地球ことば村
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アイヌ語

アイヌ語は北海道を中心に24000人以上の話者人口を持つ言語です。日常会話 では使用されませんが、潜在的話者は少なくないと思われます。アイヌ語と他 の言語との系統関 係は、未だによく分かっていません。インド=ヨーロッパ語 族ア ルタイ諸語と関連づける説もありますが、まだ証明にはほど遠い状況で す。ただし、日本語とは古くから隣接していますので、お互いに共通する語彙 が数多く見られます。特に宗教関係の語彙に多くヌサ「幣」、タクサ「手草」 (草を束ねてお祓いに使うもの)、オンカミ「おがむ」、ノミ「祈る」(日本 語の古語に「祈む(のむ)」という動詞がある)、トゥキ「杯」など、両者の 関係の深さを伺わせます。

アイヌ語の文法的特徴として有名なものにインコーポレーションと呼ばれるも のがあります。これは動詞の外にある名詞句や副詞を動詞の内部構造として取 り込み、さらに主語や目的語の人称をも接 辞をもって表して、完全な文に相当 する内容をひとつの動詞として表現するというものです。アジア北方の諸言語 では特にチュクチ語にアイヌと近いものが見られます。

アイヌ語は日本語と同じくアイウエオの5母音であり、子音の数も日本語より 少なく、音節構造も子音+母音+子音という簡単なものです。これが大きな理 由となり、初期(大正時代)こそヘボン式のローマ字を用いて表記されました が、その後は主にカナ表記をベースにして、音節末のp、t、kを表すのに小 さなプ、ツ、クを使ったり、tuという音節を表すのにト゜やツ゜という文字を使 うなど、いろいろな人がそれぞれに工夫を凝らして表記していますが。徐々に アイヌ語の表記法の統一も行われつつあります。

アイヌ語のアクセントは高低の区別によるもので、しかも日本語に比べてはる かに簡単なシステムです。ですから日本語の話者にとっては、アイヌ語はむし ろ発音しやすい言語と言ってよいでしょう。樺太にはこの他に長母音と短母音 の区別があり、音節構造も北海道の方言とは違いもありますが、北海道方言の 中での発音差はほとんどありません。

アイヌの人びとの多くは現在に日常的には他の日本人(和人)とまったく変わ りのない生活を送っています。ただ、自分たちは和人とは別の伝統を背負って 生きているのだと意識している人たちも少なくありません。そのような人たち を中心に最近ではアイヌの文化復興運動も盛んに展開されています。

《中川 裕、言語学、柴田 武編『世界の言語小事典』(大修館書店)「アイヌ語」より(2005年掲載)》