規範彝文 英 Yi standard writing
規範彝文は,中国四川省の彝族(ロロ族)が 1976 年以降使用している,819 字形からなる表音節文字である。雲南省の小涼山一帯に居住する彝族も四川省の彝族と同じ方言を話すため,この規範彝文を使う。もともとの彝文字(いわゆるロロ文字)は長い歴史と多量の文献をもち,彝族が居住する雲南,貴州,四川,広西の各地で,それぞれ特徴の有る字形と書き順を伝承している。漢字と似た原理(象形,仮借など)による表語文字。伝承によると,起源は唐代にまで遡る。長い期間整理されることなく,また規範化されたこともなかったため,混乱した状態にあり,異体字がことのほか多く,145 字もの異体字をもつものもあった。1字を数通りに読む現象がある反面,彝語の表記に必要な字形が欠ける現象もあって,読み方が統一されず,母音の緊喉・非緊喉の弁別も声調の弁別も,厳格ではなかった。[西田 2001: p. 308]
規範彝文は,四川省の彝族が,原有の字形から 819 字を選び出し,整理し体系づけた文字である。その選択は,筆画が少なく構造が簡単であり,書写に便利で,しかも字形が美しいという原則が重視された。819 字はすべてもともとの彝文字であって,改変を加えていないという。漢字のような表語文字から表音文字への変質は一見奇異にみえるが,この文字は早くから仮借(意味とは無関係に音の類似で字をあてること)が盛んだった背景がある。[西田 2001: p. 311]
文字構成
彝語は4声調からなる。規範化にさいして標準音とされた喜徳語は,43 子音,10 母音からなる。音節文字に 819 字は多いように思うが,4つの異なる声調をもつ,ある1音節に対して,全く違う,互いに関連をもたない字形が用意されているためである。ただし,声調の中,次高調の文字は中平調の字形の上に記号をつけて示し,専用字形を作っていない。なおユニコードでは,記号を付けた次高調字 345 字を収録している。
次に彝文規範字の全体を示す。
規範彝文字は,つぎに示す 26 の部首の下に整理される。字の形と読み方は,仮名文字のように,まったく関連をもたない(高調字と次調字の関連は例外である)。ユニコードでは,Yi Radicals として U+A490..U+A4CF 間に部首が収録される。
一般に,部首の位置は,上,左,右,中,外にある。たとえば,次のようになる。
2つまたはそれ以上の縦画と横画が交叉する場合,縦画によって部首を定め,横画によらない。
数字
数字は,古彝文またはアラビア数字のどちらを使ってもよいとされる。古彝文の数字はもともと,漢字を模倣したものであろう。
重複記号
重複記号は古彝文の(U+A015)字を使う。例:vutlolo を vutlow。また,もとの用法を拡大して,重複による疑問表現や重複による評価表現にも使ってよいと規定されている。
テキスト
サンプルテキスト
世界人権宣言第一条 [Universal Declaration of Human Rights -Nuosu -] |
ユニコード
規範彝文のユニコードでの収録位置は U+A000..U+A48F である。次にその一部を示す。詳細はここを参照。注
- 西田龍雄 (2001)「規範彝文」河野六郎 [ほか] 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂
関連リンク・参考文献
- ロロ文字 | Yi script | Nuosu language
- BabelStone: Yi
- Introduction of Yi Script
- Omniglot: Yi script and language
- 中西コレクション(国立民族学博物館)彝文
- 西田龍雄 (2002)「ロロ文字のはなし」『アジア古代文字の解読』(中公文庫 B7 20)