表」の関係をどう捉えますか?ふたつは別のものか、あるいは「やりとり」が出来るようになって「発表」に繋がっていくのか?言うだけ言いっ放しというのは楽ですが、一方方向のものです。(小学校での英語の「発表」は、「一回に複数の文を用いて情報を詳しく伝えること」ですが)情報を伝える・質問する・答える・考える・また伝える、というやりとりのある発表は、双方向のものですよね。何か言ってAny questions?と聞いて、その質問に答えるのは大変だと思います。ですから、「やりとり」がうまくできるようになることは、発表においても大事だと思います。が、みなさんは、「発表」をどのように捉えますか。


1-2 Small Talkって?

 さて、small talkでは、「定着」と「継続」がねらいと言われます。「学んできたことを継続的に使って、定着させていきましょう」、そして、「定着したことを継続して使いましょう」ということなのですね。継続というのは、習ったことを何度も何度も使いましょうということと、覚えたことだけを使う会話はぎこちないものになりReally?とかLet me seeのような繋ぎことばが必要となってくるので、そういうものも入れてみましょうということとが考えられます。
 2時間に一回のsmall talkでは、まず、「教師と児童でやる」、次に「児童と児童」でやる、次に「指導」という流れが示されています。というのは、子どもたちだけではわからないことがある時に、わからないことをわからないままにしておかないで、教師がわかるようにしてあげる必要があるからです。そして、それを踏まえて、また「児童と児童」でやりとりをする、そのような展開が提案されています。5年生では「教師と児童のやりとり」を、6年生になったら、「児童と児童でやりとり」に重きを置くように推奨されています。
 私や研究仲間は、教わったひとつひとつの単語や英語表現という「点」が「線」になり、いろいろな点が繋がって「面」になるようにして、ことばが広がっていくと考えています。私には、そのように言葉が繋がるように、small talkは設けられたのではないかと思えます。


1-3 定着と評価

 なぜ今頃になって定着ということが言われるようになったのでしょうか。カリキュラムは、本来はスパイラルに組み立てられます。新しいことを学ぶときには前に習ったことに戻りながら、触れながら、また、使いながら、新しいことを学んで行く。従って、「今ここで完璧にわからなくても先でまた出てくるから、そのときにわかるよ」と少しゆるやかに進められる。ところが、今実際に多くの先生がやっているのは、点の指導なのです。「前の単元では誕生日のことをやりました」、「次の単元ではなりたい職業についてやります」など、必ずしも前やった単元と次の単元が繋がらせていないので、プチプチと切れています。つまり、点の学習になってしまっています。与えられた教材を消化するだけで、ことばを使ってうまく次に生かすことをしてこなかった。だからこれから、「点と点を結んで線にし、線を面にして、スパイラルな指導や学習にする。そういうことをsmall talkでやろうということなのかなぁ」と、small talkの説明を文科省の調査官の方から聞いて、思った次第です。うまく行けばいいですね。しかし、指導案例の中のsmall talkをみると、なんでこんなsmall talkを例として記載するのかなぁというものもありました。
 これまでの小学校英語では、コミュニケーションを重視するか・言語習得を重視するかと言った場合、コミュニケーションに重きを置き、言語習得にはあまり重きを置かなかった。その結果、子どもたちはとても楽しそうですが、ことばが残ってこなかった。そういう授業や活動が今まで多かった。だから、教科になる以上、改めて「定着」、言語面での定着が大切だと言われ出したのではないかと考えます。
 でもね、と言いたい。「定着」に関してみなさんに考えて欲しいのは、旧指導要領の中にも「外国語を通じて」という文言があったのです。そこを抜かしてコミュニケーション能力の素地を作ると考えてしまったから、ことばの学習ということが軽んじられた。「外国語を通じて」を生かしていれば、子どもたちにことばが残っていたはずなのです。
 評価ですが、誰に対する評価かということを考えてください。学習者である子どもに対する評価と指導した先生に対する評価があります。子どもに対する評価は、子どもや親が喜んで、子どもたちがこれからも頑張ろうと思えるようにする評価になって欲しいものです。また、子どもへの評価は、その裏返しに先生の評価でもあるので、子どもが出来なかったのは教師の指導がまずかったからということにもなります。授業改善のための評価にもなって欲しいものです。評価に関しては、まだまだ、これからです。


佐藤玲子先生


2-1 Essential Points

 教員研修では、私が大事にしていることを◯・△・□で先生方に伝えています。
 まずです。言語活動や言語習得の三重のです。粕谷恭子先生がよく言われることですが、三重のの中心は「気持ち」です。その外のには「音声言語」が来て、一番外側のは「書記言語」となっています。音声言語だけの言語もあれば、書記言語だけのことばもあります。ことばを学習する(使う)際に、一番大事なのは、真ん中の「気持ち」だということです。聞きたいと思う気持ち、伝えたいと思う気持ち、ここが大切です。この気持ちがあるからこそ、ことばを使うわけですね。この気持ちのない言語活動は、ただの音の練習になってしまいます。
 だから子どもにことばを教えるときには、その子どもの心を揺すってあげないといけない。言わせられる活動だと、ことばは身についていきません。


2-2 Essential Points

 は、三角形の各頂点に「意味」、「音」、「文字」に置いています。ことばは、「意味」と「音」と「文字」に分けて考えられますよね。皆さんは熟達した言語使用者なので、文字を見れば音も意味も同時に文字と結びつくと思います。しかしビギナーの学習者はどうでしょうか。まず「意味」と「音」を結びつける。その上で今度は「音」が「文字」と結びつく。ですから、初心者は、文字を見たらまず音声化して、それから意味にたどり着きます。中学校、高校の受験英語では、「文字」を「意味」と直接に結びつける学習をするためか、意味はわかっても音声化できない学習者が出てきます。しかし、本来は、文字が意味と結びつく過程で音声化が起こるはずです。
 また、教師が、黒板に文字を書くのは子どものためではなく、先生のためであることが多いのではないでしょうか。子どもにとっては、それは意味も音もわからない単語や文を読めということになり、非常に負荷が高い。子どもにとって、文字は必ずしもありがたいものとは限らないのです。でも、いったん意味と音が結びつけば、文字はすごく助けになります。


2-3 Essential Points

 を水平線と垂直線で4分割しています。この図はさきほどの4領域と関係があって、右上部分はL(リスニング)、左上部分はS(スピーキング)、左下部分はR(リーディング)、右下部分はW(ライティング)です。中学校・高校ではこの4領域が等分割になっていきますが、小学校ではLが一番広く、次にSが広くて、次がR、最小がWの順になります。

 この◯・△・□の意味を覚えておいて、新指導要領解説を読んでみてください。新指導要領解説にも同じようなことが書かれていると思います。


3-1 第一言語習得と第二言語習得

 第一言語と第二言語の習得には、意味合いは多少違いますが、沈黙期というものがあります。第一言語と第二言語の習得の習得順序も大体似たようなものです。そして、いずれもoutputのためには、大量のinputが必要です。


3-2 学習心理学と教育学

 1950~60年代には、行動主義の学習心理学が言語習得に当てはめられていました。行動を習慣化すればことばは身につくという考えですが、outputを盛んにさせないと習慣化までに至りません。極端な指導では、一回例文を言って、さぁ、言ってごらんと学習者に何遍も言わせるようなことになります。
 1970年代以降は認知主義が主流となり、学習者の気づきが言語習得には必要だと考えられるようになりました。最近は新認知主義ということが言われてきて、総合的・統合的学習が必要であるとされています。教育の重点は学習者になりました。指導=学習ではない。指導順序がどうであれ、習得順序はほとんど変わりません。ですから、指導者は、学習者の学びについて知っていなくてはなりません。


3-3 ことばの習得

 ことばは、コミュニケーションを通じて身につけるものです。それでは、英語母語話者のコミュニケーションと日本人の英語でのコミュニケーションの何が違うのでしょうか。それはinputの量と質です。

英語母語話者が3歳までに英語を浴びている時間は
 一日10時間×365日×3年=10,950時間
一方、日本人の外国滞在児童が3年間現地校で英語(ESL)を浴びている時間は
 一日7時間×週5日×35週間×3年=3,675時間
日本で、英語学習で英語(EFL)を高校までの10年間で浴びている時間は、
 (小学校は3年35時間 4年35時間 5年70時間 6年70時間=210時間とすると)
 小学校210時間+中学校週6時間×35週×3年+高校週6時間×35週×3年=1,260時間

全く量が違います。英語母語話者の10,950時間なら、習慣化し、自動化でき、習得できるでしょう。しかし、日本で学習する場合には、時間が少ないため、習慣化は成功させ難い。


3-4 inputの量と質

(動画:日本語の1歳10ヶ月の幼児の発話)
 今の幼児のことば、日本語ということはおわかりですね。なんと言っていたか?(参加者:バナナ?)そうです。「ナナはある?」と言っている。この子の中に「バナナ」ということばはもう入っている。ちゃんと言えないけれど、日本語の音調の中で言っている。はっきりとことばを言えなくても、その言語のprosody(音調・強勢・抑揚などの音韻)は入っているのですね。
 英語でも音韻のちゃんとしたものを聞かせなくてはなりません。単語レベルでしか言えないから単語で返す。それですと、その子はそれ以上先には行けませんよね。Prosodyを大切にしなくてはいけないと考えます。新指導要領ではどうでしょうか。チャンツで、英語らしいProsodyが育つでしょうか。簡単でもセンテンスで、自然な文脈で入れて、やり取りをしてあげたいと思います。
 Input はOutputより多く与えたい。「英語をシャワーのように浴びせよう」と言われたりもしますが、では、その「英語のシャワー」をどう捉えますか。そのインプットの質も大事です。また、inputは、理解可能な(学習者にあった、paraphraseされた)ものでなければなりません。そして、できるだけ正確な言語形式(form)や、その言語らしい音調(prosody)であること。みなさんも、友人と幼児に話すのでは、違う言い方で話しますよね。そのように、相手に合わせて相手にわかるように語りかける。6年生だと、このことばはわかるかな、1年生では、もっと簡単に、そして、ことばをことばで説明するより絵でみせようかなと考えますよね。小学校英語では、抽象的なことがなくて、実物で示せるものが多いです。ことばで説明しなくても、deskと言ってそのものを、あるいは絵で示すことができで、ダイレクトに伝えることができます。大事なことは、「気づきをうながす」ことです。教師は子どもが気づくようにしてあげなくてはいけない。新指導要領ではhe/sheを教えますが、例えば、サザエさんの家族を使って、”Who is he? He is Katsuo”、 “Who is she? She is Wakame”と絵の配置に注意しながら紹介していくと、子どもは、Heは男の子でsheは女の子、なんて説明しなくても、そのルールに気づきます。
 Input からOutput、リスニングからスピーキングに向かうときには、ことばを使う経験が必要です。ここで教師にとって大事なのは「本気で話したいと思う場面設定」です。言わせられるのではなく、言いたい!と子どもたちが思う設定ですね。


ここで2つのチームに分かれて、wantを使ったアクティビティーをしましょう。

(縦横のマス目にメニューをならべ、昼食と夕食に食べたいもの I want to have ~ for lunch/dinner. とメニューをチェックしてビンゴを楽しむ)
 こんな感じで、二回戦すると子どもたちにはいいですね。一回戦でルールを、ゲームをやりながら理解します。子どもたちが本当に楽しめるのは、二回戦になります。I want…が子どもたちから出るようになります。食べ物名だけで終始答えてしまわないように、やりとりを通して教員がwantの文を聞かせるように気をつけることが、大事です。このゲームは子どもたちがとても積極的に参加し、ゲームを進めるうちに自然にwantを使うようになるので、やってみてください。


4 Key word:子どもの学び

 子ども(学習者)の学びはどうなっているか、そして子どもの学びに寄り添った指導はどうあるべきか。資料をお渡ししました。これは語学教育研究所の第10グループ、小学校の現場で長く携わってきた人たちですが、その仲間が、子どもの持っている力と、それに寄り添う指導について、一年かけてまとめ上げたものです。
 子どもの持っている力は低学年、中学年、高学年で違います。

低学年では
・音を躊躇無くまねする。
・英語を塊で捉える。Here you areあるいはHow are you?は3語ではなく、1語なのです。
 How are you today? となると、違うことばに聞こえてしまいます。
・知っていることばを聞き取る。知らないことばは無視する。
・聞き取れたことばを頼りに推測し、わかった気持ちになる。
・わからないことは気にしない。
・繰り返しを好む。
低学年で英語の読み聞かせをするとき、担任は子どもたちに日本語で意味を説明したがりますが、止めてもらいます。すると、子どもたちは最初?の顔をしていますが、後半になるとあれかなこれかなと推測して、それが当たるとのめり込んできます。読む本は選ばなくてはなりませんが、子どもたちは持てる語彙力で推測してくれるのです。

中学年になると
・積極的な学習態度が身につく。
・意味を推測しながら聞き続ける。
・語彙が増える。
・肺活量、口の周りの筋肉量が増え、聞こえたとおりにまねしようとする。
・文字に興味を持つ。
・自己表現の意欲が高まる。
低学年とは違いますよね。肺活量、筋肉量が増すので、一、二年生では難しかった早口言葉が、三、四年生では言えるようになってきます。

高学年では
・論理的に考えようとする。
・ことばの法則性に気づく。
・気づいたルールを適用して、自分で考えたことを文で発話しようとする。
・お手本と自分の発音の違いに気づき修正しようとする。
・文字を読もうとする。
ことばのルールには小さい子どもでも気づきます。子どもの学ぶ力は継続していくものもあり、伸びていくものもある。また、弱まっていくものもある。でも、それは、変化しているのかもしれません。
 指導は、そういう子どもの学ぶ力の変化に合わせて、一年生から継続して指導していくものもあり、加えていくものもあり、変化させる指導もある、ということです。

 子どもの学ぶ力を信じた指導法、それが私たちの求めるものです。例えば語彙力、20年くらい前にできた絵辞典には1850の語彙を収まっています。小学校4年の子どもたちに、「英語だと思うものを集めておいで」と声をかけて、集められた語彙です。身の回りのカタカナ英語を英語にして、それを利用して指導する。バナナがわからない子はいませんが、身の回りにあまりない、例えば、イチジク figなどは初期段階の指導には出さない。I like figsと言ってもわかりませんから、まず、I like bananasから始めて、「英語が聞いているとわかる!」と自信を持たせる。それから、This is a fig, I like figsと発展させる。持っている語彙力を利用して指導すると、子どもは「あっ、英語がわかる」と、どんどん前向きになります。
 ずっと聞いていく中で、自分の持てる語彙を当てはめて推測して、「わかった」となる。その推測する力、そしてルールを見つける子どもの力を信じて、活動・指導を考える。すると、子どもがより興味を持つ指導ができるのです。
 真面目な先生が、ここわかった?それでは次、ときっちりやっていくと子どもは固くなっていきます。もう少し、子どもの力を信じて、これやってみようか、これにチャレンジしようか、とやっていくと、子どもものびのびして、より興味を持っていく。いわば飛び石伝いに行く方が、まっすぐ行くより楽しいのではないでしょうか。そして、子どもが本当に言いたくなるように場面設定し工夫する。私たちは教えた英語表現を休み時間に子どもたちが言っているのを聞くと、「あぁ、使っている!」と嬉しくなります。

 「We can!」で取り上げている文具の中にglue stickというのがあります。可算名詞なので、何本もっているかの活動に使えます。でも、糊は、スティック糊ばかりではありませんね。水糊やペースト状のものもある。一般に糊という場合は不可算名詞です。教材開発の打ち合わせ会議で、スティック糊を持っていない子でも、「(他の)糊を持っているよ」と言いたい気持ちがあるので、どう対応すればよいのか」と尋ねました。メンバーの一人はglue stickしか最近は持っていないから、glue stickを扱えばいいという意見でした。私は釈然としませんでした。スティック糊ではない糊を持っている子だって、「私は糊を持っている」と言いたいのです。そう思いませんか?
(参加者:教えたことを全部わからなくても、次の段階でわかるかもしれませんね。語学で、初めから全部の体系を教えようとするのは無理なのでは?)
 あぁ、そうですねぇ・・。多少のコントロールはあります。I like apples でもI like appleでも間違いではない、でも私たちは最初にapplesの方を教えます。I like appleは、もし出てきたらそのときに教えます。でも、日本にない複数形の形式に気づいてほしいので、複数形を先ず教えます。糊(glue)については身の回りのものを扱う際に、スティック糊もボトルの糊も含む不可算名詞のglueが上位カテゴリーにあるのですが、教科書で可算名詞としてスティック糊がでてきたから、もうその上位のglueは教える必要がないというのは、教科書に合わせた考え方なのですね。意見は二つに割れました。「教科書に出ているのだからglue stickで良い」とする考えと、「ことばを教えるのだから、どちらを持っていても使えるglueを先ず教えたほうが良い」という考えです。2020年の検定教科書ではどのように扱うのか、今問い合わせ中です。
 「Yes, I have…と言いたい気持ち」に関して、ペットを題材に‘I have a dog as a pet. Do you have a dog?’という活動で、ペットが飼えない状況の子どもは、勉強だからどんな答えでも良いとは割り切れません。正直にNo, I don’t. I don’t have …と答えるとき、その子どもたちは気持ちがシュンとなっていました。I have…と子どもはと言いたいのです。そういう時はカードを配り、持っているカードに描かれた動物を自分のペットとしてしました。架空でもI have …と言えるのですごく嬉しそうにしていました。そういう経験もあって、glueは持っているけどglue stickは持っていないからYes! I have glueと言えない、glueの問題にひっかかった訳です。

 2020年から検定教科書を使うことになりますが、「教科書を教える」のではなく、「教科書で教える」という視点がないと、子どもたちは授業についてこなくなると思います。年齢が上になると、「あなたのためよ、はい、ドリルしましょう!」ということでもついてくるのですが、年齢の低い子どもにはそういう説得では、聞きません。面白いから聞く、つまらないと聞かない。そういう気持ちを受け止めていかないと、授業と子どもの気持ちが乖離してきます。


5 指導者に必要なスキル

 指導者が身につけたいスキルは、recastとscaffoldです。
 What animal do you like? の時にdogと答えたら、「I like dogs.よ、はい、言って!」、「言えたね。はい、OK、次!」というように指導すると、コミュニケーションをとることより、正確に答えなければいけないということになってしまいます。ですから、 dogと答えた子どもには、Oh, you like dogs, I like dogs, too!と教師はその子とやり取りをしながらミュニケーション活動を続けて、正しい英語に言い直して聞かせる(recast)。
 もう一つは、scaffoldは足場かけということですね。学習者によって習熟度が違うので、この子は一押しすれば言える、この子はセンテンスの大部分をフォローし、言った気にさせて自信を持たせるなど、それぞれの子どもに合わせた足場のかけ方を考える。子どもが言えるようになってくるにつれて、足場という先生からの支援をはずしていくことです。
 そして、題材の選択、子どもの気持ち、子どもへの語りかけ、それらがとても大事になります。母語の習得では、お父さん、お母さん、周りの大人が子どもに話しかけていくのと同じように、教室では先生が子どもに話しかける(teacher talk)ことが、とても重要です。
 2015年に科研費研究で、東京三多摩地区と島嶼部の現職の先生にアンケート調査をしました。回答率36%、230余名の先生が答えてくださいました。準二級以上を持っている先生が82名、三人に一人でした。実際に英検で準二級以上取っているのに、「しゃべれません」と、「英語力に自信がない」と答えた先生が多かった。英語の知識はあるが、英語を使う経験が少ないからだと考えられます。そこをなんとかしなくてはいけないと、教員養成や教員研修のありかたを改めて考えさせられました。


6 まとめ―変わるもの・変わらないもの

 変わるのは言語政策です。文科省の施策は変わっていきます。変わらないものは子どもの学び、習得順序。小学校英語でも、子どもがどういう学びかたをするのかを理解し、子どもの学びに沿った指導をすれば、子どもがついてくる。そして、子どもの心にことばが残っていくと、私は考えます。

(文責:事務局)