地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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ことば村・ことばのサロン

2021・8月のことばのサロン
▼ことばのサロン

 

「いま必要な英語力を考える」


● 2021年8月7日(土)午後2時-3時30分
● Zoomによるオンライン開催・対談
● 話題提供:北村一真先生(杏林大学外国語学部)
● 司会:井上逸兵ことば村村長(慶應義塾大学)
● 動画(ダイジェスト版「『英語が読める』の本当の意味は?」)
  https://youtu.be/XGyn5nlncSI
● 動画(ダイジェスト版「北村一真先生と英語新書ブームを語る」)
  https://youtu.be/w69O0zDWJwk


対談要旨

司会:北村一真先生は現在杏林大学外国語学部の准教授でいらっしゃいますが、慶應義塾大学英米文学科・唐須教光研究室の私の後輩にあたり、以前から親しくさせて貰っています。
 北村先生の2019年出版の最初の著書「英文解体新書」は大学院生以上のレベルの難しい内容にもかかわらず、2万4千部のベストセラーになり、続いて今年3月に出された「英語の読み方」は5万5千部という、驚異的な販売数になっています。
 「英文解体新書」はそれ以前のツィッターの記事が元になったのですね?
北村:一部はそうです。ツィッターのアンケート形式という機能を使い、クイズを掲載していたのを出版社が興味を持ってくれ、出版に至りました。ツィッターのフォロワーが予約してくれたこともあり、発売日前に重版になるかもしれないという話が出ていました。フォロワーは現在のところ1万2千人くらいでしょうか。


今、英語を読む力がどんな意味を持つか

司会:現代に問われる英語力とは何か、がこのサロンのテーマですが、英語は「読み書き」だけではダメ(聴く話すが大事)という伝統的な言い方は正しいでしょうか。
北村:そうですね、むしろ、現在、日本語も含めて全体的に「読む力」が落ちているという問題が注目され始めているのだと思います。
司会:「英語の読み方」の中で、ある水準までの読む力が話す力の分水嶺になるという指摘がありました。
北村:これまでは「読める」基準が甘かったのだと思います。読む力のレベルをあげれば、スピーチやニュースをネイティブスピードで聴けるようになります。逆に大学入試問題の英文がスラスラと読めないのに映画の台詞を楽しく聴いたりするのは難しいですね。
司会:英文を前に戻って訳したりせずに読める、ということですね。


英語で話す力はどうか

司会:話すという点では、例えば道を聞かれた時に、ぱっと答えられるかということがよく言われますが。
北村:そうですね、最初そこから入ると英語が固まってしまって伸び悩むという問題があると思います。感覚で身につけたものを、理屈に落とし込むのはむずかしいのですね。反省的な学び、読解や文法を重んじない学び方がどこかの段階で必要になってきます。
司会:なるほど。サッカーの中田英寿選手はイタリーのチームに入ったとき、まずサッカーの決まり文句を覚え、次に日常生活の言葉を覚え、それで生活できるようになった上で文法を学んだ、と読みました。この意識がないと上に行けないのですね。


最新著書「英文解体新書2」~最近の英語ブームについて

司会:最新のご著書「英文解体新書2」は文例の大半をシャーロック・ホームズから取られているのですね。
北村:はい、もともとコナン・ドイルが好きでホームズはかなり読んでいましたから。もちろん執筆にあたって全て再読しましたが、ホームズは長編でも短いのです。ですから時間がかからずに再読できました。以前ヘミングウェイに特化した出版例もあって、出版社と自分の好み、双方の意図でホームズになったのです。
司会:最近は新書で英語本がブームになっていますよね。少し前ですが今井むつみさんの「英語独習法」が10万部以上売れました。この本も基礎が出来ていないと伸びないという主旨で、北村さんのおっしゃることと同じ流れですね。また鳥飼久美子さんの「本物の英語力」も売れています。鳥飼さんは、普通のことを普通に言っただけだ、とおっしゃっていましたが。
北村:現在の読者は精読の教育を受けた年配の方も多いです。この方たちは英語を話すことに対する苦手意識のようなものもあり、この読者層にとってこれらの本は今までやってきたことの承認にもなっているのではないでしょうか。


ウェブ上の英語素材を活用する

司会:インターネット上で、簡単に英語で文章が読める、その実用的な意味が高まっていると思います。外国メディアを直接読めるとバランスのある世界の見方ができるのではと。学生たちにもウィキペディアで調べ物をするときは、英語版にも当たるといい、と常々言っています。
北村:そうですね。ウィキペディアも英語版はページ数が日本語版より圧倒的に多い。日本に関することがらでも、英語版しかない場合があります。僕もツィッター上で英語圏以外のものも含め海外有力メディアをフォローしています。またYouTubeの動画は、特にニュースなどはリスニングの良い教材になりますね。


読む方向への指導~学校での英語教育

司会:英語を読むようにしむけるにはどうしたらいいとお考えですか。
北村:もともと読んでいた人と、もともと読まなかった人、つまり読書習慣があるかないかで違うと思いますが、まずはその本が扱っている内容をそこそこ知っている、例えば自分の好きなものの紹介の本などを読むといいのではないでしょうか。
司会:現在の学校での英語教育についてはどう思いますか。
北村:今は塾で教えたりしていないので・・・。ただ、品詞を知らないので文法を教えても意味が分からないケースがあります。「読む」ことから、教育現場が離れてしまっているのではないでしょうか。読む力があれば、書く力にも結びつきます。


機械翻訳について

司会:機械翻訳についてはどう考えますか?
北村:機械翻訳は、現在8割くらいは正答するレベルにまできています。そういうと学生はショックを受けますが。しかし、重要なところを訳していなかったり、悪文になっていたり、はあります。英語のできる人なら訂正できますけど、できない人はうまく使えない場合がある、ということですね。一方で訳したい箇所だけでなく、文脈も入れると正答率があがります。機械翻訳のレベルは上がっていると言えるでしょう。


質問に答えて

司会:チャットで質問が寄せられています。
「原文が非英語の場合は英訳で読みますか」
北村:一部、ドイツ語などは原文を見たりもしますが、基本は英訳で読みます。構造的に日本語より原文に近いものが多いので読みやすいです。
「難しい本の場合、横に日本語翻訳本を置いて参照してもいいでしょうか」
北村:中級くらいの英語力があれば、参照していいのではないでしょうか。
「英作文の能力について、現状をどうお考えですか」
北村:自分も読めるな、と思った後に、作文ができなくてショックを受けた経験があります。読む場合は日本語で補って読むけれど、作文にはその方法が援用できませんから、別の力と言っても良いですが、一方で読解力が上がれば書く力も上がるものです。
「母語話者のように書くにはどうしたらいいでしょうか」
北村:母語話者と同じように書けなくても、母語話者や英語話者が読んで分かる、というレベルで充分だと思います。言語学者のD.クリスタルでもつい現代英語にはない言い方をしてしまったと言っていたり、シェイクスピアの作品の中に、典型的なミスとされている文法が出て来たりもします。ネイティブ信仰に毒されすぎるのはよくありません。
「世界には多様な英語があります。共通語としての英語の必要性を感じますか」
北村:必要とは考えません。また、意図的に言語を固定したり創造したりするのは難しいです。出来た瞬間から変化していくものだと思いますから、現実的には難しいと思います。


これからの予定

司会:時間になりました。今後の予定をおきかせください。
北村:受験レベル以上の英単語を集めた単語集の企画があります。単語力、語彙力、そのことばの背景知識があれば、英語力はアップしますから。
司会:楽しみです。今日はありがとうございました。


(文責:事務局)

2021/8/17掲載