世界の文字
メロエ文字 英 Meroitic script,仏 Méroïtiquet
今日のスーダン共和国北部に位置するメロエ(古代ヌビアの都市国家)で使われていた銘文の文字で,クシュ語群に属する古代ヌビア語が記されているので,クシュ (Cushitic) 文字とかヌビア (Nubian) 文字と呼ばれることもある。紀元前 3 世紀頃にエジプト聖刻文字を範型にして作られ,紀元 4 世紀前半まで使われたが,その後はコプト文字に取って替わられた。[1]
文字構造
メロエ文字には 2 種類あり,1 つは古代エジプト文字の民衆文字(デモティック)から作られた草書体であり,他方はヒエログリフから作られたメロエ・ヒエログリフ(楷書体)である。面白いことにメロエ文字は草書体が先に作られ,のちにその草書体を絵文字にしてメロエ・ヒエログリフが作られた。[2]
古代エジプト文字とメロエ文字の用法には大きく異なる点が 2 つある。第 1 は文字数であって,古代エジプト文字が数百個を数えるのに対し,メロエ文字はわずか 23 個からなっている。そのうち 4 個は母音(a,e,ê,i),2 個は半母音(y,w)を表し,やや不完全ながらアルファベット文字に近づいている。第 2 の点は,書字方向の問題で,エジプト聖刻文字,ヒッタイト聖刻文字では文字記号に人面,獣面がある場合,これに対向する書字方向を用いているが,メロエ文字ではその反対となっている。つまり,古代ヌビア人は古代エジプト人から文字記号のあるもの(音価が類似しているもの)を借用したが,その機能は無視し,すでに広く使われていたギリシア・ラテン文字体系の完全アルファベットの影響を受けつつ,独自の文字体系を創りだしたということができる。[3]
上から楷書体,草書体,音価を示す。
メロエ文字見本
草書体
| メロエ文字が刻まれた破片,大英博物館 [Udimu / CC BY-SA 3.0 / 出典] | |
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ハマダブ碑文,大英博物館 [Jononmsv46 / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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メロエ文字が刻まれた砂岩碑文,1 世紀 [Rufus46 / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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楷書体
| 砂岩に縦書きされたメロエ・ヒエログリフ。エジプト考古学のピートリー博物館所蔵 [Osama Shukir Muhammed Amin FRCP(Glasg) / CC BY-SA 4.0 / 出典] |
| | メロエ・ヒエログリフ [Piero d'Houin dit Triboulet / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
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ユニコード
ユニコードの次の領域に収録される。楷書体 U+10980..U+1099F,草書体 U+109A0..U+109BF。フォント Nilus ttf は http://luc.devroye.org/douros/ から入手する。
注
- ^ 矢島文夫 (2001)「メロエ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p. 1032.
- ^ 山下真里亜 (2018)「メロエ文字」大城道則編『図説古代文字入門』河出書房新社, p. 60.
- ^ 矢島 pp.1032-1033.
関連リンク
[最終更新 2021/12/11]