パスパ文字 英 ʼPhags-pa script
パスパ文字モンゴル語による牌子(パイズ)[Unknown /Public Domain / 出典] |
この文字が公布された至元 6(1269)年の詔書中では「蒙古新字」,『元史』では「蒙古国字」「新国字」と呼ばれる。これ以降,公文書,印章,貨幣,符牌あるいは牌子(パイツ),さらに碑文など,すべて,この新文字によって表記される建前となった。また,パスパ文字シナ語におけるもっとも重要な資料として『蒙古字韻』がある。 しかし,実際にはこの文字は,個々の音を写すのに,旧来のウイグル文字式の蒙古文字に比べてはるかに正確なものであったが,その反面,煩雑で書きにくかったため,一般には旧来の蒙古文字がさかんに使用されていた。やがて,元が滅亡すると共に,この文字の使用も絶える。
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文字組織
チベット文では左から右への横書きであったのを,パスパ文字はウイグル式蒙古語と同じように左から右への縦書きにしたところに大きな特徴が見られる。字母の多くは,チベット文字と酷似しているが,チベット文字にはない子音文字 q, ɣ や,母音文字 ö, ü, ė を加えている。音節の切れ目は,チベット文字のように小点を付して示すのではなく,CV もしくは CVC の基本音節を連書し,次の音節との間に切れ目を置くことによって示す。2つ以上の文字を連書する場合,多くは,右端(一部の文字では中央)の線を連ねることによって文字どうしを連結し,ひとまとまりとする。
縦書きし,右行する点は蒙古文字と同じであるが,子音字は語内の位置に応じて字形を異にすることはなく,1文字1音価であるから,蒙古語の表記では,蒙古文字よりはるかに正確な表記が可能である。したがって,この文字により蒙古語を表記した資料は,中期蒙古語の貴重な資料と位置づけられている。
莫高窟碑 |
文字構成
次は,パスパ文字とその転写 [IPA]・中国語訳 (サンスクリット) を表す表である。
パスパ文字例
パスパ文字モンゴル語表記
パスパ文字の諸資料のなかでもっとも多いのは,モンゴル語をしるした聖旨碑の類である。下に『1314 年ブヤントゥ・ハーン聖旨碑』を模したものを挙げる。パスパ文字・転写・モンゴル文字は呼格吉勒图 (2004),訳文は中野 (1994) による。
パスパ文字入力
ユニコード
パスパ文字のユニコードでの収録位置は U+A840..U+A87F である。表は Phags-pa Script : The Forty-One Phags-pa Letters を参考に作成。フォントは同サイトから入手。
モンゴル語表記用フォント(Phags-pa Book)
シナ語印章用文字(Phags-pa Seal)
入力方法
パスパ文字用のキーボード設定用ファイル Phags-pa.zip をダウンロードする。解凍したファイルの中の setup.exe をダブルクリックすると,キーボードプログラムがインストールされる。ダウンロードサイトに掲載されているKeyboard Layoutと,スクリーン・キーボードを参照し,テキストを入力する。文字の書字方向は,[縦書きと横書きのオプション(X)] から「縦書き(モンゴル語)」を選択する。
注
- 中野美代子 (1994)『砂漠に埋もれた文字:パスパ文字のはなし』筑摩書房, p. 57.
- 樋口康一 (2001)「パスパ文字」河野六郎 [ほか] 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂
関連リンク・参考文献
- Phags-pa script | 八思巴文 | Imperial Seal of Mongolia
- BabelStone: Phags-pa Script
- Omniglot: Phags-pa alphabet
- 地球ことば村「ことば村・ことばのサロン」 「モンゴルの言語と文字の歴史」
- 中西コレクション(国立民族学博物館)パスパ文字
- パスパ文字('Phags-pa script)を知る