世界の文字
ロヴァーシュ文字 英 Ancient Hungarian Runic characters
ロヴァーシュ文字(rovásírás,イーラーシュ írás は「文字」の意)はハンガリー語で「刻み文字」を意味し,硬い媒体に鋭い物で刻みつけた楔形文字の一種である。セーケイ・ロヴァーシュ文字 (Székely-Hungarian Rovás, székely rováírás),マジャル(ハンガリー)・ロヴァーシュ文字 (magyar rováírás),マジャル・セーケイ・ロヴァーシュ文字 (magyar székely rováírás) とも呼ばれる。19 世紀までは,セーケイ人(székely,ハンガリーの有力な一派)の伝説に基づいて,フン文字(hunírás)とかスキタイ文字 (szittya írás) と呼ばれていた。[1]
ロヴァーシュ文字の成立年代は定かではないが,文字の系統からいって,マジャル人がのちにハンガリー使徒王国を建国することになるカールバート(カルパチア)盆地に征服定住する(895 年)以前の遊牧民時代にすでに使われていたであろうと推定されるが,確証はない。[2]
文字構成
次のロヴァーシュ文字表は,15 世紀の現存する最古の確実な文章資料である「ニコルスブルク字母」(Nikolusburg,チェコ共和国南モラヴァ道ブジュツラフ Břeclav 郡ミクロフ Mikulov 町を指す)によるものである。[3]
ニコルスブルク文字表 1483 年
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1483 年のニコルスブルク文字表 [hu:User:Cserlajos / Public Domain / 出典] |
ミシュコルツイ文字表
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ロヴァーシュ文字の発展に重要な役割を果したミシュコルツィ (I. Miskolci Csulyak,1575~1645) による 2 種類の文字表。[4]
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テレグディの文字表 1598 年
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テレグディの文字表 [ános Telegdi / Public Domain / 出典] |
現存する文字資料
セーケイデルジュ村に残る煉瓦
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セーケイデルジュ(Székelyderzs,ルーマニア名ドゥルジウ Dȃrju)村に残る,ロヴァーシュ文字の彫られた煉瓦。(13 世紀?)[5]
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コンスタンチノポリス(トルコ名:イスタンプル)市の銘刻
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コンスタンチノポリス(トルコ名:イスタンプル)市の銘刻。事実上,軟禁状態におかれていた使節の随員のケテイ=セーケイ・タマーシュ(Keteji Székely Tamás)が 1515 年にエルチ・ハーネ(使節館)の納屋の壁に刻みつけたものを 1553 年に写し取ったもの。[6] |
セーケイ万年暦
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イタリア人皇軍工兵将軍ルイジ・フェルディナンド・マルシリ(Luigi Ferdinando Marsigli)伯爵が 17 世紀に記録した 15 世紀の「セーケイ万年暦」(『ボロニャ暦』とも)。[7] |
エーンラカ村の銘刻
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ルーマニア・アティッドのユニテリアン教会にあるロヴァーシュ文字の銘文(1668 年)[unknown / Public Domain / 出典] |
カルパチア盆地のロヴァーシュ文字
マジャル人がのちにハンガリー使徒王国を建国することになるカルパチア(カールパート)盆地に征服定住する(895)以前の遊牧民時代にすでに使われていたであろうと推定される文字。
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Blessed Lady Our Mother, a Christian song [出典] |
セーケイ・ハンガリーロヴァーシュ文字
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Blessed Lady Our Mother [IEC-10646-2015 - IEC-10646-2015 / Public Domain 出典] |
現代のロヴァーシュ文字
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ラテン文字とロヴァーシュ文字併記の標識 [Kontrollstellekundl / CC BY-SA 3.0 / 出典] |
2000 年 8 月,国土交通省の道路整備機関の協力によって,ロヴァーシュ文字の地名交通標識の制度が誕生し,ハンガリー国内だけでなく,近隣国のハンガリー語圏の市町村でも人気を集めている。その影響で,ロヴァーシュ文字で書かれた店の看板,Tシャツなどファッショングッズのデザインも増えている。この動きはハンガリー固有の文字によって民族の同一性を示すだけでなく,ハンガリー人のユーラシア・アイデンティーも表現している
。[8]
2010 には,文部省の研究機関は,ロヴァーシュ文字の義務教育制度への導入について検討することを決定した。(ラースロー p.274)「民族が生きているのは自分の言語の中だ Nyelvében él a nemzet」が,ロヴァーシュ文字復活運動のモットーになっている。[9]
ユニコード
ロヴァーシュ文字のユニコードでの収録位置は U+10CB0..U+10CFF である。フリーフォント:Noto Sans Old Hungarian
注
- ^ 深谷志寿 (2001)「ロヴァーシュ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p.1150.
- ^ 深谷 p.1151.
- ^ 深谷 p.1152.
- ^ Hosszú, Gábor (2012) Heritage of Scribes The Relation of Rovas Scripts to Eurasian Writing Systems. (Rovas Foundation) (https://archive.org/details) p. 241.
- ^ Hosszú p.210.
- ^ Hosszú p.231.
- ^ Hosszú p.220.
- ^ ラースロー・シーポシュ (2011)「文化を変える力をもつロヴァーシュ文字」池田雅之, 大場静枝 編著『国際化の中のことばと文化』成文堂,p.273.(ラースロー・シーポシュはロヴァーシュ基金会長職である。)
- ^ ラースロー p.274.
関連リンク
[最終更新 2021/11/10]