地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ことば村・ことばのサロン

2021・2月のことばのサロン
▼ことばのサロン

 

「ニューブリテン島のことばと文化(コーヴェとベベリ)」


● 2021年2月20日(土)午前11時-12時30分
● Zoomによるオンライン開催
● 話題提供:佐藤寛子先生(ハワイ大学)
● 司会・対談:井上逸兵ことば村村長(慶應義塾大学)
● 当日のパワーポイント・スライドはこちら(佐藤寛子先生提供、PDF、31MB)
  ※ ファイルサイズが大きいのでご注意ください。


講演要旨

 ハワイと東京を結んでのオンラインサロン、話題提供の佐藤寛子先生はパプアニューギニアのニューブリテン島西部で話されている民族語研究の専門家。2001年より北西部で話されているコーヴェ語の調査を始め、2014年からはベベリ語の研究をしている。最近はニューブリテン島南西海岸部で話されているアヴァオ語、アコレット語、ゲリミ語の調査も行なっている。コーヴェはじめ、これらは研究者もほとんど入ったことがない地域である。

 まず、コーヴェに関しては、コーヴェの伝統文化は継承されており、中でも男性の家、精霊のマスク、貝でできたお金はコーヴェ文化の特徴である。コーヴェの各々の村には3−5の男性の家があり、各家族がどれかの男性の家に属し、伝統儀式は男性の家ごとに行われる。また、村でのことは、男性の家で決められ、言わば村の政治的役割を担っている。さらに、各男性の家には代々受け継がれてきた精霊のマスクが存在し、そのデザインは男性の家ごとに異なる。精霊のマスクは、イニシエーションを受けていない人や女性が触ったりするのはタブーとされ、聖なるものと大切に護られている。貝でできたお金は、今でも儀式の際のご祝儀として使われる他食料購入の際にも使われている。

 同じくニューブリテン島北西部に位置するベベリで話されているベベリ語は、消滅の危機に瀕している言語である。おそらく500年以上前にニューブリテン島南西部より山の中を転々としながら生活してきて、1900年前半に同島北西部に定住したと思われる。成人した男性は歯を黒くしたり、配偶者(夫)がなくなったら妻も死ななくてはいけない、歴代のチーフの遺骨を男性の家に飾るなど大変珍しい伝統習慣を持っていたが、1960年代にベベリ地域に州都及びヤシの油のプランテーション工場が作られたことにより、交通の発達や多くの労働者がベベリ地域に移住し異言語同士の結婚などの結果、生活が変化し、パプアニューギニアの公用語であるトクピシン言語が日常生活で使われるようになり、ベベリ語及び文化、習慣が急速に衰退した。その結果、現在では、ベベリ語を多少理解し話せる人が多少いるものの、ベベリの伝統的知識を持ち流暢にベベリ語を話せる話者は70代以上の数名であり、ベベリ語は後世に受け継がれていない状況である。

 コーヴェとベベリは同じニューブリテン島の北西部に位置しているが、文化、言語、民族の特徴など様々な面に渡り全く異なる2つの部族である。

 自分たちの文化に関心を持ってくれた佐藤寛子先生は住民に大変感謝され、コーヴェの村には似姿の像が作られ、飾られているとのことです。言語研究のフィールドワークを志すかたには大変参考になる90分でした。講演と対談の動画は編集後にYouTubeにアップされる予定です。

(文責:事務局)

2021/5/1掲載