6 マカフシギ物語(ものがたり)

(1)-(3) p46

ノベヤマさんは 宇宙(うちゅう)飛行(ひこう)士(し)です。
その 夜(よる)、ノベヤマさんは 高度(こうど) 二(に)万(まん)キロメートルの 空(そら)の かなたから、地球(ちきゅう)に むけて カメラを セットしていました。
なんでも その 日(ひ)は、流星(りゅうせい)の 雨(あめ)が たくさん ふる、と いうのです。
その ようすを、さつえいするのが、ノベヤマさんの しごとでした。

(1) けれど、流(なが)れ星(ぼし)は、いっこうに あらわれません。
ノベヤマさんは ねむ気(け)ざましに、あじけない 宇宙(うちゅう)ラーメンを すすりました。
その とき、宇宙(うちゅう)船(せん)の すぐ わきを、まぶしい 光(ひかり)の おびが、すりぬけていったのです。
ノベヤマさんは、ラーメンの カップを ほうりだすと、あわてて ビデオカメラの スイッチを おしました。
光(ひかり)は、はるか かなたで どす黒(ぐろ)い スモッグに つつまれた 地球(ちきゅう) めざして、いっさんに 飛(と)びさりました。

(2) 星(ほし)の 雨(あめ)が あとに つづくかと、まちかまえていますと、それきり。あたりは ふかい やみに もどります。
「なんだ、一(いっ)個(こ)きりか…。」
ノベヤマさんは がっかりして、宇宙(うちゅう)遊泳(ゆうえい)している ラーメンを つかまえました。
「それにしても、どでかい 流(なが)れ星(ぼし)だったなあ…。」

(3)  ビ、ビ、ビ、ビ…。
モニターテレビが 鳴(な)って、さっき さつえいした、流(なが)れ星(ぼし)の 映像(えいぞう)を 再生(さいせい)します。
ノベヤマさんは、たべのこしの ラーメンの スープを ストローで 飲(の)みながら、それに 目(め)を やった とたん、また、カップを ほうりだす はめに なりました。
そこに うつっていたのは、星(ほし)かと 思(おも)いきや、一(いち)羽(わ)の、見(み)たことも ない 鳥(とり)の すがただったのです。

(4)-(6) p48

(4) 黄金(おうごん)の 鳥(とり)でした。
「そんな バカな…。いくら なんでも、こんな 宇宙(うちゅう)空間(くうかん)を 鳥(とり)が 飛(と)ぶなんて…。」
ノベヤマさんは 頭(あたま)を ぶるぶるっと ふると、その 画像(がぞう)を さっそく 地球(ちきゅう)の 基地(きち)に 送(おく)りました。
「これは グリニッチ 標準(ひょうじゅん)時(じ) 0430に そちらへ むかった 流(なが)れ星(ぼし)です。正体(しょうたい)を 確認(かくにん)してください。」

(5) ノベヤマさんが ラーメンを やっと 食(た)べおわった ころ、地上(ちじょう)から 返事(へんじ)が きました。
「その 流(なが)れ星(ぼし)は 地球(ちきゅう)からは 観測(かんそく)できませんでした。きっと 軌道(きどう)を はず れたのでしょう。」
「では、光(ひかり)の 中(なか)に うつっていた 鳥(とり)の すがたは、どう はんだんしますか?」
ノベヤマさんが たずねますと、
「なにも うつっとらん。」
そっけない 答(こた)えが かえってきました。

(6) 「まさか…。」
ノベヤマさんは、もう 一度(いちど) テープを まきもどして、さっきの 流(なが)れ星(ぼし)を モニターに うつしました。
すると、どう いう ことでしょう、さっきは たしかに うつっていた 鳥(とり)の すがたが、かげも かたちも ないのです。
(気(き)の せいだろうか … いや … しかし … そうだったのかも しれない。)

(7)-(10) p50

(7) 流星雨(りゅうせいう)は なかなか あらわれません。
ノベヤマさんは、もうれつに ねむくなってきました。
「ちょっと 休(やす)もう…。」
だれかに しごとを たのもうにも、その 宇宙(うちゅう)船(せん)には、ノベヤマさん ひとりしか 乗(の)っていなかったのです。
ノベヤマさんは カメラを 自動(じどう)に 切(き)りかえると、かたわらの ベッドに 横(よこ)に なりました。

(8) なんて ここちよい ねむりだった ことでしょう。
宇宙(うちゅう)飛行(ひこう)士(し)とも なると、かぞえきれないほどの 機械(きかい)を、四六時中(しろくじちゅう) あつかっていなくては なりません。とても くたびれるのです。
ノベヤマさんは 嵐(あらし)のような いびきを かいて、ねむりこんでしまいました。

(9) が、その とき、宇宙(うちゅう)船(せん)には なぞの 通信(つうしん)が 送(おく)りこまれていたのです。
「わたしは あなたの 船(ふね)から 通信(つうしん)された 電波(でんぱ)を 傍受(ぼうじゅ)した 者(もの)です。あなたが 送(おく)った 流(なが)れ星(ぼし)の 画像(がぞう)は、たしかに 鳥(とり)であります。しかし、それは 地球(ちきゅう)上(じょう)に いる 鳥(とり)では ない。この 鳥(とり)は 紀元前(きげんぜん) 二(に)百(ひゃく)年(ねん) 前(まえ)に、ギリシャの 博物(はくぶつ)学者(がくしゃ) ノラステルダマスの 本(ほん)の 中(なか)に 登場(とうじょう)する 霊(れい)鳥類(ちょうるい) マカシギ科(か)に 属(ぞく)する マカフシギと いう シギの 一(いっ)種(しゅ)に ちがい ありません。」

(10) 「ノラステルダマスは、つぎのように 記(しる)しています。
『マカフシギ、天(てん)より きたる とき、地上(ちじょう)には おびただしい 異変(いへん)が おきるであろう。
しかして  この 鳥(とり)が さった のちに、人類(じんるい)は もっとも たいせつな 友人(ゆうじん)を うしなうのである。
それは 人間(にんげん)が、地球(ちきゅう)を そまつに あつかった むくいであると 知(し)れ。』 」
メールの おわりには、マカフシギの 古(ふる)い イラストの コピーも ついていました。

(11)-(13) p52

(11) そんな こととも 知(し)らず、ノベヤマさんは、 大口(おおぐち)を あけ、よだれを たらしながら、宇宙(うちゅう)では 食(た)べられない ウナ丼(どん)と、寿司(すし)と、おでんと、シャケ茶(ちゃ)づけの ゆめを 見(み)ていました。
そして、その ころ、はるか 地球(ちきゅう)では ノラステルダマスの 予言(よげん)どおり、 信(しん)じられない できごとが おきていたのです。

(12) ポーランドの かたいなかで 学校(がっこう)の 教師(きょうし)を している ジョゼフ・クラウスナーさんは、朝(あさ) 起(お)きて、いつものように すいそうの ミドリガメに エサを やろうと した とたん、こしを ぬかしました。
なんと ミドリガメの マリアに まゆげが はえていたのです。
あっけに とられていると、マリアの 口(くち)もとからは みるみる ふとい ひげが のびてきて、
「しょくん!! 立(た)ち上(あ)がれ。」
えんぜつを はじめたのです。

(13) つぎに、異変(いへん)に 気(き)づいたのは、スペインの マドリッドで 金魚(きんぎょ)を そだてている 図書(としょ)館員(かんいん)、フリオ・セルバンテスでした。
フリオさんは じまんの 出目金(でめきん)に、いつもどおり、
「おはよう。」
声(こえ)を かけた とたん、入(い)れ歯(ば)を おとしました。
まっくろな 出目金(でめきん)から、いつの まにか ピンクの 手足(てあし)が はえて、すいそうの 中(なか)を 平泳(ひらおよ)ぎしているのみ ならず、まもなく 空中(くうちゅう)に 泳(およ)ぎだすと、あけはなした まどから、どこかへ 飛(と)んでいってしまったのです。

(14)-(16) p54

(14) インドで 林業(りんぎょう)を いとなんでいる シャンカールさんは、切(き)りだした ヤシを はこぶ ゾウたちの ゾウ舎(しゃ)に でかけて、
「やだ、信(しん)じられない!」
ヒンディー語(ご)で ひめいを あげました。
そこには、シッポと 鼻(はな)が 入(い)れちがっている ゾウたちが、「鼻(はな)」を ふりながら「シッポ」で 水(みず)を のんでいたのです。

(15) 中国(ちゅうごく)の 四川(しせん)省(しょう)に ある 動物(どうぶつ)園(えん)の 飼育(しいく)係(がかり)、チュウさんは、パンダの 世話(せわ)を する 係(かかり)でした。
いつものように ササの 葉(は)を かかえて 檻(おり)に はいると、そこには いつもと ぜんぜん ちがう けものが いたのです。
とっさに どこが どう ちがうのか、チュウさんは わかりませんでした。
が、しばらく たつと、パンダの 白黒(しろくろ) もようが、ぎゃくに なっている ことに 気(き)づいたのです。

(16) パンダだけでは ありません。
ロシアの ウラル 山脈(さんみゃく)で 動物(どうぶつ)調査(ちょうさ)官(かん)を  している、イワン・ウロンスキは その 日(ひ)、見(み)た ことも ない もうじゅうに おそいかかられました。
いのちからがら、木(き)に よじのぼって、その けものを 見(み)ると、どうやら トラのようです。が、トラの しまもようも 黒(くろ)と 黄色(きいろ)が、ぎゃくの 色(いろ)に なっていたのでした。

(17)-(20) p56

(17) トラと いえば、ライオンにも 変化(へんか)が おきていました。
アフリカの ゴロンゴロ 動物(どうぶつ)公園(こうえん)では おなじ ころ、とつぜん みょうな  動物(どうぶつ)が あらわれたのです。
全身(ぜんしん)が 毛(け)むくじゃらなのです。
カモシカを おそうのですが、毛(け)が 足(あし)に からまって 走(はし)る ことも できません。
動物(どうぶつ)学者(がくしゃ)の ンガイ・ワキマリ氏(し)が しらべてみると 正体(しょうたい)は、体(からだ)じゅうが たてがみだらけに なった ライオンでした。

(18) 南米(なんべい)の ブラジル―アマゾン川(がわ)では こんなふうでした。
漁師(りょうし)の ペドロ・ロペスが いつものように 舟(ふね)を 出(だ)すと、いつもは ワニの たまり場(ば)に なっている 入江(いりえ)に、ワニが 一(いっ)頭(とう)も 見(み)あたりません。
ふしぎに 思(おも)って あたりを さがすと、なんと いう ことか、ワニたちが  いっせいに、木(き)に よじのぼって、歌(うた)を うたっていたのです。

(19) 日本(にほん)の 東京(とうきょう)湾(わん)では、海(うみ)の 汚染(おせん)を しらべていた 潜水夫(せんすいふ)の 田中(たなか)光太郎(こうたろう)が、信(しん)じられない 光景(こうけい)に 出(で)くわしました。
ふかぶかと つもった ヘドロの 中(なか)から、つぎつぎと 貝(かい)たちが とび出(だ)してきたのです。
アサリ、ハマグリ、カラス貝(がい) … 貝(かい)たちは てんでに からを  はばたいては、どろを まいあげて 海(うみ)の 上(うえ)へ 飛(と)びさっていくのです。
そのようすは、まるで チョウチョウのように 見(み)えました。

(20) その ころ 海(うみ)に 出(で)ていた 世界(せかい)じゅうの 人(ひと)たちが 息(いき)を のんでおりました。
ウミガメが、マンボウが、サメが、クジラが、マンタが、トドや アザラシが、つまりは、海(うみ)の 中(なか)で くらしている あらゆる いきものたちが、ヒレを はばたいて、空(そら)に まい出(だ)し はじめたのです。
いちばん いばっていたのは、ちっぽけな トビウオでしたけれど。

(21)-(24) p58

(21) いっぽう、アメリカの アリゾナ砂漠(さばく)では、とりわけ すごい 事(こと)が おきていました。
恐竜(きょうりゅう)の 骨(ほね)を 発掘(はっくつ)していた 古生物学者(こせいぶつがくしゃ)、ジョン・カーペンターは、砂(すな)の  あちこちから むくむくと 起(お)き出(だ)した 骨(ほね)が、あっというまに より集(あつ)まって 恐竜(きょうりゅう)に なっていくのを 見(み)て、気(き)を うしなってしまった ものです。

(22)  「はっ…いけない!!」
ノベヤマさんは、ゆめの 中(なか)で シャケ茶(ちゃ)づけを たべおわった とたん、目(め)を さましました。
あわてて 宇宙(うちゅう)船(せん)の 外(そと)に 目(め)を やります。

その とき、ノベヤマさんは 信(しん)じられない けしきを 目(ま)のあたりに したのです。

(23) 目(め)も くらむ ような 流星雨(りゅうせいう)です。
それも 宇宙(うちゅう)から 地球(ちきゅう)に ふるのでは なく、流(なが)れ星(ぼし)が、地球(ちきゅう)から 天空(てんくう)に  むかって つぎつぎに 飛(と)びさっているでは ありませんか。
まだ、なぞの 通信(つうしん)に 目(め)を とおしていない ノベヤマさんは、その 流星雨(りゅうせいう)が  「地球(ちきゅう)を すてていく」「人間(にんげん)の 一番(いちばん) たいせつな 友人(ゆうじん)」たちの すがただとは、思(おも)っても いませんでした。
流(なが)れ星(ぼし)は、人間(にんげん)いがいの すべての いきものたちに ほかなりませんでした。

(24) やがて 流星雨(りゅうせいう)が おさまると、地球(ちきゅう)は くすんだ なまり色(いろ)に かわりました。
すると、つぎに、地球(ちきゅう)に くねくねと 足(あし)が はえはじめます。
見(み)るまに 地球(ちきゅう)は ―世界(せかい)地図(ちず) もようの― タコに 変身(へんしん)すると、ピュッと スミを はいて、宇宙(うちゅう)の かなたへ 飛(と)んで いってしまったのです。
ノベヤマさんは、あわてて タコの あとを 追(お)いかけました。
「気(き)づいた ときには おそすぎる。ノラステルダマス。」
通信(つうしん)には そんな ひとことが、書(か)きたしてありました。

(おわり)

奥付(おくづけ)

6 マカフシギ物語(ものがたり)

『日本(にほん)の童話(どうわ)』 全(ぜん)7話(わ) 第(だい)6話(わ) マカフシギ物語(ものがたり) (日本(にほん)語(ご)) 準拠(じゅんきょ)

作(さく) 舟崎(ふなざき) 克彦(よしひこ)・三間(みま) 由紀子(ゆきこ)
絵(え) 舟崎(ふなざき) 克彦(よしひこ)
朗読(ろうどく) 高橋(たかはし) 正彦(まさひこ)

制作(せいさく) NPO法人(ほうじん) 地球(ちきゅう)ことば村(むら)・世界(せかい)言語(げんご)博物(はくぶつ)館(かん)

2021.2.7