「九族文化村に流れた東京音頭」への投稿
九族文化村の記事、楽しく拝見いたしました。思い切って山地の年寄りたちに 声をかけて、あいさつの言葉を記録していらした由、さすがですね。感心しま した。小生ももう20年も前に訪ねたことがあります。あまり変わっていない みたいですね。でもあのころはケーブルカーはなかったような気がします。
この数年のうちにそれまで平埔族として一括して扱われていたサオ族、カバラ ン族、それからタイヤル族の一部セデックのさらに東海岸に住んでいるタロコが タロコ族として独立を認められ、9族から12族に増えました。この調子ではま だまだ数は増えるでしょう。学問的には困ったことですが、時の流れというもの でしょうか。
あそこで働いている原住民の人たちは、みんな2,3ヶ月、あるいは半年くら いの期間、雇われて、働いているんだそうです。仕事をしているふりをしていま すが、じっさいにはお客さんの相手をするだけの仕事で、小生がたまたま話をし た、あれは何族だったかもう忘れてしまいましたが、おじさんも、こんな作り物 の家で、生活のにおいの何もしないところで、これは本当の原住民の暮らしでは ない、と言って、怒っていました。それはそうでしょうね、そこで寝起きしたり 煮炊きしたりしているわけではないから、どこからどこまで見ても生活臭という ものがない。それはやむを得ないことだろうと思います。きれいな民族衣装を着 ていたと思いますが、あれは本来、儀礼や祭りや結婚披露宴などのときだけ着る もので、毎日ああいうものを着て働いているわけでもありません。あくまでも見 せるためのものですから。
民族名のうち、「ブユマ」とあるのは「プユマ」(Puyuma)、「ツオラ」は「ツォ ウ」(Tsou)の間違いです。「タオ」は「ヤミ」と同じです。若者の一部が「ヤミ」 という民族名は日本人がつけた名前だから気に入らない、「人」を表す「タオ」 族としようという運動があり、正式に認められた名前ではないのですが、メディ アでは「タオ」の方が採用されていますけれど、研究者の間では日台ともに「ヤ ミ」が普通に使われています。ついでながら、「ツォウ」も「ブヌン」も「サオ」 も「人」を表すふつうの単語を民族名としたものです。アイヌもそうらしい。こ ういう民族は世界中にたくさんありますよね。
Y.O.さんが聞き取った原住民語のひとつひとつを訂正するのはたいへんです。 というのはこれらの言語にはカナでは書き表せない音も多く、音声表記をしない と書けませんし、たとえ無理して音声表記をしてみたところで、ふつうの人には 何のことやらわけがわからず、つまりは無駄だろうと思うからです。そこで、音 声も聞こえるホームページを2つほどご紹介しておきましょう:
政治大学原住民族語言教育文化研究中心 Center for Aboriginal Languages Cultures Education の中の「族語教室」
行政院原住民族資訊網 Council of Indigenous Peoples, Executive Yuan の中の「族語教室」
をクリックしてください。もっともそこで見られるローマ字表記がすべて正しい というわけではありません。中国語を勉強された方ならどなたもご存じの通り、 中国語(北京語)の子音には日本語のような「清音」「濁音」の区別がなく、 「有気」「無気」の区別しかありません。ところが台湾原住民の言語は日本語と 同じように「清音」「濁音」の区別しかないので、中国語に慣れてしまうと、た とえ原住民の人であっても、たとえば p/b, t/d, k/g の区別ができなくなって しまい、b/d/g のように濁音で書いてあっても実はそれは「清音」であるべき音 である、というようなことがよく起こるのです。Puyuma を「ブユマ」と書き間 違えたY.O.さんも、たぶん、この罠にかかったんでしょうね。それからまた g と ng の区別も、とくに語頭では中国人はできませんから、書き間違いが目立ち ます。でも実際の発音はちゃんとしていますから、これらの点に特に気をつけて、 現地音を聞いてみてください。かわいらしい子供の声も聞こえますよ。
土田滋