ンシビディ文字 英 Nsibidi signe
Nsibidi [Elphinstone Dayrell / Publi Domain / 出典] |
この文字のいくつかは,結社の外でも知られているが,しかし,たいてい,この文字についての知識は,結社に属する人々にのみ限られている。鍛冶家が行く所にこの文字が伝わるとか,この文字について口外するとき近くに人がいないか配慮するとか,外部の人間に教えたことが分かれば結社の長老によって罰が与えられる,とかの報告がある。また,結社に属さない人々にとっては,この文字は神秘的で,災いをもたらすものとして恐れられている。[1]
[起源についての伝承]ンシベディ文字の起源について,以下の伝承が伝えられている。「人間がブッシュで夜を過ごすとき,ヒヒがやってきて焚き火にあたる。人間はヒヒを恐れて逃げ出してしまう。ところが,イグボ語の話し手の中のウグアキマ(uguakima)の人々は,ヒヒを恐れないので,彼等とヒヒとの間に友情が生まれた。すると,ヒヒは人間に分からない文字を地面に書き始めた,そして,パントマイムで地面に書かれた文字の意味を演じた。そこで,ウグアキマの人々は,これらの文字をシンビディと名づけた。なぜなら,シビディ(sibidi)は,イグボ語で「演ずる」を意味するからである。ウグアキマの人々は,ヒヒから文字のほかに薬について学んだ。たから,彼等はこの国で最も知識のある呪医なのである。」[1]
イグボ語テキスト・ンシビディ文字
次は,マックグレガー(J. K. MacGregor)が 1909 年に報告した 98 個の文字と裁判記録である。[2]
裁判記録:Enyong 村で行われた Ikpe と呼ばれる占の記録。文字に決まった順序はなく,垂直にも水平にも斜めにも並べられる。
裁判記録 [J. K. Macgregor / Public Domain / 出典] |
(a) 裁判官は木の下に集まった(輪が描かれている), (b) 係争中の双方は輪の中, (c) 酋長の前に立っている。 (d) 酋長の隣に従者が立ち, (e) また輪のそばには隣人に耳打ちしている者がいる。 (f) 勝訴側のメンバーは輪の外にもおり,しかも, (g) うち 2 名は抱き合っている。 (h) やや離れて,判決に不服な者が抗議の印として布切れを持って立っている。この者の隣には敗訴して罰金を支払うはめになった者がいる。 (j) 全員を取り巻く曲がりくねった線は,この事件が複雑で込み入っていたため,識者らを呼びに隣村へ人をやらなければならなかったこと,結局,彼らがその審理を助けてくれたことを示している。 (k) 事件の本質はと言えば,十字に交差した線で記されている。ほかでもない,結婚の規律違反が問題になっていたのである。[3]
注
- ^ a b稗田巧 (2001)「ンシビディ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p. 1167.
- ^ MacGregor (1909) ‘Some Notes on Nsibidi.’ Journal of the Royal Anthroplogical Institute of Great Britain and Ireland, Vol. 39, (947 KB)
- ^ A.コンドラートフ 著 ; 磯谷孝, 石井哲士朗 訳 (1979)『文字学の現在』勁草書房, p. 105.
関連リンク
[最終更新 2021/12/12]