からだとことば
言語表現に身体部分を使うことがある。たとえば「腹」。腹心、業腹、腹案、腹が立つ、腹に一物、腹にすえかねる、腹黒い、腹蔵なく、
腹を割って、などなど。
白川静の字書『字通』によると、腹とはモノを量る量器で、器の腹の大きなものを意味するとある。いったい腹はなにを量っているのか。
上の日本語表現では、どうも「腹」は感情や思い、たくらみの入っているところであるらしい。そういえば、頭から爪先まで伸びるだけ延ばし、思いを天に放
つような西欧のバレー表現にくらべると、日本舞踊は一度からだを伸ばしても、ぐっとそれを引き戻し、大地に近づこうというように重心を「腹」に落として、
思いを表現する。そういえばタイの舞踊もその感じがある。タイでは「腹」はなにか特別な意味をもつのだろうか。また、ほかの言語では日本語の「腹」のよう
に頻発する身体部分があるのだろうか。
自分の身体は自分の魂・意識の容れ物であり、自分にいちばん近いモノである。それを使って内面を表現するというのはとても自然なことだから、多分世界中
にこのような表現があるのだろうと思う。それを調べていくとそれぞれの文化の特徴にまで行き着くのではないだろうか。「腹」の文化と「頭」の、あるいは
「心臓」の文化といったように。 《三間由紀子、事務局》