若者ことば―ことばは人をどうつないでいるか
この記事は以下のことば村フォーラムの抄録です
2006年6月18日
ことば村フォーラム「若者ことば―ことばは人をどうつないでいるか」
講演者:井上逸兵先生
会場:慶應義塾大学三田キャンパス314教室
ことばは時代とともに変化するものです。特に俗に言う若者ことばは、様々な観点でそれを用いない世代のことばと大きく異なっています。
今回は、「人間関係」を切り口として、現代の若者ことばを考えてみることにしました。
論点は
コミュニケーションの二極化現象→「あいまいことば」と「無遠慮ことば」→「ウチとソト」概念を再考する必要があるか?
の3点です。
1) コミュニケーションの二極化現象
ことばには
- @ 意味を伝える主トラック
- A それ以外を伝える副トラック
があります。副トラックとは、言い方、ことばの選び方、リズムやイントネーションなどを表し、自らのアイデンティティ、相手に対する配慮や仲間意識あるい
は排除を伝達し、またことば遊びの要素などが盛り込まれます。時としてこの副トラックで伝わるメッセージのほうが強力な場合があり、コミュニケーションの
方向を決定する場合もあります。
若者のことばでは、この副トラックで伝わる表現に二極化現象が観察されます。親しい仲間内では相手を配慮したり、自己主張を避けたりするあいまいな言い方
がなされる一方で、ネットの2chなど匿名性が高い媒体では極めて無遠慮あるいは攻撃的といってもいいことばをぶつけることがあります。
2)「あいまいことば」と「無遠慮ことば」
「それ、わたし的には厳しいかも」
「間に合わないっぽい・・・」
「それって、ひょっとして、やりたくない系?」
以上の例にみられるように、断定的な言い方を避けることで相手の領域に立ち入ったりまた押し付けがましさを軽減したりしています。
それに対して匿名性の高い場面では
「それはお前がヘタレだから」
「どこの田舎モンだよ、おメェは!」
など、攻撃的なことばが無造作に使われています。
場面に応じたことばの使い分けは仲間同士の連帯感や逆に部外者を排除する機能を果たすこともあります。
例:「あいつはGHQだからさぁ」(都立K高校)
(Go home quicklyの頭文字をとり、部活に参加せずに帰宅する子を指す)
「在日/来日/日没」(慶應義塾大学)
(「在日/日没」引き続き日吉キャンパスにいること=留年)
(「来日」一般教養科目を取り損ねて日吉キャンパスに通うこと=仮進級)
こうした隠語(「ジャーゴン」いわゆる業界用語なども含まれる)や専門用語は、言いたいことを瞬時に伝えるという伝達の効率化の目的もあるが、ウチにある
ものの連帯を強化すると同時に、ソトのものを排除するというはたらきも持っています。
3)「ウチとソト」概念は有効か?
こうしてみてくると、ことばを通して若者の人間関係の傾向がいくつか表現されているように思われます。
相手に投げかける問いで「出身地」「親の職業」「名前の由来」などはプライベートな領域に立ち入る可能性が高いために避けられることや、友人間で「あいま
いことば」を使うことを考え合わせると
- 人間関係の希薄さ・友人でも互いに一定の距離を保つ
また、未知の人に対して「無遠慮ことば」を使い、隠語で排除する場合があることからは
- 付き合いの小集団化
が、伺えるようです。
かつては「ウチ=無遠慮・ソト=社交辞令(あいまい)」という図式がありましたが、現代の若者の場合、「ウチ=あいまい・ソト=無遠慮」という意識が生じ
ているようです。
「ウチ・ソト」というカテゴリーが大きく変容しているのかもしれません。
俗に言う「大人の社会」でも、未知の大衆に対し歯に衣きせずにものをいう政治家・キャスター・ビジネスマン・タレントが脚光を浴びています。こういう現象
を総合的に考えてみると、若者のことばはより先鋭化された社会の縮図を表しているのかもしれません。