地球ことば村
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ケルノウ(コーンウォール)語

 ケルノウ(コーンウォール)語は、グレートブリテン島南西部のコーンウォール(ケルト語では「ケルノウ」)地方で発達したケルト系の 言語です。ケルト語のなかではカムリー(ウェールズ)語ブレイス(ブルトン)語と同じ言語群に属し、特にブレイス語に近い言語です。

 ケルノウ語は何世紀もの間、英語におされて衰退しつづけ、18世紀末までにほぼ話し手を失いました。しかし20世紀初頭に復興をめざ す動きが起こり、現在に至ります。

 復興の言語的な手がかりとなったのは、宗教的な内容の戯曲を中心とする歴史的資料でした。文献にない文法要素や語彙については言語体系内の、また言語的 に近いケルト諸語などからの類推で補われました。大きな問題は発音でした。録音が残っていないため、コーンウォールの英語方言や17世紀にウェールズの学 者が記述したケルノウ語の発音に関する記録などをもとに音韻を再構成したのです。

 では、実際の言語復興はどのように進展したのでしょうか。言語復興の出発点とされるのは、1904年に出版された”A Handbook of the Cornish Language”(ケルノウ語の手引き; Henry Jenner著)ですが、言語復興が進みはじめるのは、1920年に、コーンウォールの過去の遺産の保存をめざす「古コーンウォール協会」が設立されて以 降です。そして1928年、今日まで、キリスト教の礼拝とともに、ケルノウ語の公的な使用の代表的な場となっている「ゴルセス」の儀式がはじまります。ゴ ルセスは、ウェールズやブルターニュにならって創設されたのですが、コーンウォールの場合、郷土に対して功のあった者にケルトの詩人「バルド」の称号を与 えて顕彰する制度として定着しています。ゴルセスの儀式は原則としてケルノウ語で行われます。

 1930年代には、成人向けのケルノウ語講座や通信講座が開かれるようになり、1930年代末までには教科書や辞書など、基本的な教 材がひととおりそろいました。しかし、学習者がコーンウォール各地に散在する状況で、会話の機会は限られたものでした。会話の代わりにケルノウ語学習者の 言語活動の中心的な位置づけを占めていたのは、辞書を引き引き文通や雑誌投稿用に文章を書き、また書かれたものを読むことでした。実験的な性格が強いとは いえ、「現代ケルノウ語文学」といえるものも書かれるようになります。

 口頭で自由な会話がより多く行われるようになるのは1970年代になってからです。それまでいわば長い助走段階にあったケルノウ語復 興はここではじめて「離陸」したといえるでしょう。その要因として、自家用車や電話の普及といった移動・通信手段の発展が指摘されています。こうして 1970年代後半以降、パブなどでのケルノウ語話者の定期的な集まりや話者の合宿が行われるようになりました。また家庭など日常生活で使おうとする人も現 れています。

 21世紀に入って、ケルノウ語はイギリス政府の決定により、欧州評議会の「欧州地域少数言語憲章」による保護の対象となる少数言語として認定されまし た。復興ケルノウ語は、公的な認知をえて、新たな段階に入ったといえるでしょう。

《木村護郎クリストフ:上智大学(2009年掲載)》

(本稿は木村護郎クリストフ『言語にとって「人為性」とはなにか―言語構築と言語イデオロギー:ケルノウ語・ソルブ語を事例として』三元社2005に基づいています。)

※ケルノウ語復興の諸活動を調整する「ケルノウ語パートナーシップ」のウェブサイトでケルノウ語のフレーズを聞くことができます。
http://www.magakernow.org.uk/(別 ウィンドウが開きます。)