地球ことば村
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ことば村・ことばのサロン

2021・9月のことばのサロン
▼ことばのサロン

 

「中国広西チワン族のことばと口承文芸について」


● 2021年9月25日(土)午後2時-3時30分
● Zoomによるオンライン開催・講演と対談
● 話題提供:黄 海萍先生
(一橋大学大学院言語社会研究科特別研究員/国立国語研究所プロジェクト非常勤研究員)
● 司会・対談:井上逸兵ことば村村長(慶應義塾大学)


司会:黄 海萍(コウ カイヘイ)先生は、ご自身が属する中国広西チワン族の言語と文化の保持と継承を大きなテーマとして研究をされています。現在、一橋大学大学院言語社会研究科特別研究員、国立国語研究所プロジェクト非常勤研究員、法政大学非常勤講師をお勤めです。2011年4月に留学のため来日され、コロナ禍以前はチワン族自治区と日本を行ったり来たりフィールドワークを続けてこられました。コロナで往来が出来なくなった現状は、言語学者、文化人類学者などフィールド研究が必要な分野にとって、本当に辛い状況です。今日はTVなどメディアで取り上げられることの少ない中国の文化の一面をうかがえると大変楽しみにしております。


講演要旨

はじめに-講演の目的と内容

 昨年12月のことわざフォーラムに続いて、チワン族のことばと文化を一般の皆さまにご紹介できる機会をいただいて、わくわくしています。今日は中華人民共和国(以下中国)の南部にある広西チワン族自治区に住む中国最大の少数民族である広西チワン族(壮族)自治区のことばと口承文芸の一部をご紹介します。


クイズを5つ

 まず、クイズです。これは何だと思いますか? バナナの葉っぱなどで巻いて裂いた竹の糸で結んだ食べ物です。これはチワン族のチマキです。日本で作られる中国チマキは三角形が多く、この四角のチマキは日本では知られていません。お正月および旧暦5月5日などの日に食べる食べ物です。餅米を用いて作り、緑豆、豚肉がいっぱい入った食べ物ですね。



 これは何でしょうか。草や花、植物の葉っぱで染めて蒸したあざやかな五色の餅米ご飯で、旧暦の3月3日に食べる食べ物ですが、赤い色の餅米のご飯は、日本のお赤飯と同じで、おめでたい日に食べます。


 このおばあさんたちはこれから何をしようとしていますか?草餅を作るのです。日本と同様にヨモギも使いますが、地域や家庭によって様々な草を用います。


 これは何でしょうか。これは水のきれいな谷や川などで獲った草魚や鯉などの淡水魚の刺身で、塩や酢に唐辛子と漬物を添えて食べます。私が小さい頃はお正月によく食べましたが、最近は環境汚染が進んできれいな水で育った淡水魚が手に入らなくなり、大変贅沢で高価な、お店で食べる食べ物になってしまいました。


 最後のクイズです。これは何だと思いますか?これは、中国とベトナムの国境を示す石碑です。中越国境には徳天瀑布(バンゾックの瀧)があり、チワン族の徳天村とベトナムのカイン県ダムトゥイ社の間を流れています。


チワン族の暮し

 衣服としては色彩鮮やかな錦が有名です。しかし普段の服装は紺色あるいは黒っぽい地味なもので頭には頭巾を巻いたり、帽子を被ったりします。男性の民族衣装はもう見られず、漢民族と変わらない服装をしています。



 住居は高床式(1階は家畜や物置用・2階は家族用)と高床式ではないタイプの二種類があります。


チワン族自治区

 チワン族は中国最大の少数民族でその9割近くは広西チワン族自治区で生活し、そのほかにも雲南省、広東省、貴州省などに広がっています。広西チワン族自治区の人口は、2020年調査では漢民族が約3,132万人(62.48%)11の少数民族全体で約1,881万人(37.52%)、そのうちチワン族が約1,572万人(31.36%)を占めています。中国南部、ベトナムと国境を接し複数の陸路による出入国エリアを持っています。面積の約70%が山地・丘陵・石山であり、鉱物資源が豊富でマンガンなど12種類の鉱物の埋蔵量は中国全国1位だと言われています。産業は砂糖、セメント、鉄鋼など。観光地として桂林が有名です。


チワン族の言語

 チワン語はチワン族の言語の総称で、タイ・カダイ語族に属する言語だと言われています。チワン語は北部方言と南部方言に大別され、北部方言はタイ諸語の北方タイ諸語、南部方言はタイ諸語の中央タイ諸語に属するとされています。
 ちなみに私の故郷、天等県は南部方言地域です。


 チワン語の特徴についてご紹介します。まず、チワン語の基本語順はSVO (主語+動詞+目的語/補語)です。例えば、日本語では「兄がご飯を食べる」を言いますが、チワン語では「兄+食べる+米(ご飯)」と言います。次に、チワン語は形態(語形)変化がない言語で、動詞には文法範疇としてのテンスもなく、副詞、時間名詞などによって、時制が決定されます。それから、修飾語は、被修飾語の後ろに付く特徴があります。例えば、日本語では「高い山」と言いますが、チワン語では「山+高い」と言います。日本語の「私のお金」はチワン語で「お金+私」と言います。
 また、「私が彼に本をあげた」という日本語のやりもらい表現では、間接目的語と直接目的語の位置が同じ系統のタイ語とは異なります。例えば、タイ語では、「私+あげる+本(直接目的語)+彼(間接目的語)」ですが、チワン語は二つの語順をとることができます。1つは、「私+あげる+彼(間接目的語)+本(直接目的語)」です。もう一つは、「私+取る+本(直接目的語)+あげる+彼(間接目的語)」です。


チワン語の使用状況

 近年、漢語教育の浸透やラジオ、テレビなどの音声メディアの普及に伴い、中国の少数言語は急速に衰退し、チワン語もまた消滅の危機に瀕しています。チワン語は危機に瀕している言語だと考えていいです。
 チワン族の子供たちは漢語を学習し、先祖から受け継いだチワン語を捨てようとしています。若い人、特に10代の子供たちはチワン語が話せなくなっているので、孫とひ孫とのコミュニケーションをはかるため、 80代の高齢者が漢語を学習し始める事態が起きています。
 文字は、チワン語特有の古い文字もありますが、その使用範囲はごく限られており、基本的には漢字が使用されます。


チワン語の表記の歴史と正書法

 チワン語特有の古い文字は「方塊壮字」あるいは「古壮字」、「土俗字」と呼ばれ、漢字の造字法を真似た独自の文字です。漢朝次代から使われ現在でも道士の写経、歌の覚え書き、家系図の表記などに使用される「生きている文字」です。しかし、規格化されていないため、地域差や個人差があり、漢字よりも煩雑で習得が困難なため普及していません。
 ローマ字表記による標準チワン語正書法も存在しています。しかし漢語四声(ピンイン)との整合性を図ったために、実際の方言とはかけ離れていて普及していません。使われているのは政府の公文書・出版物以外では新聞「広西民族報・壮文版」や雑誌「三月三」の二つのみです。
 チワン語正書法は中国の民族政策の一環として50年代に成人教育に取り入れられましたが、文化大革命の際に止められ、1982年に一度改定されたものの学校教育にはあまり使われていません。表音文字については、1959年の新聞に、ソ連の言語学者セルヂュチェンコがチワン語標準音の選定を指導したことが載っています。


チワン族の昔話について

 口承によってのみ生み出され受け継がれてきたチワン族の昔話のほとんどが記録に残されないまま消えつつあります。また、研究も少ないため、どのような物語が伝承されてきたのかも分かりません。
 中国語による記録が50年代~80年代にありますが、直訳なので中国語とチワン語両方ができないと理解しづらいため、あまり利用されないです。

 日本で読めるチワン族の昔話は絵本「チワンのにしき」があります。(ポプラ社 1969年)私が日本に来て初めてこの本を読んだとき、泣きました。祖父母から聞いたのは長い物語の一部で、全体が読めるのは日本のこの絵本だけです。チワン族にとっても貴重な本です。そのほか「中国現代文学撰集 20 少数民族文学集 神話 伝説 民話 民謡 叙事詩 記録文学」(平凡社 1963)にもいくつかの昔話が収録されています。
 宣伝になりますが、私自身が子供の頃から中学校にかけて、祖父が語り聞かせてくれた16のチワン族の物語を文字化し、家族や村の人々に確認しつつ、日本語に翻訳しました。
 ⼀氾⽂学会機関誌「半⽂」に2019年2⽉から2021年8⽉ にかけて連載しました。(以下のURLで読めます)
https://litteraegenerales.net/bulletin-half/2019/zhuang-tales.html

 今後は、この16の物語のチワン語音声データを公開し、資金や機会があればこれらの物語を元にした絵本を作りたいと考えております。現在もスカイプなどの方法によって、オンラインにおける昔話の収集を続けております。チワン族の昔話が再びチワン族の人々に読んでもらい、昔話の教訓・知恵を生活に生かせることを願っております。
 (昔話を2例「熊人と娘」「秘伝の処方箋」紹介)


チワン族の歌謡・歌の掛け合い

 チワン族の歌謡には子守唄、1人で歌う歌謡、複数人(2人以上)で歌う歌謡、複数人(2人以上)で歌う歌の掛け合いがあります。本日ここで子守唄を除く歌謡をご紹介します。いずれも動画をお見せしながらご紹介します。なお、複数人(2人以上)で歌う歌の掛け合いは、昔の日本にもあった歌垣のようなものですね。チワン族は歌が好きで、広西チワン族自治区は「歌の海」と呼ばれるほどです。しかし、チワン族の歌謡の旋律・押韻体系は解明されていないものが多くあります。
 チワン族の歌謡に用いた旋律が地域毎にあります。特に歌の掛け合いはそうです。旋律が違うと、歌詞は聞き取れなまえん。例えば、私の出身地・天等県から隣の県に行くと、チワン語自体は聞き取れても、旋律が分からないので歌の意味は聴き取れません。ですから、歌の掛け合いは基本的に、同じ押韻体系、同じ旋律で行われます。異なる旋律を用いた歌の掛け合いができないのです。最近は、歌手の高齢化と若い世代のチワン語運用能力低下に伴って、歌も伝承されない地域が増えつつあり、今後益々そうなるだろうと推測します。掛け合いは即席の歌詞で歌われますから、チワン語の能力が必要なのです。歌の例を聞いていただきます。
 (田林県の歌謡「村の賛歌」の動画 歌唱と歌詞の朗読)
 歌詞だけを聴くのと、歌唱を聴くのとは全然違い、チワン語と旋律の両方が分からないと理解できません。漢語や中国語教育を受けた若者は、家庭でお年寄りからチワン族の伝統歌謡を学ぶことが減り、伝承されにくいのです。
 (複数人で歌う歌謡「今夜の満月」の動画 女性が男性に恋を語る情歌)
 この歌はメロディーが伝わっていないので、チワン族の周祖練さん(中央民族大学出身、音楽専攻、現在は広西壮族自治区田林県文化館副館長)が作曲し、伝統的歌詞に付けたものです。周さんのような音楽の知識を持つチワン族が少ないため、このような歌の復興活動はまだ進んでいません。また、チワン語の記述研究がまだ進んでいないため、母語話者に利用されやすい辞書や教材も欠けています。私は今チワン語の記述研究を進め、今後チワン語の辞書や教材を作りたいと考えております。こういう歌の記録に貢献できたらを願っています。
 (歌の掛け合いの動画)
 道ばたや公園の休憩場所などで男女のグループが、知らない人同士でも歌を歌い始めます。今晩何を食べたか、のような会話や冗談も歌になるのです。男性が歌の本を見ながら歌を始め、女性は何も見ずに即席の歌で答えます。このような掛け合いが行われている地域はとても少なくなり、私の故郷でも小さかった頃は市の立つ日にはおじいちゃん、おばあちゃんが歌っていましたが、今は見られません。現在でも歌の掛け合いが盛んに行われているのは広西チワン族自治区の苹果、田林、靖西、徳保県などです。


歌本


行事に使われる呪文・祈祷歌

 チワン族は先祖崇拝、自然崇拝と多神崇拝であるため、行事や季節によっていろいろな儀式を行います。先祖崇拝はほとんど毎日、行事の時、出かける時、家にもどる時に参拝します。唐・宋以降、仏教、道教が前後にしてチワン族地区に入ってきたため、仏教、道教を信じる人が多いと言われています。近代になって、キリスト教とカトリックもチワン族地区に入ってきましたが、大きな影響を及ぼしません。
 しかし、今でも行事・儀式を行う際、巫女・シャーマンによる祈祷が行われる習慣があります。その際に、呪文・祈祷歌は巫女・シャーマンによって歌われます。

 行事の際は巫女やシャーマンを家に招き、祈祷してもらいます。どちらを招待するか、好みにもよりますし、お金持ちは両方とも招待する場合があります。巫女さんとシャーマンの役割の区別は、実ははっきりとは決まっていません。私の実家の地方ですと、お葬式はシャーマンで、出産祝いや結婚祝いは巫女さんが来ることが多いですが、両方を呼ぶこともあります。また通常はひとりですが、大きな行事の時は複数人を呼ぶこともあります。
 参列者で祈祷歌を歌える人は歌の一部を巫女さん、シャーマンと一緒に歌うことも、掛け合いで歌うこともあります。巫女さんの服装は赤系が多く飾りのついたかぶり物をかぶります。
 巫女さんの呪文・祈祷歌には経典がありません。文字の記録がないので、巫女になりたい場合は巫女さんに弟子入りし長年かけて覚えるしかありません。従って巫女の歴史も、呪文や祈祷歌の内容も明らかになっていません。
 (巫女の祈祷歌の動画)これは魂を呼び返す歌です。(巫女の祈祷歌の動画)これは神々に向けて地域の安定と人々の健康を祈る歌です。
 シャーマンは、道教の男性で、主になるシャーマンは大体長い赤っぽい服、弟子は青系の服を着ています。特定の時期に行う自然崇拝の行事や、何かその土地に不安なことが起こったときにする祈祷、誕生日や葬式の祈祷もあります。(シャーマンの祈祷の画像)祈祷には経典を使用して読み上げたり歌ったりする点が巫女と異なります。(シャーマンの動画)経典の文字は漢字と、チワン族独自の「方塊壮字」も使われます。


シャーマンの経典


まとめ

 今日はチワン族の暮し、チワン語とチワン族の口承文芸のご紹介を目的としました。それぞれの口承文芸に使われることばの分析や、口承文芸に関する考察までには至っておりません。それらを今後の課題にしたいと考えております。


紹介したい参考文献

★手塚恵子(2002)「中国広西壮族歌垣調査記録」:大修館書店 ビデオ付
日本に来て初めてこのビデオを見てとても感動しました。
★塚田誠之(2000a)「国立民族学博物館研究叢書3 壮族社会史研究―明清時代を中心として」:国立民族学博物館
★塚田誠之(2000b)「壮族文化史研究―明代以降と中心として」第一書房
私をチワン族チワン語の研究に導いてくれた本です。塚田先生にはお目にかかったことはありませんが、この場を借りて感謝したいと思います。


謝辞

 チワン族のことばと文化についてお話する機会をいただきサポートしてくださったみなさま、ありがとうございました。
 写真と動画を提供してくださったチワン族の許曉明さん(広西壮族自治区非物質文化遺産保護中心=広西チワン自治区無形文化遺産保護センター)、周祖練さん(広西壮族自治区田林県文化館副館長)、李春建さん(広西八骏珑文化传媒有限公司)、およびご協力くださったチワン族の皆さまに心より感謝を申し上げます。ありがとうございました。
 お話は以上です。ご清聴ありがとうございました。


対談

司会(井上村長):ありがとうございました。純粋に面白かったし、なによりカイヘイさんのチワン族への愛情と情熱が感じられたお話だったと思います。後半のビデオによる紹介は大変インパクトがありました。すでにチャットで質問が寄せられています。歌謡の動画の部分で「タイ語やベトナム語に似ている」などのコメントがありました。

黄先生:そうですね。チワン語はタイ語と同じくタイ・カダイ語族に属していますので、似ています。動画の歌謡はチワン語北部方言ですが、北方タイ諸語に属しています。 ベトナム語はモン・クメール語族ですが、やはり声調言語なので、言語接触があって感覚的に似ています。私は国境地帯の出身なので、小さいときに簡単なベトナム語を学んだり、聞いて覚えたり、ビジネスの交渉をしたりしてきました。チワン語とベトナム語、単語などは全然違いますが。

司会:なるほど、そういうことですね。私の素朴な疑問ですが、旋律が違うと歌詞も聴き取れないというお話でしたが、それは声調と旋律が合っていないということなのか、どういうことでしょうか。

黄先生:これはまだ解明されていませんが、声調と旋律が合っていないという訳ではありませんが、同じ声調が読む時と歌う時の聞こえが異なります。実際、声調は旋律の中に変化したのですが、その変化のメカニズムは調査中で、今音響分析をしているところです。将来連載の形で公表する予定です。

司会:チワン語は危機言語だとおっしゃいましたが、人類にとって残していくべき大切な資産だと思います。これからもカイヘイさんに頑張っていただきたいです。質問です。「タイ語とチワン語は互いに通じるのでしょうか」

黄先生:タイ語にも方言がたくさんあります。チェンマイやバンコックでは、簡単な日常生活の話は通じます。ただし、チワン語は漢語の影響が強い、タイ語にはパーリー語などの言語の影響があるので、どこまで通じるかはわかりません。

司会:今は国境がありますが、もともとは連続して暮していたのでしょうね。外語大の峰岸先生から、「タイ語の歌詞だと一番はメロディーと声調が一致していても、二番になると合わなくなることがある」というコメントをいただきました。
 次の質問、私も思ったのですが「歌の掛け合いはナンパみたいな感じでしょうか」

黄先生:例えば、タバコを吸っている男性たちに対して、やめてほしいけれど言いにくい女性たちが歌で伝えることがあります。また買い物でちょっと高いな、という時に売っている男性に歌で伝える、これは小さい頃によくありましたね。

司会:面白いですね。直接言わずに歌で間接的に伝える。

黄先生:はい、お互いに。それで安くなったりして。

司会:それは面白い。しかしナンパの場合もある?

黄先生:それもあります。女性と話をしたい男性が歌の本を見て、情歌をその場で歌うこともあります。歌がかみ合うように、歌の本にあるように決まった型に沿って答えて貰います。

司会:「歌の本を見ながら歌うというのは字が読めるという優越感もありますか」との質問です。

黄先生:それもあります。チワン族の古い文字が読めるのだという意識ですね。チワンの古い文字で読める人がランキングの一位、漢字で読むと歌がずれるのでランキングの下になります。中国語のピンインや標準チワン語表記で記録して歌いたい若者もいますが、それは初心者だとみなされます。

司会:なるほど、本を見て歌う意味があるわけですね。それから「掛け合いの旋律も即興ですか」という質問です。

黄先生:即興ではなく、地域によって決まった型があります。歌の旋律がかなり違います。その違いは母語話者でないと聞き取れないかもしれませんが。

司会:「漢語化する前の、チワン族本来の姓名のシステムは?」という質問です。

黄先生:多分、漢語化した名前の付け方の歴史が長いので、知る限りではチワン族独自の名前の付け方はないですね。ただ、ニックネームというか愛称で、漢語の名前と違う呼び方で呼ばれます。私の場合はカイヘイで、意味は海藻の一種で浮き草です。それが先につけられ、後でその呼び名と一致する漢語が選ばれる。私の場合は海萍ですね。

司会:海藻、というのは何故なんでしょうか。

黄先生:実家は山奥なので、祖父の願いは海の向こうへ行きなさい、中国と日本の間の海は黄海。黄海の海藻(浮き草)になれば、海の向こうに行けるという理由で、「萍(へい)」と名付けられました。

司会:あぁ、希望とか夢、なんですね!愛称はそういうことで付けられるのですか?日本でもありますが。

黄先生:一概には言えません。それに、今の若者が漢語教育で育ちましたから先にチワン語の愛称をつけて、後でそれを漢字で表記することも無くなってきました。

司会:学校教育でチワン語の授業は無いのですか。

黄先生:無いですね。

司会:そうするとチワン語を護ろうとするのはカイヘイさんのような研究者以外には?

黄先生:少数民族保護という政策があるので役所が歌謡の記録などしています。また、校長が希望すれば標準チワン語を授業に取り入れることは可能です。ただし、教えられる教員がほとんどいません。一年一度チワンのお祭りをするような学校はありますが。

司会:ますます若者は知らなくなってしまう、という循環ですね。残念に思います。両方できればいいのに、と。「歌や踊りを見ると、チワン族の方々は穏やかな人たちに見えます」実際、穏やかな方が多いのですか?

黄先生:穏やかで心優しくて、陽気な人が多いですね。年に1~2度の祭りには知らない人でも招き入れて一番良い料理やお酒を振る舞う習慣がいまだにあります。チワン語で<ロントン>と言います。<トン>は畑、「ロン」は降りる、「ロントン」は「畑に降りる」 というような意味ですね。ただ、都会化政策があって、村だった頃のようにはいかない町も増えてきています。

司会:都会化・文明化に関していえば、一方ではインターネットを介してのフィールドワークもできる、というようなことも。

黄先生:はい、現地の方々にボランティアで動画などを撮って送ってもらいます。ひとつ、お応えしたい質問ですが、最初にご紹介した5色の「ご飯の色には意味がありますか」ですが、赤はおめでたいという意味、黒は排毒効果・健康の意味、ほかの色ははっきりしていません。

司会:最後に、寄せられた感想をひとつ。「中国は○○だ、と一言でくくれない多様性を感じました。」まさしくそういうことだと思います。 今日は大変面白いお話をありがとうございました。今後も調査研究を頑張ってください。地球ことば村としても応援したいと思います。


(文責:事務局)

2021/12/5掲載