地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ことば村・ことばのサロン

2021・4月のことばのサロン
▼ことばのサロン

 

「タンザニア・ボンデイの言語に対する意識とその変化」


● 2021年4月17日(土)午後2時30分-4時
● Zoomによるオンライン開催
● 話題提供:髙村美也子先生(南山大学・人類学研究所研究員)
● 司会・対談:井上逸兵ことば村村長(慶應義塾大学教授)


ボンデイの文化とSNS

 私はスワヒリ語を学ぶためにタンザニアのダルエスサラーム大学に留学した後、名古屋大学で文化人類学博士号を取得しました。長年の調査地はタンザニアのボンデイ民族の村です。今日は私が収集したことわざを通してボンデイの文化をご紹介し、衰退をたどっていたボンデイ語とその文化が、最近SNSによって盛り上がりを見せていることをお話したいと思います。


多民族国家タンザニア

 ボンデイの人々は130もの民族が暮すタンザニアの北東部、タンガ州ムヘザ県南部に住んでいます。タンザニアは1961年にイギリスから独立、1964年にザンジバルと合併してタンザニア連合共和国となりました。タンザニア海岸地方には2000年以上前からペルシャ商人が交易に訪れ、イスラム文化とバンツー文化が混じり、スワヒリ語が公用語・リンガフランカとして話されています。

 ボンデイ語を話す人々の人数は、ダルエスサラーム大学のMuzale R.T. Henry, Rugemalira M. Joseph,(2008)の報告によると約122,000人となっていますが、最近ではもっと少ない感触があります。


民族語禁止の歴史

 タンザニアは独立後に社会主義・脱民族主義を選び、初等教育ではスワヒリ語、日本の中学にあたる中等教育以上は英語が教育言語で、学校でボンデイ語などの民族語使用が禁じられてきました。また、民族の文化・医療なども禁止されてきました。ボンデイの若者も、ボンデイ語が学校で使えない、他民族とコミュニケーションがとれない、公共施設ではスワヒリ語使用、などの理由からボンデイの言語や文化、行事などへの関心を失っていきます。私の調査地のムクジ村でも15年前にはボンデイ語話者は高齢者のみと僅かな中年層および若年層であり、ほとんどの人々がスワヒリ語話者を優勢に使用していました。


政府の方針の変化

 政府は方針を転換し、各民族の文化紹介に取り組むようになり、2017年にはボンデイの文化紹介も実施されました。しかし料理や踊りなど可視化できる文化が対象となった一方で、可視化できない口承文芸などは対象になっていませんでした。


ことわざから見えるボンデイ文化

 これまでにボンデイのことわざを120ほど収集しました。そこから見えてくるのは
「助け合う」
「家族を重んじる」
「怠け者になってはいけない」
「目上や老人を敬う」
「秘密をもらしてはならない」
など、良好な人間関係を保つための智恵や人生観がうかがえます。


新たな展開としてのSNS

 言語や文化の継承が難しい状態が続く中、全く新しいとりくみが生まれました。2017年頃から普及し始めたスマートフォンを使うSNS上の言語・文化の拡散です。確認出来た範囲では、フェイスブックにはボンデイの文化にまつわるグループが三つあります。非公開で会員紹介が必要なグループですが、それぞれ数千人のメンバーがいます。

① Wabadei Familia Groupe (ボンデイファミリーグループ)
② Bonde Kaya (ボンデイは実家)
③ Tanduni Za Bondei Tihamwe(ボンデイ文化 さぁ、集まろう)

 これらのSNSに若者がボンデイのことわざなどをボンデイ語で投稿し、毎回「いいね」が付いています。例えば
●「危険にさらされるバナナの木は実をつけた親」=親は実の重さで倒れるバナナの樹のように、子どものためなら身を削る→「親のありがたさを感じ、親を大切にしよう」
●「矢の実家は森」=射った後見失った矢は森に帰った→「実家を大切にしよう」

 ことわざ以外にも、料理や行事などの写真もアップされていて、このような投稿に、20代、30代の若者が自分たちもボンデイ語でコメントを書き込んでいます。

 ボンデイ語を日常言語とはしないまでも、自民族の文化を大事にしようという傾向が高まっているのが感じられます。これまではボンデイ語は消えていくという予測でしたが、インターネットの世界に取り上げられることで、民族意識の覚醒が起こってきている。大変興味深い現象で、この先の展開が注目されます。


(文責:事務局)

2021/5/1掲載