シャン文字 英 Shan script
ビルマ連邦の東部,シャン州各地に分布するシャン語(タイヤイ語・ビルマシャン語)を書き表す文字。文字はモン系の文字の中でもシャン文字は,形がビルマ文字に非常に似ている。 [1]
14 世紀になるとシャン族の王朝があいついで興ったが,1364 年に成立したアヴァ朝ではビルマ文字が大きな発展を遂げたため,支配層の言語であるシャン語は十分に成熟した文語をもつに至らなかった。16 世紀頃,シャン高原に藩侯による世襲の統治制度が確立し,いくつかの藩が生まれると,統治の必要からシャン文字を用いてシャン語を書き表す努力が払われた。しかし,シャン文字の旧綴り字法 [2]は,声調符号を用いず母音の表記も不分明なままで,文字組織としての成熟をみることなく,戦後,新綴り字法が制定されるまで使われてきた。
新シャン文字は,旧シャン文字の欠陥を改良すべく,1940 年に始まったシャン文芸協会のプロジェクトにおいて改良が加えられてきた。第2次大戦をはさんで,1952 年に同協会が新たに再組織され,1958 年,新シャン文字制定の公式決定がなされた。ビルマ独立(1948)後シャン州は自治州の資格をもっていたこともあり,この文字改革は順調に進み,1960 年から 64 年まで,初等レベルから中等レベルまでのこの新シャン文字を用いたシャン語教本が6冊出版され,シャン州全域において特別科目としてシャン語の教育が行われた。これも,1962 年のネ・ウイン革命政権の成立により,ビルマ化政策の実施とともに頓挫することになった。以後今日に至るまで,シャン文字の普及は篤学の人々の手に委ねられているにすぎない。
文字構成
以下,新方式のシャン文字について述べる。単語を構成する音節は,核になる字母(=頭子音字)を中心に,その上下左右に,母音符号,副次子音符号,語尾子音符号,および声調符号を付して表記する。
字母(頭子音字)
尾子音字・副次子音符号
尾子音字は,頭子音字の上に内在母音 a を消す《殺母音符号》を付して表す。副次子音符号は,一般に,サンスクリット語,パーリ語,シャム(タイ)語,ビルマ語などからの借用語の表記に限られる。
母音符号
声調符号
数字
シャン数字は,モン=ビルマ文字の系統の数字ではなく,次のような数字を用いる。
テキスト
シャン文字文例
世界人権宣言第一条 [Shan ] (61 KB) |
ユニコード
シャン文字はユニコードのミャンマー文字(U+1000..U+1090 )に収録されている。
入力方法
シャン語対応の入力メソッドは存在しないが,ミャンマー語用キーボードの利用方法を参考までに記す。ミャンマーのサイト ThanLwinSof: Ekaya からフリーの Ekaya Input Method (32 bit Windows を使用の場合 Ekaya-0.1.9_x86.exe)を入手,インストールガイドに沿ってミャンマー語用キーボードを設定する。
注
- ^ 藪司郎 (2001)「シャン文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p. 488.
- ^ [旧シャン文字]頭子音字(字母)には,新旧の間に基本的な違いは見られない。声調は,ごく一部に書き分けらしき場合(サンスクリット語のvisargaの使用による4声の/a/に見られる)が認められるが,文字の上にはまったく書き記されていない。旧方式のシャン文字の最大の特徴は,尾子音字をもつ韻母の書き分けが不分明であり,1つの綴り字に2つないしは3つの母音が対応する場合が少なくないめ,文字表記を見ても母音を特定できないという不都合があることである。
関連リンク・参考文献
- Shan language
- 中西コレクション (国立民族学博物館)シャン文字
- Omniglot: Shan
- Jan James Shan
- Tai languages with Alif Silpachai