ブニャ・・・ニューカレドニアの石蒸し焼き料理
ニューカレドニア中南部のプティクリ部落に言語の研究調査で滞在していた頃のこと(80年代半ば)。大酋長の娘だったゲー(おばあさ
ん)はいろいろな料理を教えてくれましたが、中でも忘れられないのはブニャとかニンプァとか呼ばれるカナク人の伝統料理です。
太平洋の島々には地炉を用いた石蒸し焼き料理が広く分布しますが、ニューカレドニアにあるのがこのブニャです。ニューカレドニアにはことばも習慣も違うた
くさんの部族がいて、料理の仕方も全く同じではないようなのですが、ゲーと一緒に作ったブニャはこんな風でした。
1)地炉の準備
3日前から集めはじめていた薪を、大小の小石をたくさん寄せた上にボンファイヤーのように積み重ね、火をつける。(この石のオーヴンは地表で焼くのと地面
にあけた穴で焼く2種類があるのですが、プティクリでは地面の上でした。別の部落でのちに見た時は、地面のやや窪んだ所にしつらえていました。昔は、いつ
も中で炉の火が燻っているような料理兼保存小屋もあったそうです。)
2)ココヤシを擦る
ゲーは当日の朝3時に張り切って起床。他の人もそろそろと起きだして朝からてんやわんやの作業となる。ココヤシの実は全部で9つ。はしから半分に割ってい
く。まな板のような木の板に、先がギザギザになった金属が縦に張ってある、そんな削り具でココヤシの内胚乳をかきとるのだ。腰掛けて股の間に挟み、外皮を
剥ぎ取ったヤシの実をギュッギュッと3回ずつ下方に擦り、少しずつ左に回していく。結構な重労働だ。ヌーヌー(おじいさん)は手際良くリズミカルに擦って
いるが、私がやってみたらとてもそんなにうまい具合にいかない。
3)バナナの葉で材料を包む
バナナの若葉は火であぶっておく。ヤムイモ(中が薄紫のと白いのがある)、タロイモ、さつま芋(外見はカブのようだ。太平洋一帯でしばしばクマラと呼ばれ
る)、キャッサバ(別名マニョク。中はまっ白で時には相当大きくなる)、トマト、キャベツなどを適当な大きさに切り、後でココ味がしみ込みやすいように
尖ったフォークの先などでイモをぶつぶつと突いておく。
バナナの葉を3、4枚互い違いに重ねた上に、切った野菜、短くて丸っこい種類のバナナを皮ごと、川でとった魚や鳥肉やうなぎ(エビが入ればいっそうおいし
くなる)など‐何でも?のせる。最後に、削ってあったココヤシの果肉に水を混ぜて手で絞った汁(ココナツミルク)をたっぷりかけバナナの葉で包む。それを
ココヤシの葉でしばる(ちまきのお化けのようなものです)。8時半準備完了。
4)蒸し焼きにする
朝6時過ぎに火をつけた薪がほぼ燃え尽きる。長い棒などを使って熱くなった石を寄せ集め、焼け残った薪を除ける。平らに盛り上がった所にニアウリの樹皮や
バナナの茎を割いたものなどを先ず敷き、その上にバナナ葉の包みを置く。熱すぎてこがしてしまいそうならバナナの葉などを更に敷いて調節する。次に上か
ら、ニアウリの乾いた樹皮、バナナの葉、土などをかぶせすっぽり覆う。まわりに石を敷きつめて固定し、上にも少し石を置き蒸し焼き風にする。焼けるまで約
2時間待つ。
5つのブニャを作り、30人程のお客をもてなしました。バナナの葉を開いたときにプーンと漂う甘ったるい香り、肉や野菜がココナツミルクと一緒になってか
もしだす、とろけるような南洋の味は、今は亡きゲーとヌーヌーの、はにかみながらも誇らしげな笑顔と共に忘れることができません。このブニャの味、カナク
人の伝統も習慣も、言語も、押し寄せる社会変化の波にいつまで抵抗を続けることができるでしょうか。今ではブニャは祝宴や儀礼のような特別な機会を除くと
あまり作られなくなり、代わりに大鍋を使ってガスで調理する方法が一般化しています。町では観光客相手にブニャを売る商売も見られるようになりました。
(大角翠)