アルメニア文字 アルメニア Հայերեն այբուբէնը,英 Armenian alphabet,露 армянский алфавит
アルメニア語は,カフカースにあるアルメニア共和国を中心に,それに隣接するアゼルバイジャン共和国,ジョージア(グルジア)といった,1つのまとまった地域で話されている。アルメニア語は,インド・ヨーロッパ語族の東のグループに属する独立の語派と認められている。現代アルメニア語は東西2つの方言に分かれている。アルメニア共和国,イランで話される東アルメニア語と,それ以外で話される西アルメニア語である。1915~1916 年に,多くのアルメニア人が強制移住させられたり,虐殺され(アルメニア人虐殺),生き残ったアルメニア人も多くは欧米に移住するかロシア領に逃げ込んだ。これにより,西アルメニア人の大部分が失われ,西アルメニア語が世界に散在し,東西アルメニア文語が分布することになった。[1]
アルメニア文字は 4 世紀から 5 世紀の初頭に,大司教のメスロプ・マシュトツ (Mesrop Maštocʻ) によって,ギリシア文字と北アラム文字を基に作られた。また,完成した文字の普及を促すために,聖メスロプが神からアルメニア文字を授かったという「伝説」が広められたともいう。メスロプは,当時のアルメニア語がもっていた音素に対して,各々 1 つの文字を作るというアルファベットの原則を採った。[2]
マテナダラン公文書館正面のメスロプ・マシュトツ像 [Marcin Konsek /CC BY-SA 4.0 / 出典] |
書体の変遷
アルメニア文字には歴史上,少なくとも 4 つの書体が認められる。そして現代の活字体も,その字形はこれらの古い書体に由来しており,大文字は鉄筆体まで遡り,小文字体は丸字体にその形を見ることができる。[3]
鉄筆体
5 世紀に始まる最も古い書体は,(もともと,小さな鉄の棒で文字を刻んだことから)イェルカタギル (erkat'agir「鉄筆体」)と呼ばれ,今日でも記念碑などに使われることがある。この書体はメスロプが作成したということで「原メスロプ体 (mesropyan)」とも呼ばれる。
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丸字体
9~12 世紀には,やや優雅さを増した「小メスロプ体」が使われた。10 世紀ごろ,ボロルギル(bolorgir「丸字体」) という書体が現れ 13 世紀以降,広く普及した。13 世紀頃生まれたノトルギル (notrgir「草書体」)は,16~18 世紀にかけて盛んに使われた。
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草書体
13 世紀頃生まれたノトルギル (notrgir「草書体」)は,16~18 世紀にかけて盛んに使われた。今日でも,西洋語におけるイタリック体と同じように使われることがある。
[Convent of Pater Noster/ Armenian] |
斜字体
18~19 世紀によく使われた書体にシュガギル(šelagir「斜字体」)がある。
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現代アルメニア文字と発音
現代アルメニア語には,主にアルメニア共和国で使われる東アルメニア語と,離散したアルメニア人の間で使われる西アルメニア語が存在し,2つの文語の間には,発音や正書法において若干の違いが見られる。下表に現代東アルメニア語で用いられている文字,および,その音価,転字,呼称,数価をあげる。
上表の ayb から kʻe まで 36 文字がメスロプが考案した文字に相当する。最後の 2 文字 ō と fe は 12 世紀になって導入された。前者はかつての二重母音 aw を書き表すために,後者は外来語を表すためである。さらに,1940 年の文字改革の際に合字 ev が追加されたために東アルメニア語のアルファベットは 39 字となる。
アルメニア語テキスト
世界人権宣言第一条 [// Universal Declaration of Human Rights -Armenian ] |
古典アルメニア語. Mt 6. 9-13. The Bible in Armenian, 1929, Vienna.[Convent of Pater Noster / 出典] |
西アルメニア語. Mt 6. 9-13 The Bible in Armenian, 1981 [Convent of Pater Noster / 出典] |
ユニコード
アルメニア文のユニコードでの収録位置は U+0530..U+058F である。
アルファベット表示形式領域には合字 (MEN NOW, MEN ECH, MEN INI, VEW NOW, MEN XEH) が収録されている。
注
- ^ 千野栄一 (1988)「アルメニア語」『言語学大辞典 世界言語編(上)』三省堂. p. 557.
- ^ 岸田泰浩 (2001)「アルメニア文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p. 74.
- ^ 岸田 p. 75.
- ^ Jensen, Hans (1970) Sign, symbol and script : an account of man's efforts to write. (G. Allen & Unwin) p. 438.
- ^ Jensen p. 438.
- ^ Jensen p. 439.
関連リンク・文献
- 地球ことば村「世界言語博物館」「アルメニア語」
- Հայոց գրեր Armenian alphabet | アルメニア文字
- 中西コレクション (国立民族学博物館)アルメニア文字
- Omniglot Armenian