ホジェンのことばと話者
ホジェンの人たちは主に中国黒龍江省黒龍江、松花江、烏蘇里江などの流域に 住んでいる。2000年の国勢調査によると、人口は4640人、中国では人口のもっ とも少ない民族である。また2001年の統計では話者数は19人である。
松花江沿岸の勤得力を境として、上流の人はキーレン、下流の人はヘジェンと 自称する。
ホジェン語はツングース満州諸語に属し、二つの方言に分かれる。方言の分布 域は、自称の分布域と重なり、それぞれキーレン方言、ヘジェン方言と呼ばれ ている。ホジェン語は長い間、黒龍江(=アムール河)中流のナーナイ語の方 言と見られてきたが、キーレン方言は音韻対応からみてむしろウデヘ語やオロ チ語(ともにアムール河中・下流のツングース語)に近いとされる。
ホジェン語の「こんにちは!」にあたる表現は「ai-si 《!」という。aiは 「よい、元気」を意味して、-siは二人称接尾辞で、《は終助詞である。これ を言われたら、-siを一人称接尾辞の-yiに変えて、「ai-yi 《!」と答える。 日本語の「こんにちは」や中国語の「ニーハォー」より英語の「How are you!」 に近い。
ホジェンは漢字で「赫哲」と書かれる。この表記は康熙2年(1663年)の『清 聖祖実録』に初出する。間宮林蔵が1809年に黒龍江のデレンで清国の交易所を 訪れた時に会った「官夷」は三姓(現在の依蘭)からやってきたホジェンの役 人だと思われる。
ホジェン人は長らく漢族と混住してきたため、生活と言語の両面で漢族に大き く影響され、今では漢族となんら変わりのない生活をしている。近代化が凄ま じく進む中、各家にテレビと電話があり、若者は皆携帯電話を持っていて、中 国語を母語とし、中国語で教育を受けている。今ではホジェン語の話者のほと んどは60歳以上の老人で、彼らもほとんどは中国語とのバイリンガル、普段ホ ジェン語で会話する機会は少ない。しかし老人達はよそから自分の言葉を習い に来た者に対しては非常に熱心に教えてくれる。何とかして、自分達の言語と 知恵を後世に残そうという願いが伝わってくる。
《李林静:千葉大学大学院社会文化研究科(2005年掲載)》