板つき
「板つき」というと カマボコを思い出しますね。
「あいつ あんなかっこうしてると 板についてるね・・・!」
業界用語では この「板つき」 ちょっと意味が違います。
ある大御所の俳優さんが 刑事ドラマに出演します。
ところが高齢なので、長時間拘束して撮影は体力的にも不可能。
それで、1時間ドラマの脚本を数本そろえて、一日一度で撮影するのです。
大御所俳優さんは、刑事ドラマのデカ部屋にドンと座り
(昔であれば 煙草をくわえて)
これまでの捜査報告を穏やかな表情で聴き、その事件の捜査キーポイントを
担当刑事達に、一転、厳しい表情で指導助言するのです。
部下の刑事達、そのお言葉に感心して感動してありがたくご拝受するのです。
(これが刑事役の芝居場なのです)
その推理がピッタリ!的中!事件は見事に一件落着するのです。
これまでこんなシーンを何度もご覧になった事がありますでしょう・・・?!
ところがお気づきになられたでしょうが
この大御所さん、メイク、衣装、ネクタイなどは、その回ごとに変わるのですが
そのデカ部屋の背景などは変わらないのです。
同じセット(背景にはマドガラスがあり、隣には書類棚)
照明も変わりません。
たぶん 一日(数時間で)1時間ドラマ 数本撮影してしまうのでしょう。
こんなふうに 撮影するのを「板つきで撮る」というのです。
昭和30年代頃、映画興業界には五社(東映 東宝 松竹 大映 日活)協定という決め事があり、自社の契約俳優さん達のテレビ映画出演にはあまり好意的ではなかったので、各局放送業界では一日数時間しか出演スケジュールを貰えなかったのです。
(莫大なギャラが発生する事が普通!)
それで、テレビ製作者は、大御所さん達には腫れ物に触れるように粗相のないよう、
ご機嫌よく、ありがたく、ご出演いただくのです。撮影時、どうしてもアップが欲しい時、「先生 おアップ頂きます」とお願いしてから撮影したそうです!
ご機嫌の良い時は気楽に対応してくれるのですが、斜めの時には頂けるまで数時間かかった事もあったそうです。
《中村和則(2021年掲載)》