ニューカレドニア・カナク人の食卓と作法
自然の中の暮らし
ニューカレドニアには、トリビュと呼ばれる、原住民(カナク人)だけが住むことを許されている部落がある。ここでは伝統的な生活が比較的保たれてきたのだ
が、最近ではいろいろな面で様変わりし一般の村の生活に近づいてきた。けれども村や町に住むカナク人の大半がトリビュにいた時と同じメンタリティや生活習
慣をそのまま引きずっていることをみても、電化製品や車といった物質文化の浸透はうわべだけであり、根底にある気質は大して変わっていないことが窺える。
部落での生活の基本である食習慣は確かに徐々に変化している。以前はうち捨てられた車の残骸を目にすることがあっても、実際に用をなす自動車は少なかった
が、現在ではその数も増え、近くの村まで週に1、2度、人々を運ぶミニバスも現れた。そのおかげでパン、ビスケット、米、缶詰などが手に入れやすくなっ
た。その一方で伝統的な狩猟(鹿、いのしし、こうもり)は、棍棒からライフルへと手段は変化したもののまだ頻繁に行われている。また網などを使って、魚や
海老などの漁をする。ヤム芋、タロイモなどの根菜類の栽培も昔ながらのやり方を守っている。殊に、焼畑農業で行うヤム芋はカナク人にとって重要な意味を持
ち、人が自然との融和を保つ象徴ともなっている。
戸口に撒かれた米を食べにやって来た野生のいのしし
焼畑
食事に招かれたら残すのが礼儀のことも?
世界には場所により様々な食事作法や習慣があるが、食事をとる順番や様態は集団内の序列や関係を示していることが多い。客人が最初に食
べ物をすすめられるのはよくある光景だが、メラネシアではたまに、客、年配の男性、年配の女性、その他の男女、子供の順に食べているのを見かける。また、
男性が先ず食べ、その後、女性ということもある(食事の用意は女性がする)。ニューギニアで大きなお皿に山盛りの食事がふるまわれたら食べる前に周りを見
回した方がいい。全部食べなければ悪いと思って無理してしまうが、ここでは残してあげなければならない。順にお皿がまわってくるのを待っている家族がい
る。
ヌメア(ニューカレドニア)で私が泊まっていたカナク女性のところには20歳前後の甥とその女友達が一緒に住んでいた。私が着いた日、女性は留守でこの二
人が居たのだが、持ってきたケーキを勧めても食べようとしない。夜になってやっと彼女が戻ってきたが食事は済ませたというので、私はケーキを食事代わりに
食べた。だが私と同様に昼から何も食べずお腹が空いているはずの甥たち二人は勧めてもいらないと言う。夜もだいぶ更け、女性がケーキを一片食べると、やお
ら二人が箱に手を伸ばし、残りのケーキを全部たいらげてしまった。その時になって私はなぞが解けた思いがした。彼らはアパートの主である女性が食べ終える
まで遠慮していたのである。
我々はいま飽食の時代にあって、食べたい時に食べ、他の人はちゃんと食べているだろうか、など念頭に浮かばないが、メラネシア人の社会では、客や親たちが
あらかた食べ終わるまで待ってから若い人たちが食べ始める習慣がまだ残っている。
「いも虫」のおもてなし
帰国の前の日、ワウェ部落の酋長さんが私のためにバンクリエ(ククイノキ)の朽ちた木の洞の中から捕って来てくれた。いも虫は普通、長さ8~10cm、直 径2cm程度。1週間ほどココナツの実を食べさせるとお腹の中がすっかりクリーム状になりおいしいらしい。この日は猶予も無く、茹でてもらったものを覚悟 を決めて1匹食べたところ、他の4、5匹はみな変態しており、さなぎになる前の幼虫、さなぎ、羽が生えかけの段階等で味が違うので全部食べるように言われ てしまった。本島のファリノでは毎年9月の第二日曜日に「いも虫、早食い大会」が行われる(なまを頭だけぴゅっと捨てて食べる)。
食用いも虫
(大角翠)