3 背丈(たけ)くらべ

(1)-(2)- p14

(1) 大昔(おおむかし)、―― むろん、人間(にんげん)などと いう せこせこした 動物(どうぶつ)が、まだ この 世(よ)へ 現(あら)われない 前(まえ)の ことです。
ある 日(ひ)、雲(くも)が もうもうと わき起(お)こって、ほうぼうの 山(やま)へ おそいかかって来(き)ました。そして、高(たか)さの 順(じゅん)に 一(ひと)つずつ 下(した)の 方(ほう)から 埋(う)めて行(い)きました。
しだいに 峰(みね)の 数(かず)が 減(へ)って、やがて、最後(さいご)に、この 雲(くも)の 大(だい)洪水(こうずい)は、富士山(ふじさん)と 八ヶ岳(やつがたけ)の 頭(あたま)だけを 残(のこ)して、あらゆる ものを おぼれさせてしまいました。

(2) そこで、八ヶ岳(やつがたけ)が 富士山(ふじさん)を かえりみて、「とうとう 君(きみ)と 僕(ぼく)だけに なってしまったね。」と 言葉(ことば)を かけました。
すると 高慢(こうまん)ちきな 富士山(ふじさん)は、
「うん。しかし、そのうちに 僕(ぼく)だけに なってしまうのだ。」と 豪語(ごうご)しました。
こう 言(い)われると、八ヶ岳(やつがたけ)も だまっている わけには まいりません。
「なんだと!それは こっちで 言(い)う ことだよ。論(ろん)より 証拠(しょうこ)、今(いま)に みていろ!」
「じゃあ、貴(き)さまは、僕(ぼく)よりも 高(たか)いと 思(おも)っているのか。」
富士山(ふじさん)は、もう なかば けんか腰(ごし)です。売(う)り言葉(ことば)に 買(か)い言葉(ことば)と いう やつで、八ヶ岳(やつがたけ)も 負(ま)けては いずに、
「じゃあ、君(きみ)は、僕(ぼく)よりも 高(たか)い つもりで いたのか。」と 同(おな)じような ことを 言(い)って、それに 応(おう)じました。
「生意気(なまいき)な 奴(やつ)だ。」と 富士山(ふじさん)が 言(い)いました。

-(2)-(4) p16

「どっちが。」と 八ヶ岳(やつがたけ)が やり返(かえ)しました。
「けしからん やつだ。」
「笑(わら)わしやがらあ。見(み)ろよ。この 通(とお)り 僕(ぼく)の 方(ほう)が こんなに 高(たか)いじゃないか。」
「いいや、僕(ぼく)の 方(ほう)が 高(たか)い。」

(3) しかし、雲(くも)は、あいにくと 最後(さいご)の 決着(けっちゃく)を つけては くれませんでした。それでは、と いうので、いよいよ 背丈(たけ)くらべを やってみる ことに なりました。―長(なが)い 樋(とい)を 両方(りょうほう)の 頭(あたま)に 乗(の)せ、それに 水(みず)を 注(そそ)ぎます。そして、その 水(みず)の 流(なが)れて行(い)った 方(ほう)が 負(ま)けと いう ことに なるのです。いかさま、これでは ごまかしが きかない わけです。そして、その 結果(けっか)、八ヶ岳(やつがたけ)の 勝(か)ちに なりました。

(4) ところで、負(ま)けぎらいな 富士山(ふじさん)は、どうしても 腹(はら)の 虫(むし)が おさまりません。いよいよ 自分(じぶん)の 負(ま)けと きまるのが 早(はや)いか、ごうを 煮(に)やして、いきなり、両方(りょうほう)の 頭(あたま)に 渡(わた)してあった 樋(とい)を 取(と)りはずし、それでもって、いやと いうほど 相手(あいて)の 横面(よこづら)を なぐりつけました。

かわいそうに、その ために 八ヶ岳(やつがたけ)の 首(くび)は 折(お)れて、離(はな)れて、宙(ちゅう)に 飛(と)んでしまいました・・・

富士山(ふじさん)が 日本一(にっぽんいち)と 言(い)われるように なったのは、これから 後(のち)の ことであります。

奥付(おくづけ)

3 背丈(たけ)くらべ

『日本(にほん)の童話(どうわ)』 全(ぜん)7話(わ) 第(だい)3話(わ) 背丈(たけ)くらべ (日本(にほん)語(ご)) 準拠(じゅんきょ)

作(さく) 相馬(そうま) 泰三(たいぞう)
絵(え) 武智(たけち) 祐治(ゆうじ)
朗読(ろうどく) 高橋(たかはし)正彦(まさひこ)

NPO法人(ほうじん) 地球(ちきゅう)ことば村(むら)・世界(せかい)言語(げんご)博物(はくぶつ)館(かん)

2021.2.10