ソグド文字 英 Sogdian script

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紀元前2世紀頃のソグディアナの位置 図 |
文字資料の発見地としては,まず敦煌の蔵経洞およびトゥルファン盆地があげられ,この 2 つの地方で,全体の 9 割近くが出土している。敦煌で発見された資料のなかで最も古いまとまった量のものは「古代書簡」と呼ばれる古風な言語で書かれた手紙である。若干の断片は,東トルキスタンの各地(ショルチュク,クチャ,コータン,ローラン)からも出土している。ソグド本土のものとしては,サマルカンドの東方のムグ山で発見された,80 点ほどのムグ文書が有名である。→ 吉田 1991
ソグド文字は,いくつかの字体に分類することができる。「古代書簡」が書かれている文字は,その後の文献の文字に比べて古風で,アラム文字の特徴を多く残している。また,アラム文字に比較すれば草書化しているとはいえ,一つ一つの文字はまだ別々に書かれている。8~10 世紀に書かれた文献の文字には 2 種の字体が区別できる。その 1 つは正書体(formal script)と呼ばれるもので,多くの仏典がこの文字で書かれている。この字体は西暦 500 年頃に成立し,正式な文書を書く文字として定着したものと推定されている。もう 1 つの字体である草書体(cursive script)は,ムグ(Mug)文書に見いだされ,遅くとも 7 世紀には成立していた。
文字構成
次に掲げる文字表において,文字の名称は,セム系の文字に一般に与えられているものである。アラム文字は,エレパンティネ(Elephantine)出土のパピルス(前 5 世紀)に見出されるものである。草書体の文字としては,ムグ文書のものを使っている。語末で特殊な形式をとるものは,カッコの中に入れてある。n と z および x と γ は語頭・語中では区別されないが,語末では前者は引き伸ばされた尾をもち,後者はそれをもたない。草書体の文献では,語中においても,n や x と区別するために x と γ は後続の文字から切り離して書かれる場合がある。

ソグド語テキスト



横書き・縦書き
文字の書き方の方向という点では,ソグド文字はアラム文字同様,右から左へ横書きされていたと一般には考えられている。しかし,上から下に縦書きされている文献が仏典には見いだされる。このことは,さし絵や漢字,ブラーフミー文字の添え書き,貝葉本での書き方の方向から知られる。さらに,7 世紀の初めにソグディアナを訪れた玄奘も,この地域では文字は 20 余字からなり縦に読まれていると報告している。以下,吉田 2014
次は,敦煌の西にあった狼煙台の遺跡で発見された,312 年頃に年代比定されるソグド語の手紙である。これは,紙の右辺にやや大きな余白をとって書き始めたが,下辺まで書き進んで書き足りないと,右辺の余白に,今度は上から下に向かって,90 度回転して書いていったものである。この例に見られるように,4 世紀初めの古代書簡では,ソグド文字はまだ横書きされていたと推定できる。

次は,サマルカンドの東,ムグ山の砦の遺跡から発掘された書簡(722年)である。そこでは受取人が目上の人の場合,冒頭に受取人の名前が来て,その後に差出人の名前が続くがその書き出しは,受取人の書き出しより一段下がって書き始める。受取人に敬意を示し行の始まりの高さを変えるこの方式は,漢文の書式の平出を真似たものであろう。これは,ソグド文字の縦書きと同じ時期に導入された方式であろう。

ユニコード ソグド文字
古ソグド文字をユニコードに登録するための予備提案 が Anshuman Pandey によって提出されている。

関連リンク・参考文献
Sogdian alphabet
- Omniglot Sogdian
- ScriptSource Sogdian
- AncientScript Sogdian
注
- 吉田豊(1991)「ソグド語の写本」『しにか』(巻2,1号)
- ―(2001)「ソグド文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- ―(2014)「ソグド文字の縦書きは何時始まったか」『アジア遊学(175)』
- Skjærvø, P. Okter,熊切拓訳(2013)「イラン諸語のためのアラム文字体系」,Peter T.Daniels, William Bright [編] ; 矢島文夫 総監訳 『世界の文字大事典』(朝倉書店)