ヴィンチャ文字 英 Vinča symbols
ヴィンチャ文字(または,古ヨーロッパ文字 Old European / Danube script)は,南東ヨーロッパ,特に,ベオグラード東方 14 km に位置するヴィンチャ遺跡から出土した遺物に書かれた文字(記号)である。
この遺跡は,1908 年から 1932 年にかけて断続的にM・ヴァシチュ(Miloje Vasić,1869~1956)によって発掘された。堆積土は 12 m に及ぶ文化層をなしており,そのうちの約 7 m をヴィンチャ文化層(紀元前 5500 ~紀元前 3500)が,さらに下層の 2 m をスタルチェヴォ文化層(紀元前 6500~紀元前 5500)が占めている。このように文化層がはっきりと分かれている遺跡は他に発見されておらず,そこにはヴィンチャ文化遺物群の年代決定や類型学にとって貴重な手がかりが残されていた。 [1]
ヴィンチャ文化遺跡分布,前 5300~3500 年頃 [2]
ヴィンチャ文字資料
ほとんどの銘文は土器に刻まれている。残りは紡錘(平らな円筒型の環),人形,その他の物品の小さな集まりの上に現われている。記号それ自体は動物に似た表現,櫛やブラシのパターン,および卍のような,十字のような,山形模様のような抽象記号を含む,各種の抽象的で典型的な絵文字からなる。
タルタリアのタブレット
1961 年,ルーマニアのタルタリア(Tărtăria)村で,Nicolae Vlassa が溝の発掘を行ったところ発見した 3 枚のタブレットがある。刻印は石の片側だけ刻まれていた。1 枚には,2 頭の動物の姿が素描されており,1 頭はヤギで,コムギの穂の描かれている。他の 2 枚の板には穴が開いているため,お守りのようなものだったのではないかと推測されている。線によって 4 つの区画に分けられ,それぞれの区画に印が刻まれている。何を表しているのかわからないものもあるが,動物,壷,植物など,すぐにそれとわかるものもある。
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タルタリアのタブレット 3 [вероятно / Public Domain / 出典] |
文字以前の記号体系
考古学者マリヤ・ギンブタス(Marija Gimbutas,1921~1994)は,印が文字を表現しているという考えの最初の提唱者であり,「古ヨーロッパ文字」という名前を作り出した人物である。彼女は,ヴィンチャの印が古ヨーロッパ語の文字体系であったか,あるいは,よりありそうな可能性として,一種の文字以前の記号体系であるという説も立てた,
古ヨーロッパ文字は,古代エジプトやシュメールの文字より数千年ほど古く,今までに発見された文字・記号の最古の形を表しているとみられている。しかし,埋蔵物に表示された銘文はすべて短く、表現言語が知られていないために、ほとんどの考古学者と言語学者は,ギンブタスによるヴィンチャ記号の文字体系としての解釈に反対している。
ヴィンチャ文明期に用いられた記号
ヴィンチャ文明期間に現れた文字・記号類を,Haarmann [3] 掲載の記号をフリーフォント Danube script Gimbutas.ttfを用いて示す。
- 最古期に現れた記号
- ヴィンチャ文明の全期間において現れた記号類。
- ヴィンチャ文明末期に現れた記号類。
- その他の記号
注
- ^ ギンブタス,マリヤ 著 ; 鶴岡真弓 訳 (1998)『古ヨーロッパの神々』(新装版) 言叢社, p. 20.
- ^ Haarmann, Harald (1991) Universalgeschichte der Schrift. Campus, p. 71.
- ^ Haarmann p.76