4 ごんぎつね

1(1)-(4) p18

1
(1) これは、わたしが 小(ちい)さい ときに、村(むら)の 茂平(もへい)と いう おじいさんから 聞(き)いた お話(はなし)です。
昔(むかし)は、わたしたちの 村(むら)の 近(ちか)くの 中山(なかやま)と いう 所(ところ)に、小(ちい)さな お城(しろ)が あって、中山(なかやま)様(さま)と いう お殿様(とのさま)が おられたそうです。

(2) その 中山(なかやま)から 少(すこ)し はなれた 山(やま)の 中(なか)に、「ごんぎつね」と いう  キツネが いました。ごんは、ひとりぼっちの 小(こ)ギツネで、しだの いっぱい しげった 森(もり)の 中(なか)に、あなを ほって 住(す)んでいました。そして、夜(よる)でも 昼(ひる)でも、辺(あた)りの 村(むら)へ 出(で)てきて、いたずらばかり しました。畑(はたけ)へ 入(はい)って いもを ほり 散(ち)らしたり、菜種(なたね)がらの ほしてあるのへ 火(ひ)を つけたり、百姓(ひゃくしょう)家(や)の うら手(て)に つるしてある とんがらしを むしり取(と)っていったり、いろんな ことを しました。

(3) ある 秋(あき)の ことでした。二(に)、三(さん)日(にち) 雨(あめ)が ふり続(つづ)いた その 間(あいだ)、ごんは、外(そと)へも 出(で)られなくて、あなの 中(なか)に しゃがんでいました。

(4) 雨(あめ)が あがると、ごんは、ほっとして あなから はい出(で)ました。空(そら)は からっと 晴(は)れていて、モズの 声(こえ)が キンキン ひびいていました。

1(5)-(8) p20

(5) ごんは、村(むら)の 小川(おがわ)の つつみまで 出(で)てきました。あたりの すすきの ほには、まだ 雨(あめ)の しずくが 光(ひか)っていました。川(かわ)は、いつもは 水(みず)が 少(すく)ないのですが、三(みっ)日(か)もの 雨(あめ)で、水(みず)が どっと ましていました。ただの ときは 水(みず)に つかる ことの ない、川(かわ)べりの すすきや はぎの かぶが、黄色(きいろ)く にごった 水(みず)に 横(よこ)だおしに なって、もまれています。ごんは、川下(かわしも)の 方(ほう)へと、ぬかるみ 道(みち)を 歩(ある)いていきました。

(6) ふと 見(み)ると、川(かわ)の 中(なか)に 人(ひと)が いて、何(なに)か やっています。ごんは、見(み)つからないように、そうっと 草(くさ)の 深(ふか)い 所(ところ)へ 歩(ある)きよって、そこから じっと のぞいてみました。

(7) 「兵十(ひょうじゅう)だな。」と、ごんは 思(おも)いました。兵十(ひょうじゅう)は、ぼろぼろの 黒(くろ)い 着物(きもの)を まくし上(あ)げて、こしの ところまで 水(みず)に ひたりながら、魚(さかな)を とる はりきりと いう 網(あみ)を ゆすぶっていました。はちまきを した 顔(かお)の 横(よこ)っちょうに、円(まる)い はぎの 葉(は)が 一(いち)まい、大(おお)きな ほくろみたいに へばり付(つ)いていました。

(8) しばらく すると、兵十(ひょうじゅう)は、はりきり網(あみ)の いちばん 後(うし)ろの ふくろのように なった ところを、水(みず)の 中(なか)から 持(も)ち上(あ)げました。その 中(なか)には、しばの 根(ね)や、草(くさ)の 葉(は)や、くさった 木(き)切(ぎ)れなどが、ごちゃごちゃ 入(はい)っていましたが、でも、ところどころ、白(しろ)い 物(もの)が きらきら 光(ひか)っています。それは、太(ふと)い ウナギの はらや、大(おお)きな キスの はらでした。兵十(ひょうじゅう)は、びくの 中(なか)へ、その ウナギや キスを、ごみと いっしょに ぶちこみました。そして、また、ふくろの 口(くち)を しばって、水(みず)の 中(なか)へ 入(い)れました。

1(9)-(12) p22

(9) 兵十(ひょうじゅう)は、それから、びくを 持(も)って 川(かわ)から 上(あ)がり、びくを 土手(どて)に 置(お)いといて、何(なに)を さがしにか、川上(かわかみ)の 方(ほう)へ かけていきました。

(10) 兵十(ひょうじゅう)が いなくなると、ごんは、ぴょいと 草(くさ)の 中(なか)から 飛(と)び出(だ)して、びくの そばへ かけつけました。ちょいと、いたずらが したくなったのです。ごんは、びくの 中(なか)の 魚(さかな)を つかみ出(だ)しては、はりきりあみの かかっている 所(ところ)より 下手(しもて)の 川(かわ)の 中(なか)を 目(め)がけて、ぽんぽん 投(な)げこみました。どの 魚(さかな)も、トボンと 音(おと)を 立(た)てながら、にごった 水(みず)の 中(なか)へ もぐりこみました。

(11) いちばん しまいに、太(ふと)い ウナギを つかみに かかりましたが、なにしろ ぬるぬると すべりぬけるので、手(て)では つかめません。ごんは、じれったくなって、頭(あたま)を びくの 中(なか)に つっこんで、ウナギの 頭(あたま)を 口(くち)に くわえました。ウナギは、キュッと いって、ごんの 首(くび)に まきつきました。その とたんに 兵十(ひょうじゅう)が、向(む)こうから、
「うわあ、ぬすっとギツネめ。」
と どなり立(た)てました。ごんは、びっくりして 飛(と)び上(あ)がりました。ウナギを ふりすてて にげようと しましたが、ウナギは、ごんの 首(くび)に まきついたまま はなれません。ごんは、そのまま 横(よこ)っ飛(と)びに 飛(と)び出(だ)して、一生懸命(いっしょうけんめい) にげていきました。

(12) ほらあなの 近(ちか)くの ハンの 木(き)の 下(した)で ふり返(かえ)ってみましたが、兵十(ひょうじゅう)は 追(お)っかけては 来(き)ませんでした。

1(13)-2(4) p24

(13) ごんは ほっとして、ウナギの 頭(あたま)を かみくだき、やっと 外(はず)して、あなの 外(そと)の 草(くさ)の 葉(は)の 上(うえ)に のせておきました。

2
(1) 十(とう)日(か)ほど たって、ごんが 弥助(やすけ)と いう お百姓(ひゃくしょう)の うちの うらを 通(とお)りかかりますと、そこの イチジクの 木(き)の かげで、弥助(やすけ)の 家内(かない)が、お歯(は)黒(ぐろ)を つけていました。かじ屋(や)の 新兵衛(しんべい)の うちの うらを 通(とお)ると、新兵衛(しんべい)の 家内(かない)が、かみを すいていました。ごんは、「ふふん、村(むら)に 何(なに)か あるんだな。」と 思(おも)いました。「なんだろう、秋(あき)祭(まつ)りかな。祭(まつ)りなら、たいこや 笛(ふえ)の 音(おと)が しそうな ものだ。それに だいいち、お宮(みや)に のぼりが 立(た)つ はずだが。」

(2) こんな ことを 考(かんが)えながら やって来(き)ますと、いつのまにか、表(おもて)に 赤(あか)い 井戸(いど)の ある 兵十(ひょうじゅう)の うちの 前(まえ)へ 来(き)ました。その 小(ちい)さな こわれかけた 家(いえ)の 中(なか)には、おおぜいの 人(ひと)が 集(あつ)まっていました。よそ行(ゆ)きの 着物(きもの)を 着(き)て、こしに 手(て)ぬぐいを さげたりした 女(おんな)たちが、表(おもて)の かまどで 火(ひ)を たいています。大(おお)きな なべの 中(なか)では、何(なに)か ぐずぐず にえていました。

(3) 「ああ、そうしきだ。」と、ごんは 思(おも)いました。「兵十(ひょうじゅう)の うちの だれが 死(し)んだんだろう。」

(4) お昼(ひる)が すぎると、ごんは、村(むら)の 墓地(ぼち)へ 行(い)って、六(ろく)地蔵(じぞう)さんの かげに かくれていました。いい お天気(てんき)で、遠(とう)く 向(む)こうには、お城(しろ)の 屋根(やね)がわらが 光(ひか)っています。墓地(ぼち)には、ひがん花(ばな)が、赤(あか)い きれのように、さき続(つづ)いていました。と、村(むら)の 方(ほう)から、カーン、カーンと、かねが 鳴(な)ってきました。そうしきの 出(で)る 合図(あいず)です。

2(5)-3(3)- p26

(5) やがて、白(しろ)い 着物(きもの)を 着(き)た そうれつの 者(もの)たちが やって来(く)るのが、ちらちら 見(み)え始(はじ)めました。話(はな)し声(ごえ)も 近(ちか)く なりました。そうれつは、墓地(ぼち)へ 入(はい)ってきました。人々(ひとびと)が 通(とお)った あとには、ひがん花(か)が ふみ折(お)られていました。

(6) ごんは、のび上(あ)がって 見(み)ました。兵十(ひょうじゅう)が、白(しろ)い かみしもを 着(つ)けて、いはいを ささげています。いつもは、赤(あか)い さつまいもみたいな 元気(げんき)の いい 顔(かお)が、今日(きょう)は なんだか しおれていました。
「ははん、死(し)んだのは、兵十(ひょうじゅう)の おっかあだ。」ごんは、そう 思(おも)いながら 頭(あたま)を  ひっこめました。

(7) その ばん、ごんは、あなの 中(なか)で 考(かんが)えました。「兵十(ひょうじゅう)の おっかあは、とこに ついていて、ウナギが 食(た)べたいと 言(い)ったに ちがいない。それで、兵十(ひょうじゅう)が、はりきり網(あみ)を 持(も)ち出(だ)したんだ。ところが、わしが いたずらを して、ウナギを 取(と)ってきてしまった。だから、兵十(ひょうじゅう)は、おっかあに ウナギを 食(た)べさせる ことが できなかった。そのまま、おっかあは、死(し)んじゃったに ちがいない。ああ、ウナギが 食(た)べたい、ウナギが 食(た)べたいと 思(おも)いながら 死(し)んだんだろう。ちょっ、あんな いたずらを しなければ よかった。」

3
(1) 兵十(ひょうじゅう)が 赤(あか)い 井戸(いど)の ところで 麦(むぎ)を といでいました。
兵十(ひょうじゅう)は、今(いま)まで おっかあと 二(ふた)人(り)きりで、まずしい くらしを していた もので、おっかあが 死(し)んでしまっては、もう ひとりぼっちでした。「おれと 同(おな)じ、ひとりぼっちの 兵十(ひょうじゅう)か。」こちらの 物置(ものおき)の 後(うし)ろから 見(み)ていた ごんは、そう 思(おも)いました。

(2) ごんは、物置(ものおき)の そばを はなれて、向(む)こうへ 行(い)きかけますと、どこかで、イワシを 売(う)る 声(こえ)が します。
「イワシの 安売(やすう)りだあい。生(い)きの いい、イワシだあい。」

(3) ごんは、その いせいの いい 声(こえ)の する 方(ほう)へ 走(はし)っていきました。と、弥助(やすけ)の おかみさんが、うら戸口(とぐち)から、
「イワシを おくれ。」
と 言(い)いました。イワシ売(う)りは、イワシの かごを 積(つ)んだ 車(くるま)を 道(みち)ばたに 置(お)いて、ぴかぴか 光(ひか)る イワシを 両手(りょうて)で つかんで、弥助(やすけ)の うちの 中(なか)へ 持(も)って 入(はい)りました。


3-(3)-(9) p28

ごんは、その すき間(ま)に、かごの 中(なか)から 五(ごろ)、六(ろっ)ぴきの イワシを つかみ出(だ)して、もと 来(き)た 方(ほう)へ かけだしました。そして、兵十(ひょうじゅう)の うちの うら口(ぐち)から、うちの 中(なか)へ イワシを 投(な)げこんで、あなへ 向(む)かって かけもどりました。
とちゅうの 坂(さか)の 上(うえ)で ふり返(かえ)ってみますと、兵十(ひょうじゅう)が まだ、井戸(いど)の ところで 麦(むぎ)を といでいるのが 小(ちい)さく 見(み)えました。

(4) ごんは、ウナギの つぐないに、まず 一(ひと)つ、いい ことを したと 思(おも)いました。

(5) 次(つぎ)の 日(ひ)には、ごんは 山(やま)で くりを どっさり 拾(ひろ)って、それを かかえて  兵十(ひょうじゅう)の うちへ 行(い)きました。

(6) うら口(ぐち)から のぞいてみますと、兵十(ひょうじゅう)は、昼(ひる)飯(めし)を 食(た)べかけて、茶(ちゃ)わんを 持(も)ったまま、ぼんやりと 考(かんが)えこんでいました。変(へん)な ことには、兵十(ひょうじゅう)の ほっぺたに、かすりきずが ついています。どう したんだろうと、ごんが 思(おも)っていますと、兵十(ひょうじゅう)が ひとり言(ごと)を 言(い)いました。
「いったい、だれが、イワシなんかを、おれの うちへ ほうりこんでいったん だろう。おかげで おれは、ぬすびとと 思(おも)われて、イワシ屋(や)の やつに ひどい 目(め)に あわされた。」
と、ぶつぶつ 言(い)っています。

(7) ごんは、これは しまったと 思(おも)いました。「かわいそうに 兵十(ひょうじゅう)は、イワシ屋(や)に ぶんなぐられて、あんな きずまで つけられたのか。」

(8) ごんは こう 思(おも)いながら、そっと 物置(ものおき)の 方(ほう)へ 回(まわ)って、その 入(い)り口(ぐち)に くりを 置(お)いて 帰(かえ)りました。

(9) 次(つぎ)の 日(ひ)も、その 次(つぎ)の 日(ひ)も、ごんは、くりを 拾(ひろ)っては 兵十(ひょうじゅう)の うちへ 持(も)ってきてやりました。その 次(つぎ)の 日(ひ)には、くりばかりでなく、松(まつ)たけも 二(に)、三(さん)本(ぼん)、持(も)っていきました。

4(1)-(5)- p30

4
(1) 月(つき)の いい ばんでした。ごんは、ぶらぶら 遊(あそ)びに 出(で)かけました。中山(なかやま)様(さま)の  お城(しろ)の 下(した)を 通(とお)って、少(すこ)し 行(い)くと、細(ほそ)い 道(みち)の 向(む)こうから、だれか 来(く)るようです。話(はな)し声(ごえ)が 聞(き)こえます。チロリン、チロリンと、松虫(まつむし)が 鳴(な)いています。

(2) ごんは、道(みち)の かたがわに かくれて、じっと していました。話(はな)し声(ごえ)は、だんだん 近(ちか)く なりました。それは、兵十(ひょうじゅう)と、加助(かすけ)と いう お百姓(ひゃくしょう)でした。
「そうそう、なあ、加助(かすけ)。」
と、兵十(ひょうじゅう)が 言(い)いました。
「ああん。」
「おれあ、このごろ、とても 不思議(ふしぎ)な ことが あるんだ。」
「何(なに)が。」
「おっかあが 死(し)んでからは、だれだか 知(し)らんが、おれに くりや 松(まつ)たけなんかを、毎日(まいにち) 毎日(まいにち) くれるんだよ。」
「ふうん。だれが。」
「それが 分(わ)からんのだよ。おれの 知(し)らん うちに 置(お)いていくんだ。」

(3) ごんは、二(ふた)人(り)の 後(あと)を つけていきました。
「ほんとかい。」
「ほんとだとも。うそと 思(おも)うなら、あした 見(み)に 来(こ)いよ。その くりを 見(み)せてやるよ。」
「へえ、変(へん)な ことも あるもんだなあ。」

(4) それなり、二(ふた)人(り)は だまって 歩(ある)いていきました。

(5) 加助(かすけ)が、ひょいと 後(うし)ろを 見(み)ました。ごんは びっくりして、小(ちい)さくなって 立(た)ち止(ど)まりました。加助(かすけ)は、ごんには 気(き)が つかないで、そのまま さっさと 歩(ある)きました。吉兵衛(きちべえ)と いう お百姓(ひゃくしょう)の うちまで 来(く)ると、二(ふた)人(り)は そこへ 入(はい)っていきました。ポンポンポンポンと、木魚(もくぎょ)の 音(おと)が しています。


4-(5)-5(4) p32

まどの しょうじに 明(あ)かりが 差(さ)していて、大(おお)きな ぼうず頭(あたま)が うつって、動(うご)いていました。ごんは、「お念仏(ねんぶつ)が あるんだな。」と 思(おも)いながら、井戸(いど)の そばに しゃがんでいました。しばらく すると、また 三(さん)人(にん)ほど 人(ひと)が 連(つ)れ立(た)って、吉兵衛(きちべえ)の うちへ 入(はい)っていきました。
おきょうを 読(よ)む 声(こえ)が 聞(き)こえてきました。

5
(1) ごんは、お念仏(ねんぶつ)が すむまで、井戸(いど)の そばに しゃがんでいました。兵十(ひょうじゅう)と 加助(かすけ)は、また いっしょに 帰(かえ)っていきます。ごんは、二(ふた)人(り)の 話(はなし)を 聞(き)こうと 思(おも)って、ついていきました。兵十(ひょうじゅう)の かげぼうしを ふみ ふみ 行(い)きました。

(2) お城(しろ)の 前(まえ)まで 来(き)た とき、加助(かすけ)が 言(い)いだしました。
「さっきの 話(はなし)は、きっと、そりゃあ、神様(かみさま)の しわざだぞ。」
「えっ。」
と、兵十(ひょうじゅう)は びっくり して、加助(かすけ)の 顔(かお)を 見(み)ました。

(3) 「おれは あれから ずっと 考(かんが)えていたが、どうも、そりゃ、人間(にんげん)じゃ ない、神様(かみさま)だ。神様(かみさま)が、おまえが たった 一人(ひとり)に なったのを あわれに 思(おも)わっしゃって、いろんな 物(もの)を めぐんでくださるんだよ。」
「そうかなあ。」
「そうとも。だから、毎日(まいにち)、神様(かみさま)に お礼(れい)を 言(い)うが いいよ。」
「うん。」

(4) ごんは、「へえ、こいつは つまらないな。」と 思(おも)いました。「おれが くりや 松(まつ)たけを 持(も)っていってやるのに、その おれには お礼(れい)を 言(い)わないで、神様(かみさま)に お礼(れい)を 言(い)うんじゃあ、おれは 引(ひ)き合(あ)わないなあ。」

6(1)-(6) p34

6
(1) その 明(あ)くる 日(ひ)も、ごんは、くりを 持(も)って、兵十(ひょうじゅう)の うちへ 出(で)かけました。兵十(ひょうじゅう)は、物置(ものおき)で なわを なっていました。それで、ごんは、うちの うら口(ぐち)から、こっそり 中(なか)へ 入(はい)りました。

(2) その とき 兵十(ひょうじゅう)は、ふと 顔(かお)を 上(あ)げました。と、キツネが うちの 中(なか)へ 入(はい)ったでは ありませんか。こないだ、ウナギを ぬすみやがった あの ごんぎつねめが、また いたずらを しに 来(き)たな。
「ようし。」

(3) 兵十(ひょうじゅう)は 立(た)ち上(あ)がって、なやに かけてある 火(ひ)なわじゅうを 取(と)って、火薬(かやく)を つめました。そして、足音(あしおと)を しのばせて 近(ちか)よって、今(いま)、戸口(とぐち)を 出(で)ようと する ごんを、ドンと うちました。

(4) ごんは、ばたりと たおれました。

(5) 兵十(ひょうじゅう)は かけよってきました。うちの 中(なか)を 見(み)ると、土間(どま)に くりが 固(かた)めて  置(お)いてあるのが、目(め)に つきました。
「おや。」
と、兵十(ひょうじゅう)は びっくりして、ごんに 目(め)を 落(お)としました。
「ごん、おまえだったのか、いつも、くりを くれたのは。」

(6) ごんは、ぐったりと 目(め)を つぶった まま、うなずきました。
兵十(ひょうじゅう)は、火(ひ)なわじゅうを ばたりと 取(と)り落(お)としました。青(あお)い けむりが、まだ つつ口(ぐち)から 細(ほそ)く 出(で)ていました。

奥付(おくづけ)

4 ごんぎつね

『日本(にほん)の童話(どうわ)』 全(ぜん)7話(わ) 第(だい)4話(わ) ごんぎつね (日本(にほん)語(ご)) 準拠(じゅんきょ)

作(さく) 新美(にいみ) 南吉(なんきち)
絵(え) えだ いずみ
朗読(ろうどく) 森(もり) 秋子(あきこ)

NPO法人(ほうじん) 地球(ちきゅう)ことば村(むら)・世界(せかい)言語(げんご)博物(はくぶつ)館(かん)

2021.2.7