ことばと文化的背景-東南アジア大陸部
6月19日(日)午後2時から、東京外国語大学本郷サテライトセミナー室で、第5回ことば村フォーラム「ことばと文化的背景-東南アジア大陸部」が開かれました。講師は、東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所教授の峰岸真琴先生です。
峰岸先生は、インドからラオス・タイ・ベトナムなどを含む東南アジア大陸部の言語を専門とする、ことば村の強力なブレーンのひとりです。まず、個人の体験から「○○人は・・」と一般化することは危険ですが、と前置きの後、峰岸先生自身がタイのチュラロンコーン大学に留学した時のお話から始まりました。
ルームメートはみな兄弟
学生寮のルームメートは兄弟づきあいで、お兄さんなどと呼び合う。ちょうど日本でも親族名称のおじさん、おばさんが親族ではない相手にも使われるのと同じです。しかし日本の兄弟関係よりもっと相手に寛容で、相当なことをしても許される。
寮生活,学生生活さらには町中で気づいたことは,人々がゲイを自然にうけいれていることです。タイは一般に個人の行動・嗜好に寛容な社会です。逆に,日本人は年齢,性別によって分断された行動をとりがちです。ベトナムは大乗仏教・儒教圏、インドはヒンドゥー教が大多数なのでまた事情が違いますが。
宝くじにあたりますように
上座仏教では、相手に施すと自分の徳を積むことになる。その結果自分にいいことが起こると考えます。ある意味で極めて個人的なのです。市場で物乞いに何がしかをあげたら「ありがとうございます」ではなく「宝くじにあたりますように」といわれました。つまり、施しをすることであなたにきっといいことがあるよ、というわけです。
こういう考え方ですと、国際援助などに対しても「徳のあるお兄さんが弟を助けに来てくれて、お兄さんの徳がさらに高くなる」ということになり、自立を援助するということの理解はなかなか得られにくいだろうと感じました。
カンボジア語辞書編纂・インド系文字の印字システム開発
東京外国語大学で教えるようになってから、カンボジア語辞書の編纂に取り組みました。日本語をカンボジア語に訳す場合、「あこがれる」などという「手の届かない相手にそっと抱いているような感情」を表すことばを訳すのに苦労しました。カンボジア語はもっと直接行動的というか。好きならそういえばいいじゃないか、というような感じで。
1993年から、トヨタ財団の助成のもと、カンボジア語-ラオス語辞書やインド系文字の印字システム開発に関わりました。インド系文字は子音文字を中心に天地左右に母音記号が並ぶ作りになっていて、フォントを作るのに大変でした。現在もカンボジア文字,ラオス文字などのシステムの開発に関わっています。このような仕事には,文字の構成原理を技術屋に伝えるという文系と理系のチームコミュニケーションが肝心です。その意味で良い経験になりました。」
会場から、「インド系文字の活字はどうやって作るのですか」など質問も飛び、笑いが絶えない楽しい1時間半でした。上座仏教に基づいた考え方など、日本人に親しみのある東南アジアをより深く知ったように思います。
《事務局》