インド旅行記
初めてのインド旅行は2006年3月。2週間の短い一人旅は、最初のカルチャーショックはあったものの、日本にはない神秘的な雰囲気 や、いろんな人との出会いへの感動でいっぱいで、ただただ楽しく旅を終えることができた。
そして2度目の旅行は約半年後の10月。仕事を辞めて1ヶ月半の旅に出た。
今回はインドのほかにタイ、ネパール、ラオスもまわったのだけど、
結果からいうと、やっぱり私はインドだな、と感じた。
とはいっても、決して前回みたいな終始楽しい旅だったからではない。たとえると2度目の旅はインドとの倦怠期を迎えて、それを乗り越え、さらに愛が深まっ
た、という感じだ。
インドへの倦怠期は前回見えてなかったものが見えてきてしまったことから始まった。
東の大都市コルカタから入り、ガンジス川があるバラナシへ。
2度目のインドは半年しかたってなかったからカルチャーショックはそんなになかった。そのかわり、旅の興奮というよりは懐かしい気持ちで落ち着いて街を歩
いていたからだろう。みたくないもの、が今回はリアルに見えてきてしまったのだ。
それは一言で言ってしまうと、人間、動物すべての生々しい生存競争というとこだろうか。
ガンジス川での沐浴
きっかけは一つの事件だった。
インドからネパールへ向かう時のこと。ネパール行きのバスに乗るためにリクシャー(インドの人力車みたいな乗り物)でバラナシ駅へ向かった。道はすごく混
雑していて、いつも通り、いつ事故ってもおかしくないような道路。でもリクシャーのおじさんもプロ。後ろの車輪を見なくても地面の溝などをいつもよけてく
れる…はずなのに、ふと気づくと昼寝をしているのら犬がギリギリの場所にいる!と焦った瞬間キャン!という痛々しい声が聞こえた。と同時に涙が出てきた。
私の乗ってるリクシャーが犬をひいてしまった。インドでは足を引きずっている犬をよくみる。今の犬もそうなってしまうんだろうか。こんなふうにあの犬たち
は足をケガしていくのか、と肌で感じてしまった。私はなんて場所にいるんだろう。日本ではもともとのら犬自体あまりいないけど、おそらく動物が車にひかれ
でもしたら誰かしら手当てをするだろう。そしてインドでは病気持ちの犬も本当に多い。痛々しいほど毛が抜けてたり、片目がつぶれてたり。そしてそんな犬た
ちはもちろんインド人に大事に扱われてるわけでもない。でもそれもそうだ。なぜなら過酷な状況なのは犬だけじゃないから。物乞いする子供達、親子はインド
にいれば普通の光景。胸が締め付けられる。でも私には何もできない。同情することも何も感じないことも違うような気がする。そんな私がここにいていいの
か。なんでこんなつらい思いをしてまでインドにいなきゃいけないんだろう。それじゃなくても、インド人はすぐぼったくろうとするし、詐欺も多いし。そんな
疑問を抱きながらネパールに向かった。インドとの倦怠期の始まりだった。
ネパールはポカラ。ここは穏やかな時間が流れる場所だ。大自然に囲まれて空気はきれいだし、
ネパールの人も穏やか、ヒマラヤの絶景は最高だ。「ネパール人はやさしいなぁ。インドに戻りたくないなぁ。お金があったら直接バンコクに飛ぶのに」そんな
ことをつぶやいてた。まだまだインドを拒否してた。
そして、確かにネパールにいる時ネパールについて頭を悩まされることはなかった。たぶんそれはポカラが旅行者にはとても居心地がいいところだからだろう。
宿もきれいだし、ぼったくられることもあまりないし、しつこく客引きする人もあまりいないし。でもなんだかおかしい。それが物足りなくなってきてしまった
のだ。旅行者に対等に、いやむしろ戦いを挑むように接するインド人がなぜか恋しくなってきてしまったのだ。そして1週間後には期待と不安を抱えてインドの
バラナシに戻った。
1週間距離をおいたあとのインド。そこでやっと私はなぜインドに惹かれるかに気づいた。それは「強さ」だ。ぼったくりやしつこい客引き は旅行者にとってやっかいなものではあるが、戦いを挑まれているようで楽しい。物乞いする子供達も強い。昨日も今日も明日も生きるために物乞いする。私の リクシャーがひいてしまった犬も足を引きずってでも、とにかく生きる。そういえば、前回のインド旅行で客引きをしてた10才くらいの男の子に同じ場所でま たつかまった。私が半年の間、仕事で悩んだり、恋愛を楽しんだり、将来の夢を考えたりしてる間、この子は毎日毎日生きるために同じ場所で客引きをしてたの かもしれない。そう思うとそのバイタリティに感動する。
結局私は最初はただただ哀れんでたのだ。上から目線だった。それで勝手に苦しんでた。でもそれは間違い。物乞い、客引きの子供、あのし つこさは、強さからきてる。みんな旅行者に対等にぶつかってきてる。今ではその強さに惹かれるし、私も旅を通して成長できたような気がする。
2度目のインドは、苦しみ、そこから新たな魅力を発見した旅だった。
でもインドはでかい。私が知ったインドはほんの一部。
これからまだまだ戦って新しい魅力を探していこうと思う。
(若生奈見)