「パプアニューギニアの言語事情」 於ことば村事務所
ゲスト 栗田博之先生
12月のゲストは東京外国語大学の栗田博之先生。専門のフィールド、パプアニューギニアの言語、とくにファス語について、話題を提供してくださいました。
●言語のモザイク地帯 メラネシア・ポリネシア・ミクロネシアの島々からなる地域の最大の島、ニューギニアには400万人の人口に対して700の言語があるそうです。つまり、100人の話者しかいないという言語がごろごろしている。(アマゾンと共通する点)なぜかというと、人の移動がほとんどなく、だいたいが農業を主とした平等社会(金持ちと貧乏という区別はあるが)、互いを隔てるのは地理的な障害のみという世界なので、征服者による言語支配が起こらなかったためです。
●ファス語 なかでもファスの人々の住む地域は開発が遅れていて、都市部で話されているピジン(異言語が混在した共通語)も英語も通じない。ファス語を話すしかない場所。栗田先生が現地に入る前に参考にしたオーストラリアなどの学者による文献では、おそろしく難しい言語だとされていて、覚悟をして行ったところ、語順や主語がはっきりしない点など、日本語とよく似ていることを発見。コソアド(ここ・そこ・あそこ・どこ)や母音調和も共通していて、なんだ、日本人にはしごく分かりやすい言語なんだと思ったそうです。欧米系の学者にとって、理解しにくい構造だったというわけです。
●ファスのひとびと 彼らは大変雄弁な人々で、もめごとは何段階もの裁判で決着をつけます。詩的なレトリックを多用して、互いに熱弁をふるうそうです。初めのころ、栗田先生は、えっ、なんのこと?と分からなかったくらいだそうです。 女性は基本的に下着をつけずに腰ミノ、男性も古着の背広の下はふんどしの場合もあり、栗田先生の持参した紙巻たばこが何よりの謝礼として役立った・・・、そんな村での延べ1年半以上にもわたる暮らしの苦労エピソードが満載のサロンでした。
それにしてもはるか遠く離れた地域に、日本語とよく似たことばがあるのは不思議な感じがします。栗田先生が話すファス語は、カラカラ・・・・みたいな可愛らしい響きでした。