地球ことば村
言語学者・文化人類学者などの専門家と、「ことば」に関心を持つ一般市民が「ことば」に関する情報を発信!
メニュー
ようこそ

【地球ことば村・世界言語博物館】

NPO(特定非営利活動)法人
〒153-0043
東京都目黒区東山2-9-24-5F

http://chikyukotobamura.org
info@chikyukotobamura.org

ピーカン



 秋には晴れた青空がにあう。雨降りがにあう季節は、いつごろでしょうか!?
 「日雇い殺すにゃ刃物はいらぬ 雨の三日も降ればよい」と、戦後復興を支えた縁の下の力持ちたちを嘆かせた雨。戦後の好景気、こんなふうな時代もあったのですね・・・。
 時が過ぎても、映画・テレビの撮影現場で働く人達には同じく、雨は残酷なのです。今でも野外撮影(ロケーション)は完全に天候に左右されます。「雨ねらい」は別としても。
 この「雨ねらい」とは-
 たとえば都会の職場に就職して恋人を故郷(田舎)に残して夜行列車に乗る青年
 そのホームに細かな雨が降っている。
 雨にぬれながらも 涙にぬれ 手を振り 列車を追いかけてくる娘。
 こんな雨降りシーンを撮影現場では[雨ねらい]と言います。
 昔のロケーションは晴天が原則です。なぜなら昔はとにかく厚化粧でしたので雨ではそれが落ちてしまうこと。そして光量不足でピントが甘くなってしまうのです。
 ハッキリ!クッキリ!明瞭な画面にならないのです。
 (涙にぬれた娘がはっきり写らないのです。)

 現在でも晴天のシーンを想定して撮影スケジュールが組まれているので、雨に降られると準備したスタッフ、機材、忙しいスケジュールが崩れてしまうのです。俳優たちの、今後のスケジュールの組み直しなどで製作費に多大な影響があるのです。
 撮影中止となれば小さなことでは準備した弁当をどうするか?どう処分すればいいのか?食うに困っている人に差し上げたくもなります。(東京オリンピック パラリンピックの残ったお弁当を思い出します。)
 撮影当日の朝 抜けるような晴天!スタッフは胸をなでおろして「ピーカンだ!」と安堵するのです。こんな晴れた空を[ピーカン]と呼びます。

 このピーカンの語源はと言うと諸説あります。
① もっとも一般的な語源は
 煙草の缶入りピースのパッケージ色が抜けるような青い色なので、同様の青空を指してピース缶の様な空、と言うことからピーカンは名付けられた。
② 同様にピースの缶が語源になっているモノでも
 ピースの缶にはオリーブの枝と鳩が描かれていると言う事から来たと言う説。
 (ちょっと学術的なのですが)鳩とオリーブの組み合わせは聖書にある「ノアの方舟」伝説が元になっているのです。
 雨が止んで洪水が収まった時に地面が見えている。こんな意味で鳩がオリーブの枝をくわえて戻ってきた事に由来しています。つまり、雨が上がって晴れる。オリーブをくわえた鳩という連想から晴れのことをピース缶(ピーカン)と呼ぶになったと言う説。
③ 完全な天気と言う意味。
 パーフェクトコンディション」を略して「パーコン=ピーカン」となったという説。
④ オペラ「蝶々夫人」の中で歌われるアリアに有名な『ある晴れた日に』
 それを歌いながら蝶々夫人丘の家の縁側から晴れた青空 入港してくる船を夢見る!
 「あの船にピンカートンさんが乗っている?!」
 それで 晴天の事を「ピーカン」と呼ぶようになったという説。
⑤ 映画監督 山本嘉次郎によると「空がピーピーカンカンと晴れている」と言う言葉遣いが昔あり、そこから来たと言う説。これによるとピーピーとは あまりの天気の良さに喜んだヒバリが鳴いている声。カンカンは太陽が照りつけている表現だそうです。
⑥ 映画関係者では「映画撮影をする時晴れた日にはカメラのピントがカンと決まる」ことからそう呼ぶようになった。
 とりあえず、最初の「ピース缶の色」と言うのが一番支持されているものです。
 しかしピース缶が語源だとすると箱入りのピースも同じデザインのパッケージなので、なんでわざわざピース「缶」なのかとの疑問が湧いてきます。
 当時の映画関係者がみんなヘビースモーカーで10本入りの箱入りピースではなく50本入りのピース缶だったということかも知れません。

 外野から「ちょっと待てよ!ピースはいつ発売されたんだ?」
 ピースが発売されたのは1946年(昭和21年)1月10日。パッケージデザインは懸賞応募でした。ブルーの色は同じですが鳩はいません。
 金色の鳩に白抜きのPEACEの現在のデザインは、1952年(昭和27年)4月1日からでした。
 こう考えるとピーカンの語源は山本嘉次郎監督の説が順当のようです。
 昔は天気予報も当てにならず、天気はまったく人力の及ばぬところ。お天とう様任せ!?「ピーカン」と言う言葉には現場で働く人達の切なる願いがあったのでしょう!

 つい最近の事です。
 雨降りが続いたテレビ番組で新人女性助監督になりたての女性。明日「ピーカンだったらな?!」とスケジュールを組んでいるスタッフが言うと、それを耳にした彼女が「それじゃ うちで撮ったら・・・!」
 この娘さん 落花生が名産 千葉県で生まれて育った。「ピーカン」をピーナツ畑と間違えたようです!汗まみれになって、一生懸命働く娘さんでした。


《中村和則(2022年掲載)》