カザフ語
カザフ語は中央アジアのカザフスタン共和国の国語です。 この国は文字通り「中央アジア」でユーラシア大陸の真ん中にあります。 かつてはソ連邦の構成国のうちの一番大きな、そして軍事的に最も大切 な国でした。そのことによる負の遺産を未だに引きずっています。その 主なものをあげてみましょう。第一がセミパラチンスクに作られた核実 験場です。ソ連は大規模な核実験には主にここを使いました。その核汚 染は非常なもので、今では日本の科学者が調査し、日本の医師が治療と 研究に当たっています。 第二はソ連型モノカルチャーの後遺症です。ソ 連はカザフスタンに綿栽培を義務づけました。そのためにアムダリア河 とシルダリア河は過度の取水によって水量が減り、周囲の砂漠化が進み ました。農業のバランスも完全に崩れ、未だに快復できないでいます。 第三に、その結果としてのアラル海(写真)の破壊です。アラル海は以前の三分 の一に縮小しました。かつてのシルクロードの最大のオアシスが破壊さ れたのです。また、この国の地下にはウランを始めとしてレアメタルや 石油などの資源があります。現在、ロシアはもとより、日本もこれを狙 って「友好関係」を構築しようと躍起になっています。
カザフ語はチュルク系の言語です。15世紀中頃までは北東の遊牧 ウズベク人と一緒でした。そのころウズベク人は定住を始めたのですが、 カザフ系の人たちは遊牧を続け、南西へ移動して次第に分かれていった といわれています。ウズベク語との間にはわずかな方言的な違いしかあ りません。またカザフ語はすぐ南のキルギス語と近いだけでなく、近世 初期までは北コーカサスにあるノガイ語とも系統的に近い関係にあるこ とが分かっています。それぞれのことばで勝手に話しても8割がた理解 できるそうです。チュルク系の言語は、西はトルコから東はヤクートま でユーラシア大陸に広がっていますが、それぞれの方言的な違いは興味 の尽きない話題です。トルコ語では名詞の複数を-lar/-lerで表しますが、 カザフ語ではこの接辞の子音が分かれて、複数の接辞は -lar/-ler;-dar /-der;-tar/-ter の都合6種になり、それらの前につく名詞の音的性質と 一致することになります。チュルク系の言語の方言差というのは例えば このような関係です。カザフ語の語順は、日本語と同じように、動詞が 文末に来ます。また格語尾や後置詞で文法関係を示す点で、膠着的である といわれています。簡単な例文をひとつあげます。
olar tawa-a shyq-ty.
2複主 山-与 登る-確過去 (2複主=2人称複数主格;与=与格;確過去=確定過去形語尾)
あなた達が 山へ 登ったんだ。
カザフ語は未だにキリル文字で表記することになっています。 ロシア語の授業が必修である小学校もまだあるそうです。簡単な挨拶を キリル文字で表してみましょう。
お元気ですか? Амансыз ба? (Amansyz ba?)
ありがとう。 Рахмет (Raxmet.)
さようなら。 Аман болунуз ! (Aman bolynyz)
日本人医師の検診を待つ人々
日本語で読めるカザフ語入門教科書には次のようなものがあります。 飯沼さんはカザフ語の簡単な辞書も作っているようです。飯沼英三『カザフ語入門』ベスト社、1995/09出版、20cm、245p、\5,250(税込)。 またカザフスタンの問題については日本カザフ研究会(JRAK)のサイトが参考になります。
《金子亨:言語学(2008年掲載)》