エチオピア文字 英 Ethiopic alphabet/script
エチオピアのセム語派に属すゲエズ語 (Ge'ez) を表記するための文字であったが,その後,アムハラ語 (Amharic) やティグリニア語 (Tigrinya),エリトリア北部のティグレ語 (Tigre) の表記にも用いられるようになった。なお,かつては系統の異なるクシ語派のオロモ語 (Afaan Oromoo) でも用いられた。
エチオピア最古の文字資料は紀元前 1 千年紀の半ばに遡るが,これは古代南アラビア文字であり,エチオピア文字がこの南アラビア文字から派生し,紀元後 2 世紀頃にエチオピア文字が生まれたと考えられている。当初は子音のみを表していたが,その後次第に独自性を強め,4 世紀半ば,アクスム王国のエザナ王の時代になって母音表記が導入され,この時点で,南アラビア文字から完全に独立した文字体系として確立した。アクスム王国は 10 世紀頃までに滅亡した。しかし,ゲエズ語は死語になっても書き言葉として君臨した。その後 13 世紀にアムハラ語が宮廷の言語となると,次第にアムハラ語も書かれるようになり,その際にエチオピア文字が使われることになった。ただし,書き言葉としてアムハラ語が完全にゲエズ語に取って代わるのは,19 世紀半ばからである。 [1]
文字構成
エチオピア音節文字は,横に ä u i a e ə o の順に並べられた 7 つの母音と,縦に並べた 26 の子音からなり,字数は 182 となる。なお,これに唇音化音の系列 (wa yä) が 20 加わる。ä をもつ第1列は ɡəʕəz,つまり基本形と呼ばれ,以下,第 2 列,第 3 列…と呼ばれる。 [2]
エチオピア文字には 2 つの不備な点が指摘されている。1 つは,第 6 列が母音 ə をもつ場合だけではなく,後続母音をもたない子音のみをも表すという二重性をもつことである。もう 1 つは,子音の重複を示す方法がないことである。つまり,日本語の仮名の「っ」にあたる文字がないのである。 [2]
次の表に示したような字母名称が初めて現れるのは,1548 年印刷の新約聖書,および,1552 年出版のマリアヌス・ヴィクトリウス (Marianus Victorius) による最初のゲエズ語文法書の中においてである。これは 17 世紀のルドルフ (H. Ludolf) の諸著作にも見られる。 [3]
音節文字
唇・軟口蓋音 (labiovelars)
句読点
単語分離記号コロン (:) は牛革にペンを使って書かれた写本で使われて以来用いられてきたが,近年では,単に単語間にスペースを置いて区切るだけの場合が多くなっている。現在,必ず使われるのは文終止記号だけである。
数字
エチオピア文字では,各字母を一定の数値をもつ数字として使う用例はなく,ギリシア文字方式を借用し,字形に多少の変形を加えた記号を作って数字とした。ただし,借用も 1 から 100 までであり,それ以上はギリシア文字方式とは異なり,たとえば 200 は数字 2 と 100 となり,千は 10 と 100,1 万は 100 を 2 つ並べて書かれる。 [4]