地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ことば村・ことばのサロン

2008・10月のことばのサロン
▼ことばのサロン

 

2008年は国際言語年!全日本社会貢献団体機構助成事業
「ホジェンのことばと文化」


● 2008年10月11日(土)午後2時-4時30分
● 慶應義塾大学三田キャンパス西校舎523-A教室
● 話題提供:李林静先生(千葉大学非常勤講師)
● 中国黒龍省チチハル出身。千葉大学で言語学博士号取得。博士論文はホジェンの言語研究。 10回にわたる現地調査で貴重な資料を収集、世界の言語の中でも最も消滅の危機にある言語のひとつ、 ホジェン語の研究成果をあげている若手研究者。


講演要旨

地図

ホジェン語はどこのことばか

 ホジェン(赫哲)語は、ロシアのエニセイ河からカムチャッカ、中国北東部に分布するツングース諸語の ひとつ。ツングース諸語にはエウェンキー語、エウェン語、ナーナイ語、ウデヘ語、満州語、シベ語など12のことばが あり、そのうちホジェン語はジェジンコー(街津口)を中心とするキーレン方言とバーチャー(八岔)を中心とする ヘジェン方言とに分かれる。ホジェン人は中国55少数民族のうち3番目に少ない民族で、人口は4640人、 そのうち母語話者は60歳以上の19人(2001年調査)である。
 日本人としてはじめてホジェンについて調査したのは1809年・間宮林蔵である。

 (右の地図をクリックすると拡大図が見られます。)


ホジェン語の発音と文法

 これまで主としてキーレン方言を調査してきて、去年の夏から、初めてヘジェン方言の調査を始めている。 ホジェン語の母音は5つ、子音は19個あり、ともに日本人にとって比較的やさしい発音といえる。 語順は日本語と同じで、なじみやすいと思う。たとえば―

bi   neu-we-yi   giamse-le   ene-kune-xe-yi
私が  妹 を 私の  佳木斯 へ  行か せ た 私

 映像と音声で実際に聞くことにします。(ホジェンの人々の会話例を映像で見る)

ホジェン語の話者たち

ホジェンのひとびとの暮らし

魚皮衣  昔からホジェンの人々は「魚の民」と呼ばれていた。アムール川支流のウスリー川がチョウザメを はじめとする豊富な魚を与えてくれ、食糧としてはもちろん、皮をなめして衣服や靴などにする魚皮衣文化もあった。 生業としては漁労のほか猟(ノロジカ、鹿、ウサギなど)、採集(キノコ、ベリー類など)だったが、 現在は自然保護ということで猟は禁止され、魚も減ってきてチョウザメは養殖されるようになり、ほかは鯉、ナマズ、 鮭などを捕って暮らしている。一方で観光が大きな収入源になった。夏のシーズンには美しい川と山の風景、 ホジェンの文化を紹介する少数民族村などにひかれて、都市から多くの観光客がやってくる。その中でホジェンの 暮らしは漢人と全く同じ衣服を着て、魚は取れるそばから買い付け業者に売り、自分たちはよろず屋で買って 食べるというように変化した。

ホジェン語について現地のひとびとはどう感じているか

 日常的に話されるのは中国語であり、ホジェン語を話せる場合でも、たとえば子ども に聞かれたくないことを話すときだけホジェン語を使う、という夫婦もいる。母語が無くなりそうな状況に 無関心なひとも多い。また初めて会った時には、ホジェン語を話したがらず(照れているのか、 中国語との優位性の問題なのか?)、親しくなってくると口をひらいてくれる場合もあった。 一方で、日常的にできるだけホジェン語を話し、希望する人にはことばをはじめ魚皮衣の作り方、 伝統料理などを教えているひともいる。ひとりのおばさんは、漢人のお嫁さんにことばや文化を教えて 「私が死んでもこの文化が残るように」と話していた。
 このように、ホジェン語についてホジェンのひとびとの感じ方はさまざまであるが、話すひとの高齢化が進む現状では、 ともかくきちんとした資料を残すことを目的に調査を続けていこうと考えている。

以上
文責 事務局




 北海道対岸という近い場所で暮らしているひとびとの生活ぶりを、たくさんの画像、映像で見せていただきました。 顔立ちも私たちにそっくり、会話を聞いていると、どことなく日本の東北地方の母音の音(i)に近い音が聞こえたようにも 感じられました。
 オンドルがあるさっぱりと片付いた部屋の風景や、戸外での魚のそぼろ調理の手さばき、ひとなつっこいおばさんたちの 笑顔がたくさんあって、なつかしいような世界です。
 最も消滅が心配されている言語のひとつ、ホジェン語を当のひとびとがどう感じているか、それについても 貴重な証言が聞けました。現地で何か月もともに暮らしての調査ならではだと思います。今は観光用に作られている 魚皮の上着・ズボンと靴の実物を、参加者一同手にとって興味深く見せていただきました。「これも、大きな鮭は 取れると業者に売ってしまうため、現地ホジェンの鮭ではなく、北海道産の鮭の皮を使っているんですよ」 李先生のことばに、時代の変化を実感します。伝統料理の作り方なども教えていただき、大変楽しいサロンでした! 

(事務局)