パプア諸語について
パプア諸語とは、ニューギニア島、ビスマルク諸島、ソロモン諸島そしてハツ マヘラ島などの主として内陸部において使用されてきた言語を、おおざっぱに 一括して総称した用語である。諸語とした理由は、必ずしもそれら諸言語の相 互の系統が明確ではないからに他ならない。すなわちアルタイ語族、インド= ヨーロッパ語族などのような言語の親縁関係や系統がいまだ明らかにされてい ないという意味である。たとえばキャペル(A.Capell)は、あくまで基礎語詞 の親縁性のみに基づいて、パプアニューギニアで使用されているパプア諸語を 13の語族ないし語派に分類している。これを通例の比較言語学でいう語族や 語派と同一視して比べることは時期尚早であろうが、パプアニューギニアだけ をみても、海岸部や小島嶼群においてオーストロネシア語族を使用する人々が ぐるっと取り巻いて分布しており、この語族はメラネシア全域からミクロネシ ア、ポリネシア、さらには東南アジア島嶼域までにわたって、きわめて広大な 地域を占めている。それと比較すると、パプア諸語は、いかにも狭い地域であ まりにも多様な言語が使用されていて、言語の万華鏡的な状況にあることがわ かるのである。
キャベルのいう13の語族ないし語派といっても、従来からパプア語と通称さ れた原因を考えてみると、おそらくはパプア諸語が共通に持っている統辞構造 が挙げられるかもしれない。単純化して言えば、オーストロネシア語族が V-S-O形式の統辞構造を持っているのに対し、パプア諸語はS-O-V形式の統辞構 造をもっているのである。さらに動詞は主語の人称・数によって格変化し、時 制や叙法を指示する助詞マーカーが付いて複雑に格変化する動詞句をつくる。 極端には動詞文さえ成立する。また形態構造でも、語詞に助詞マーカーが後置 されて主語・目的語をつくる。こうした特徴から、かつてパプア高地語のひと つを日本語と比較し、その系統関係を構想した言語学者もいた。ともあれパプ ア諸語はこれからの研究課題であろう。
《紙村徹:神戸看護大学(2005年掲載)》