3月のサロンAにひきつづいて、アイヌのことばを知るための講座。今回は子守唄や恋の歌の歌詞などを題材にしました。
アイヌの口承文芸を初めて録音したリトアニアの民俗学者ピウスツキの音源(1903‐5)から英雄叙事詩・ハウキを聴きました。
独特の節回しで歌われています。男性しか歌ってはいけないことになっているそうです。力強い調子は能の謡を思わせます。
女性が歌う神謡・オイナはリフレインをはさみながら軽快に。村崎先生が収録した、最後の樺太アイヌ語の話者・浅井タケさんの歌う昔話・トウイタハは素朴な感情がこもっています。
浅井タケさんの歌う子守唄は
「狩人に拾われた捨て子の女の子が、トンコリを奏でながら、母を慕う唄をうたうーそれを聴きつけたギリヤーク人の女が、この子はわたしの子だと涙を浮かべた」 という内容。
ニヴフ語研究者のG.オタイナさんに、タケさんの歌を聞かせたところ、びっくりして、そっくりの子守唄を知っている、と歌ってくれたものも聴きました。樺太アイヌとニヴフのつながりを感じさせます。
篠崎さんによるトンコリ(5弦琴)の演奏は、繊細で心に染み入るものでした。
きれいな文様が刻まれた胴に、昔は動物の筋やイラクサの繊維の弦、今は三味線の弦が張られています。
奏者によって、調弦もまちまち。楽譜などないので耳で覚えた曲を奏者の裁量で演奏していたそうです。ですから、名前も内容もいつも同じとは限りません。曲というと、題名がついて、いつも同じメロディーのものを思い浮かべてしまいますが、それは西欧音楽の観念なのだ、と改めて納得しました。
胴をかたむけると、からから、と音がします。楽器を作る最後に、胴に「たましい」を入れるのだそうです。なにが入っているのでしょうね・・・。
現代の文化とはまるきり違う考え方・世界観を、 ほんの少し垣間見た時間でした。