ハングル 한글 hankŭl 英 Korean nativescript
訓民正音 [http://en.wikipedia.org/wiki/Sejong_the_Great_of_Joseon / Public Domain / 出典] |
名称の由来
ハングルの創制時には「訓民正音」(単に「正音」とも)と呼ばれ(同時に書名『訓民正音』も表わす)が,公式の文字である「漢文」に対して通俗の文字を意味する「諺文」という名称も,早くから用いられた。1894 年の政治改革(甲午改革)にあたり,公用文に漢字と並んで用いることになって「漢文」(漢字)に対して「国文」(国字の意)という名称が用いられるようになり,国号は「大韓帝国」に改められた(1897)。日韓併合(1910)を迎えて「国文」が日本語を意味することから,再び「諺文」と呼ばれる事態となったが,これに代わる名称として考えられたのが「ハングル」「偉大な文字」(「大いなる文字」)である。
文字構成
『訓民正音』の原理に基づくと,基本字母は,子音 14,母音 10 の計 24 個からなる音素文字であるが,音節ごとに組み合わせて用いるので音節文字の性質をも備えている。音節の頭の子音のことを初声,音節の核になる母音を中声,音節末の子音のことを終声という。音節の形式は〈〔初声〕+ 中声 +〔終声〕〉となる。それぞれの音を表わす文字を,初声字母,中声字母,終声字母と呼ぶ。朝鮮語は子音終わりも豊富な閉音節言語といってもよい。
母音字・子音字ともに,最も基本的な字に,画を加えたり,あるいはそれらを組み合わせることによって,同じ系列の字で別の特徴が加わった字を作るというしくみは,音素よりも更に細かく,現代の音声学・音韻論で用いられる弁別素性に近い分析を行っていたともいえる。これは,子音字については中国で用いられた枠組みにすでに含まれているが,母音については,まさに独自の弁別素性的観察と分析が行われ,それに基づいて組み立てられているのである。[福井]
子音字母
子音字母は,それらの発音のしかたにより,鼻音(ㅁ,ㄴ),流音(ㄹ),平音(ㅂ,ㄷ,,ㅈ,ㄱ),激音(ㅍ,ㅌ,ㅊ,ㅋ,ㅎ),および,基本字母に含まれない濃音(ㅃ,ㄸ,ㅆ,ㅉ,ㄲ)を加え 5 種類,合計 19 個からなる。基本字母は原則として 1 字で 1 音を表すが,子音のうち,形の同じ字母 ㅇ は母音で始まる音節を示す記号 [ʼ] と音節末の子音 [ŋ] とを二重に表わす。
平音 | ㅂ [p] [b] | ㄷ [t] [d] | ㅈ [ʧ] [ʤ] | ㅅ [sʃ] | ㄱ [k] [ɡ] | |
激音 | ㅍ [pʰ] | ㅌ [tʰ] | ㅊ [ʧʰ] | ㅋ [kʰ] | ㅎ [h] | |
濃音 | ㅃ [ˀp] | ㄸ [ˀt] | ㅉ [ˀʧ] | ㅆ [ˀsʃ] | ㄲ[ˀk] | |
鼻音 | ㅁ [m] | ㄴ [n] | ᄋ [ŋ] | |||
流音 | ㄹ [r] [l] |
母音字母
基本母音字は,ㅏ,ㅑ,ㅓ,ㅕ,ㅗ,ㅛ,ㅜ,ㅠ,ㅡ,ㅣ の 10 個であるが,半母音 [j] をもつ母音字 4 個を除き,新たに 2 個 ᅦ,ᅢ を加えて,発音に基づき単母音 8 個と分類する視点がある。[野間 1998]
半母音
[ja] や [wa] など,半母音 [j] [w] と母音の組み合せも,母音字母を基本に一画付け加えたり(加画の原則),母音字母どうしの組み合せで表わす。
単母音 |  : | /j/+単母音 | 単母音 | /w/+単母音 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
아 | [a] | → | 야 | [ja] | ᅩ+아 | [o] [a] | → | 와 | [wa] | |
어 | [ɔ] | → | 여 | [jɔ] | ᅩ+애 | [o] [ɛ] | → | 왜 | [wɛ] | |
오 | [o] | → | 요 | [jo] | ᅩ+이 | [o] [i] | → | 외 | [we] | |
우 | [u] | → | 유 | [ju] | ᅮ+어 | [u] [ɔ] | → | 워 | [wɔ] | |
에 | [e] | → | 예 | [je] | ᅮ+에 | [u] [e] | → | 웨 | [we] | |
애 | [ɛ] | → | 얘 | [jɛ] | ᅮ+이 | [u] [i] | → | 위 | [wi] |
末尾子音
末尾子音に用いられる字母は,初声に用いる子音字母のうち用例の無い硬音字母 3 種(bb,dd,jj)を除く 16 種と,基本形が二重子音で終わる語幹のための組合せ字母 11 種の計 27 種の字母が使用される。終声の字母は,初声と中声の組み合せの下に組み合わせるので,この位置の字母は「バッチム」(支え,台)といわれる。二重子音の場合は子音字母の前後どちらかを読む。
音価 | 終声字母(初声に用いる字母) | 複合終声字 | |
---|---|---|---|
前 | 後 | ||
口音 [-p] | ㅂ ㅍ | ㅄ | ㄼ |
口音 [-t] | ㄷ ㅈ ㅅ ㅌ ㅊ ㅆ ㅎ | ||
口音 [-k] | ㄱ ㅋ ㄲ | ㄳ | ㄺ |
鼻音 [-m] | ㅁ | ㄻ | |
鼻音 [-n] | ㄴ | ㄵ ㄶ | |
鼻音 [-ŋ] | ㅇ | ||
流音 [-l] | ㄹ | ㄼ ㄽ ㅀ ㄾ |
字母の組合せ
ハングル [DarkEvil / Public Domain / 出典] |
音節文字の構成
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가 ga | 中声が「ㅏ,ㅑ,ㅓ,ㅕ,ㅣ,ㅐ,ㅒ,ㅔ,ㅖ」のときは、初声字母を左に,中声字母を右に配置する。 | |||
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고 go | 中声が「ㅗ,ㅛ,ㅜ,ㅠ,ㅡ」のときは,初声字母を上に,中声字母を下に配置する。 | |||
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과 gwa | 中声が「ㅘ,ㅙ,ㅚ,ㅝ,ㅞ,ㅟ,ㅢ」のときは,初声字母を左上に,中声字母を下から右にかけて配置する。 |
終声があるときは,これらの下に終声を置く。
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gan | gon | gwan |
音節の頭に子音がない音節の場合には,子音字母を書く位置に,子音がないことを示す「ㅇ」(イウン)という字母を書くことになっている。
初声 | 中声 | 終声 | ||||
ㅇ[子音ゼロを示す] | + | ᅡ [a] | → | 아 [a] | ||
ㅇ[子音ゼロを示す] | + | ᅡ [a] | + | ᆫ [n] | → | 안 [an] |
このように,初声(19),中声(21),終声(27)の字母を組み合わせて構成しうる文字の種類は,計 11,172 種類*にも達するが,特殊な外国語表記に必要なものは除いて,通常の言語表現に用いる文字は 2,800 から 3,000 種類ほどあれば足りるといわれている。なお,各字母の組み合せ方(合字)の詳細は『訓民正音』「合字解」で説明されている。[* 子音字母 19 × 母音字母 21 ×(バッチム 27 + バッチム無し 1)= 11,172]
『訓民正音』ハングルの創制
ハングルの「創制」は 1443 年 12 月であったが,『訓民正音』の名で公布されたのは 1446 年 9 月のことであった。この間,集賢殿に集められた学者の中に,新文字創制に反対する者がいた。反対意見は,古来,漢字を基礎に漢文化を受け入れているのに文字を新たに創るのは中国文化からの逸脱であり,新羅以来の漢字による吏読(りとう)を用いれば固有語も書き表すことができ,学問の興隆に役立つのに対し,原理の異なる新文字では同様の期待ができず,学問振興の障害にもなりうる,などであった。
『訓民正音』は朱子学の世界観で貫かれている。そして,『訓民正音』の解説書である『訓民正音解例 制字解』ではその冒頭で, 《天地の道は,一に陰陽五行のみ。坤復の間は太極と為りて,動静の後に陰陽と為る。凡(およ)そ生類有りて天地の間に在る者は,陰陽を捨てて何(いづ)くにか之(ゆ)かん。故に人の声音,皆陰陽の理有れども,顧(た)だ人の察せざるのみ。今正音を之(こ)れ作るは,初めて智營して力索するに非ず,但だ其の声音に因りて其の理を極むるのみ。理の既に二ならざれば,則ち何ぞ天地鬼神と其の用を同じくせざるを得んや。》( 趙義成の朝鮮語研究室 訓民正音解例 原文と解釈 制字解)と宣言している。陰陽とは,天地・男女・昼夜のように相対する二つの気のことであり,五行とは万物を作り出す木・水・火・土・金・水の五要素のことである。天地間の万物はこの陰陽と五行によって形作られるされる。
五行説
五行説の理論に基づいて,牙・舌・唇・歯・喉の各音と五行との関係を説いている。子音字母の創制原理は「それぞれその形を象って作られた」つまり,牙音,舌音など 5 つの調音点にそれぞれ対応する基本子音字の形は,その発音に関係する発音器官を図形的に表現したものに基ずくとある。牙音の ㄱ [k] 即ち現在の音声学の軟口蓋音は,舌根が喉を閉じる形を象ったものであり,舌音の ㄴ [n] は舌が上顎に付く象ったものである。「正音」における「象形」とは,漢字造字法の根幹をなす「象形」とは違い,音声器官の形を「象形」とした。
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「三才」 天・地・人
母音字については子音字の場合とはことなり,もっとも基本的な 3 つ「ㆍ,ㅡ,ㅣ」はそれぞれ「天,地,人」という所謂「三才」を象形したものであって,これらの母音が発音される際の音声器官をかたどったものではない。
陰陽 | 象形 | 基本字 | 初出 | 再出 |
---|---|---|---|---|
陽性 | 天 | ㆍ ʌ | ㅏ a ㅗ o | ᅣya ㅛ yo |
陰性 | 地 | ㅡ ɯ | ㅓ ə ㅜ u | ᅧ yə ᅲ yu |
中性 | 人 | ㅣ i |
サンプルテキスト
모든 인간은 태어날 때부터 자유로우며 그 존엄과 권리에 있어 동등하다. 인간은 천부적으로 이성과 양심을 부여받았으며 서로 형제애의 정신으로 행동하여야 한다. |
世界人権宣言第一条 [Universal Declaration of Human Rights -Hankuko (Korean) ] |
ユニコード
ユニコードには,ハングルを符号化するために,ハングル字母 Hangul Jamo (U+1100..11FF)と,11,172 文字全部を表現できる組合型音節文字(完成型方式) Hangul Syllables(U+AC00..D7A3)がある。Hangul Jamo は,初声字母(U+1100..115F),中声字母(U+1160..11A2),終声字母(U+11A8..11F9)が定義されており,これらを合成することによりハングル音節文字を表わす。次の表は Hangul Jamo で定義されている字母を Batang フォントで表わしたものである。
注
- 大江孝男 (2001)「ハングル」河野六郎 [ほか] 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂
- 趙義成 『訓民正音 解例』原文と解釈 東京外国語大学大学院 総合国際学研究院 趙義成研究室
- 野間秀樹 (1998)「朝鮮語」東京外国語大学語学研究所 編『世界の言語ガイドブック 2 アジア・アフリカ地域』三省堂.
- 福井玲 (2008)「訓民正音の文字論的性格」『東京大学コリア・コロキュアム講演記録」』
関連リンク・参考文献
- ハングル | 陰陽五行思想 | 陰陽 | 五行思想 | 訓民正音
- 『訓民正音 훈민정음 해례본』 Digital Hangeul Museum
- ハングル文字 中西コレクションデータベース -世界の文字資料- (国立民族学博物館)
- 姜信沆 (1993)『ハングルの成立と歴史』大修館書店.
- 金裕鴻 (2000)『ハングル入門』講談社.
- 野間秀樹 (2010)『ハングルの誕生』平凡社.
- 野間秀樹, 金珍娥 (2007)『韓国語』(ニューエクスプレス)白水社.
補遺
反切表 반절표
ハングル創制以降,反切表はハングル字母の結合方式を簡単に易しく学ぶために用いられた。バッチム字が一番右側の行に示され,続いて「가」行から「하」行まで縦書きで右から左へと配列されている。この表が必要とされた根本的な要因は,ハングルによる表記が「ばらし書き」方式を採用せず,音節単位の「束ね書き」方式を採用したためである。この表と,バッチム法を学べば,音節単位の「束ね書き」方式も容易に習得できることになる。
現在の正書法ではバッチムに多くの字母を認めているため,教科書等に用いられる反切表にはバッチムは示されず次のようになっている。野間(2007)を基に作成した。
ㅏ [a] | ㅑ [ja] | ㅓ [ɔ] | ㅕ [jɔ] | ㅗ [o] | ㅛ [jo] | ㅜ [u] | ㅠ [ju] | ㅡ [ɯ] | ㅣ [i] | |
ㄱ [k] | 가 | 갸 | 거 | 겨 | 고 | 교 | 구 | 규 | 그 | 기 |
ᄁ [ʼk] | 까 | 꺄 | 꺼 | 껴 | 꼬 | 꾜 | 꾸 | 뀨 | 끄 | 끼 |
ㄴ [n] | 나 | 냐 | 너 | 녀 | 노 | 뇨 | 누 | 뉴 | 느 | 니 |
ㄷ [t] | 다 | 댜 | 더 | 뎌 | 도 | 됴 | 두 | 듀 | 드 | 디 |
ᄄ [ʼt] | 따 | 땨 | 떠 | 뗘 | 또 | 뚀 | 뚜 | 뜌 | 뜨 | 띠 |
ㄹ [r] | 라 | 랴 | 러 | 려 | 로 | 료 | 루 | 류 | 르 | 리 |
ㅁ [m] | 마 | 먀 | 머 | 며 | 모 | 묘 | 무 | 뮤 | 므 | 미 |
ㅂ [p] | 바 | 뱌 | 버 | 벼 | 보 | 뵤 | 부 | 뷰 | 브 | 비 |
ㅂ [ʼp] | 빠 | 뺘 | 뻐 | 뼈 | 뽀 | 뾰 | 뿌 | 쀼 | 쁘 | 삐 |
ㅅ [s] | 사 | 샤 | 서 | 셔 | 소 | 쇼 | 수 | 슈 | 스 | 시 |
ᄊ [ʼs] | 싸 | 쌰 | 써 | 쎠 | 쏘 | 쑈 | 쑤 | 쓔 | 쓰 | 씨 |
ㅇ [ø] | 아 | 야 | 어 | 여 | 오 | 요 | 우 | 유 | 으 | 이 |
ㅈ [ʧ] | 자 | 쟈 | 저 | 져 | 조 | 죠 | 주 | 쥬 | 즈 | 지 |
ᄍ [ʼʧ] | 짜 | 쨔 | 쩌 | 쪄 | 쪼 | 쬬 | 쭈 | 쮸 | 쯔 | 찌 |
ㅊ [ʧʻ] | 차 | 챠 | 처 | 쳐 | 초 | 쵸 | 추 | 츄 | 츠 | 치 |
ㅋ [kʻ] | 카 | 캬 | 커 | 켜 | 코 | 쿄 | 쿠 | 큐 | 크 | 키 |
ㅌ [tʻ] | 타 | 탸 | 터 | 텨 | 토 | 툐 | 투 | 튜 | 트 | 티 |
ㅍ [pʻ] | 파 | 퍄 | 퍼 | 펴 | 포 | 표 | 푸 | 퓨 | 프 | 피 |
ㅎ [h] | 하 | 햐 | 허 | 혀 | 호 | 효 | 후 | 휴 | 흐 | 히 |
⃞のうち,ㄱ,ㄷ,ㅂ,ㅅ,ㅈ は平音,ㄹ 音は流音,ㄴ,ㅁ は鼻音。 でマークした文字は濃音, でマークした文字は激音。