サカ語の文字 英 Writing systen for Saka

サカ語(英 Saka, 独 Sakisch, 仏 sace, 露 сакский язык)は,インド・ヨーロッパ語派の東部グループに属する言語。サカ(Saka)とは,古代ペルシア語の碑文に現れる北方の民族の名称で,ヘロドトス以後のギリシア語資料で,スキタイ(Σκύθαι)人とよばれれる中央アジアの遊牧民族,および,紀元前 2 世紀以来,数百年にわたってインド西北部を支配したサカ族も同じ民族であったことが,彼らの残した碑文や貨幣類に残された若干の固有名詞や術後から認められる。吉田(1988) [1]
しかし,今日,われわれが知るサカ語の資料は,大部分,19 世紀から 20 世紀初頭にかけて,各国の中央アジア探検隊がもたらした中期イラン語段階のもので,タリム(Tarim)盆地西北辺に由来するトゥムシュク(Tumšuq)・サカ語と,同南辺の諸遺跡および敦煌から出土したコータン(Khotan,于闐, 右図左下)・サカ語の資料である。これらの資料は,中央アジアのブラーフミー文字で表記され,ギリシア文字を用いるバクトリア語を別にすれば,中期イラン語の中で,完全な母音表記を持つ点で,例外的な存在である。
トゥムシュク・サカ語
コータン・サカ語(Khotanese Saka)より多少古風なトゥムシュク・サカ語(Tumshuqese Saka)の写本は,現在までに 15 片発見されており,そのうち,8 片はトゥムシュクで,そのほか,近傍のマラルバシ(Maralbaši),さらにトゥルファン(Turfan)盆地のムルトゥク(Murtuq)で出土されている。最大のものは,62 行が残る羯麿説(Karmavācanā)断片で,ほかに,仏教・マニ教に属する文書が残っている。文字は,ブラーフミー文字の一種を用いるが,イラン語特有の子音(連続)を表記するため,独自の文字をこれに加える。辛島(2001) [2]


社会経済文書 (紙本墨書 7 世紀 15.4 × 18.5 cm)
文字は草書体の中央アジア・ブラーフミー文字だが,現地語を表記するため母音記号に工夫が見られる。→ 京都国立博物館 編(2009)『シルクロード文字を辿って』(京都国立博物館)

コータン・サカ語
コータン・サカ語は,11 世紀初めに,イスラム勢力(カラハン朝)に征服されるまで,西域南道に栄えた仏教王国コータンの言語である。コータン周辺の寺院遺跡と敦煌から大量の文献が出土している。内容は,仏教文献(経典の翻訳,翻案,創作),医学文献(インドの Ayurveda にもとづく)文学作品,世俗文書に分けられる。コータン語に用いられるブラーフミー文字には 2 種類あり,タリム盆地実南辺出土のサンスクリット写本に用いられる角ばった装飾体の「直立体」は,古形をよくとどめる古コータン語の全写本と,古コータン語をより発展,簡略化した新コータン語の一部に用いられ,これから発達したさまざまな程度の「草体(Cursive)」が,残余の新コータン語の写本に用いられる。




関連リンク・参考文献
Saka language | サカ族
- 世界の文字(中西印刷)ホタン文字
- ScriptSource Khotanese
- Tocharian/Khotanese script Brahmic Scripts
- 熊本裕(1991)「コータン写本学」『しにか』(Vol.2, No. 1)
注
- ^ 吉田豊(1988)「サカ語」 『世界言語編(上)』(言語学大辞典,第1巻,三省堂)
- ^ 辛島昇・熊本裕 他(2001)「ブラーフミー文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- ^ Skjærvo, P. O. (1987) On the Tumshuqese Karmavācanā text. Journal of the Royal Asiatic Society
- ^ Diringer, David (1968) The Alphabet: a key to the history of mankind. (Funk & Wagnalls)
- ^ Bailey, H. W. (1961) Saka texts from Khotan in the Hedin collection. (Cambridge Univ. Pr.)