消えもの
山本一力さんの短編小説に「御舟橋の紅花」という作品があります。江戸、嘉永年間(18世紀中ごろ)の舞台設定の小説で、担ぎ商いをしている老人(61歳)と、御舟橋のたもとで屋台天ぷらの店を営んでいる女主人(49歳)との恋物語です。
この老人は「消えもの」のかつぎ商いをしているのです。蝋燭、提灯、火打石など、これらの物を、当時は「消えもの」と言ったようです。
時が流れて、テレビ業界では「消えもの」と言うと、番組の中で何かを食べるシーンのお茶、コーヒー、カレー、焼き飯・・・等。これらを「消えもの」と呼びます。
スタジオの隣には「消えもの室」というプレートが張ってある部屋があります。
中には、システムキッチン、電子レンジが整然と並んでいます。ここで、半分プロの料理人が白衣を着て作業しています。どんな献立でもこの部屋で作られ画面に登場するのです。
出演している俳優さん達、この献立が美味しいか?そうではないか、で芝居が違うとも言います!
昔の「消えもの」、提灯、蝋燭、火打石、これ等は、今では「小道具」です。新人スタッフの若い女性「消えもの室」なんて なんだか怖い・・・?!どこのスタジオの廊下も狭くて暗いのが普通。そこにこのプレートを見ると、そんなふうに思えるかも知れません!?
《中村和則(2022年掲載)》