地球ことば村
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【地球ことば村・世界言語博物館】

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世界の文字

J・R・R・トールキンの創作した架空文字 英 Temgwar


古英語を専門とする文献学者であるトールキン(John Ronald Reuel Tolkien)は,彼の小説「ホビットの冒険,「リングの主,「シルマリルの物語」などの作品中で二つのエルフ語,すなわち有名な「クウェンヤ」と「シンダール語」などで用いられる人工言語を創造した。また,これらの言語を表記するためにテングワール(Tengwar,キアス(Cirth)といった文字体系を創り上げた。

     目次

テングワール

テングワールによる世界人権宣言第1条 [J. 'mach' wust / Pubic Domain / 出典]
トールキンは,また,作品を書くためにいくつかの異なる文字体系(Mode)を作成した。テングワールは彼の作品で最も頻繁に現れ,クウェンヤ語やシンダール語,暗黒語などの彼が発明した言語を書くのに用いられた。それはまた、英語や他の言語を書くために使用することが可能であった。

クウェンヤ語は,トールキンの『ホビット『指輪物語』などの「なかくに」を舞台とした作品の中で,エルフ族(エルダール)が話す言語の一つである。その文法と音韻論はフィンランド語に似た音韻また文法(名詞の格,動詞活用など)をもつ。エルダール語には 2 種類あり,上のエフル語すなわちクウェンヤ語と,灰色エルフのことばシンダール語(後述)である。

文字構成

『指輪物語 追補編[1]の追補 E に第三紀の西方諸国で用いられたテングワールの一覧表が掲載されている。子音は「基本文字」24 文字と「追加文字」16 文字からなる。クウェンヤ語における音価[2] は筆者が追記したものである。

基本文字・追加文字の表 (Three modes of tengwar; Yellow: Classical mode, Pink: Mode of Beleriand, Grey: General mode [Axuan / CC BY-SA 3.0 / 出典]

基本文字

Parmatéma [Public Domain / 出典]
基本文字の子音は,調音点 [t, p, k, kw] を表す系列( I~IV テマール temar)と調音形式(破裂音か摩擦音か,など)を表す階梯(1~6 ティエルレア tyeller)がある。表においては、上の六段が基本文字で、縦列が系列、横列が階梯になっている。系列と階梯に従って形状が規則的に変化する。1~4 が標準的な形であり,ルーヴァ(lúva)すなわち「弓形線」(bow)の向きとその開閉で系列を示し,弓形の数とテルコ(telco)すなわち「軸線」(stem)の伸びとその向きで階梯を示した。

次に,I~IV の系列で調音部位を,1~6 の階梯で調音方法と発声を決定した。各字母は軸線の伸びが下だと閉鎖音(破裂音,上だと閉鎖が開いて摩擦音となり,弓形線が 1 つで無声,2 つで有声となった。軸線が上下に伸びていない有声音の階梯 5 は鼻音であり,この流れでは階梯 6 は無声鼻音となるが,フェアノール文字を用いる言語でそういった音は滅多になかったので,階梯 6 には各系列で最も弱い子音,もしくは「半母音」的子音(semi-vocalic consonants)があてられる場合が多かった[3]

追加文字

24 の基本的文字以外を追加文字と呼ぶ。追加文字で厳密に独立した文字は 27 と 29 のみで,他の文字の変形であり,一般的に割り振られた音価も同様に元の文字の音から変異した音であった。

母音

母音(テフタール tehtar)は,クウェンヤで「記号」を指す。文字に添えることで,母音や(補助的に)子音を表わす。テフタを使う場合は,クウェンヤ・ラテン語のように母音で終わることが多い言語では,母音を直前の子音の上に置く「クウェンヤ式」の読み方をし,子音で終わることが多いシンダール語・英語のような言語では,母音の次の子音字の上にテフタを置く「シンダール式」の読み方をする[4]

Tehtar [Taco / Public Domain / 出典]

数字

数字は右から左へ書く[5]

数字 [WIKIBOOKS: Quenya/Numerals]

各種モード

シンダール語

シンダール語あるいはシンダリン(Sindarin)は,トールキンの神話では,かつて最も使われたエルフの言語だった。また,エルフの「大いなる旅」の後に残されたテレリであるシンダールの言語で,共通テレリ語と呼ばれる初期の言語から派生した。ここでは,母音も独立した文字で表す完書体(ベレリアンドのモード)が使われている[6]

ベレリアンドのモードで書かれた詩 'Elbereth Gilthoniel' [Sémhur / CC BY-SA 4.0 / 出典]

暗黒語

トールキンのファンタジー小説に登場する架空の魔法の指輪「一つの指輪 'One Ring'」に,モルドール族の暗黒語で書かれた刻文。「一つの指輪」は普段は飾りのない金の指輪にしか見えないが,火で熱すると指輪の表と裏に火文字が浮かび上がる。これはサウロンの燃えるような手を指輪が恋うるためであるという。火文字にはエルフの文字が使われているが,その言葉はモルドールの暗黒語(ブラックスピーチ)である[7]

「一つの指輪」に書かれたテングワールの銘 [Xander / Public Domain / 出典]
Ash nazg durbatulûk, ash nazg gimbatul, Ash nazg thrakatulûk agh burzum-ishi krimpatul.
指輪の銘文 [Ssolbergj / CC BY-SA 4.0 / 出典]
意味
一つの指輪は全てを統べ、
一つの指輪は全てを見つけ、
一つの指輪は全てを捕らえて、暗闇の中に繋ぎとめる。


キアス 英 Cirth

キアスを最初に考案したのはドリアスの伶人ダイロン(ドリアスにいた,シンゴルの宮廷吟遊詩人にして伝承の大家,学者。サイロスの友人)であると設定される。この文字は,ベレリアンドのシンダールに用いられた初期の古いキアス,石や木に名前や碑文を刻むために考案された文字で,刻みやすいように直線で構成された角ばった形をしており,ルーン文字と呼ばれた。この文字は,後に改良が加えられ,主に『ホビットの冒険』『指輪物語』のなかでドワーフ族が使用するようになった。ちなみに,ドワーフは,架空世界である中つ国において背の低い頑健な種族であり,女性も含め全員がひげを生やしている。→ キアス

文字構成

Anglo-Saxon ルーン文字に非常に形が似ている。

キアス文字表 [Wikipedia: Cirth]

キアス見本

『ホビットの冒険』の作中に登場するドワーフ族の 1 人バーリンノ碑文。アンゲアサス・モリア(エレボール)モードのキアスで記されている。

Balin Tomb Description from J. R. R. Tolkien's novels [Naugperedel / CC BY-SA 3.0 / 出典]
1 行目から Balin / Fundinul / Uzbadkhazaddûmu


サラティ英 Sarati alphabet

トールキンの神話のなかでは,ヴァリノールであるティリオンのルーミルの発明である。のちに中つ国でも現実でも親しまれたフェアノールのテングワールは,サラティを範に作られた。テングワールやほかのエルフの文字やキアスと違い,サラティの書字方向は複数あって,そのなかで上から下に書くものがもっとも普通だった。ほかには左から右へ,右から左へ,更には牛耕式 (ブストロフェドン) で書かれた。→ The Sarati of Rúmil

のちのテングワールでは字が子音を表し,ダイアクリティカルマーク(テングワールに関する術語ではテフタと呼ばれる)が母音を表すが,サラティでは,母音記号は,縦書きのとき字の左側(ときに右側)に書かれ,横書きのとき上側(ときに下側)に書かれる。トールキンによれば,子音は母音より顕著であり,また母音はほぼ修飾だと考えられた。クウェンヤを書き表すとき,もっとも使われる母音であるため “a” を示す記号はふつう省略された。これにより,サラティは “a” を随伴母音とするアブギダと呼べるかもしれない。

文字構成

子音字

子音字[Wikipedia: Sarati]

母音記号

母音記号[Wikipedia: Sarati]

書字方向

書字方向 [The Sarati of Rúmil]

サラティ見本

Valar empannen Aldaru / mi kon-alkorin / ar sealálan táro / ar sílankálan ve laure ve misil. "The Gods planted the Two Trees / in a blessed garth / and they grow high / and shine like gold like silver". [LorenzoCB / GNU Free Documen-tation License, 1.2 / 出典]

関連リンク・参考文献

[最終更新 2023/11/10]