(1) 昔々 ある ところに、木こりの おじいさんが おばあさんと 仲良く暮らしていました。
(2) ある 晴れた 日の お昼、おじいさんは いつものように 切り株に 腰を おろし おばあさんの にぎってくれた おむすびを 食べようと、
竹の 皮の 包みを ひろげた とたん、
おむすびが ひとつ コロコロっと ころがって ―
足元の 小さな 穴へ おっこちてしまいました。
(3) 「おやまぁ、もったいない ことを した。」と おじいさんが 穴の 中をのぞきこむと、
「おむすび コロリン コロコロリン、
コロリン ころげて 穴の 中」
と、かわいらしい 歌声が 穴の 奥から 聞こえてくるでは ありませんか。
(4) 「これは ふしぎ、 誰が 歌っているのだろう。」と、
おじいさんは もう ひとつ おむすびを ころがして、穴に 入れてみました。
「おむすび コロリン コロコロリン、
コロリン ころげて 穴の 中」
またまた かわいらしい 歌声が、奥から 聞こえてきます。
(5) 「ははぁ、こりゃあ おもしろいぞ。」
おじいさんは、次から 次へ おむすびを ころがして・・・
とうとう、ひとつ 残らず 穴に 落としてしまいました。
(6) 「おかえりなさい おじいさん。あれまぁ どうしました そんなに ひょろひょろ して。」
「おばあさんや、腹ぺこだ 腹ぺこだ 大腹ぺこだぁ。」
(7) おじいさんは ごはんを 腹いっぱい 食べてから、おばあさんに 昼間の ふしぎな 歌の ことを 話して きかせました。
(8) 「まぁまぁ、いったい 誰が 歌っているのかしらねぇ。」
「それさ、それが 知りたくてのぅ。」
「それでは、明日は たくさん たくさん おむすびを 持って行きなされ。何度も 何度も 歌声が 聞けるように。」
おばあさんは、お米を 一升 炊きました。
(9) 次の 日、朝 早くから 山に 来た おじいさん、
わくわく しながら お昼に なるのを 待って、
コロリンと おむすびを ころがして あの 穴に 入れました。
(10) 「おむすび コロリン コロコロリン、
コロリン ころげて 穴の 中」
(11) 「ほっほっほ、やっぱり 歌が 聞こえるわい。なんと まぁ きれいな 歌声じゃ。いったい 誰が 歌っておるか 知りたいのう。」
「あぁ そうじゃ。わしが 自分で 入ってみれば 知れるだろうさ。」
(12) おじいさんは 両手で ひざを かかえ、背中を 丸く 丸く 丸めて、おむすびみたいに コロリンと 穴の 中に ころげて 入ってみました。
すると、 穴の 底では おおぜいの ネズミたちが おしくらまんじゅう しながら 歌っているでは ありませんか。
「おむすび コロリン コロコロリン、
おじいさんも コロリン コロコロリン」
(13) 「おじいさん、きのうも 今日も たくさんの おむすびを ごちそうして くださって ありがとう。お礼に おもちを ついて ごちそうしましょう。」
(14) ネズミたちは、 ちいさな ウスと キネを 運び出して、
「ペッタン ペッタン ペッタンコ
ネズミの おもちだ ペッタンコ
やさしい おじいさん めしあがれ
ネズミの おもちだ ペッタンコ」
(15) おじいさんは、それは それは おいしい おもちを おなかが はちきれそうになるまで ごちそうに なりました。
(16) 「おじいさん、おみやげに これを さしあげましょう。これは 打ち出の 小づちです。ほしい ものを 唱えながら 振れば、なんでも 出てきます。親切に してくださった お礼です。」
(17) おじいさんは 家に もどって おばあさんに 聞きました。
「おばあさんや、お前は 何が ほしいかね。」
(18) 「そうですねぇ。ずっと ずっと 昔から ほしかったのは そう 赤ん坊。かわいい 赤ちゃんが いたら、どんなに 幸せでしょうねぇ。」
(19) 「よぅし、やってみよう。」
おじいさんは 打ち出の 小づちを ぶいん ぶいんと 振りました。
「赤ん坊 出てこい、赤ん坊 出てこい。」
すると、
(20) おばあさんの ひざには、もう おむすびみたいに 丸々 太った かわいい 赤ちゃんが 乗っていました。
(21) おじいさんと おばあさんは 赤ん坊を かわいがりながら、それからも 仲良く 暮らしましたとさ。
2 おむすびころりん
『日本の童話』 全7話 第2話 おむすびころりん (日本語) 準拠
編 三間 由紀子
絵 武 美和
朗読 森 秋子
制作 NPO法人 地球ことば村・世界言語博物館
2021.2.9