ポエニ文字 英 Punic script
古代地中海の海洋交易に従事したファニキア人の言語フェニキア語の方言ポエニ(ピューニック)語(Punic)を表記するため,前6世紀から後2世紀にかけて使用された文字である。Punic は北アフリカのフェニキア植民地,とくにカルタゴのフェニキア人を意味する Poenus/Poenni の形容詞 Punicus (= Poenicus) より派生した単語である。フェニキア文字の開始をいつとするかには異論も多いが,前 11 世紀中葉をもってフェニキア文字の確立とみなすことができる。ポエニ文字は,フェニキア文字の時代的・地域的発展形であり,アルファベットの起源の直接の子孫でもある。[ 高階]
カルタゴは,この地方の政治的・経済的中心であったが,ローマとのポエニ戦争で前 146 年破壊された。これに伴い,西地中海の諸植民地は中心を失い,保守的傾向がくずれて,言語・文字ともに自由に発達した。したがって,前 146 年以降を新ポエニ語・新ポエニ文字として区別するのが慣行である。
碑文の多くは石に刻まれたものであるが,銅製祭壇や鉛に刻んだもの,陶器に引っ掻くように記したもの,陶片にインクで書いたものなどもある。内容は,神への奉納,建造由来,墓碑,呪咀など多様であるが,最も多いのは,女神 Ti/anit に子供を犠牲として捧げたことを記すものである。書記材料の制約から,長文の資料は残存せず,文学作品も後代まで伝承されなたった。
文字構成
1字1子音の表音文字 22 からなり,右から左向きに横書きされる。文字の配列順は,原カナン文字においてすでにこの通りであった。フェニキア語では厳密な子音のみの表記であったが,ポエニ語においては,いわゆる「読みの母(matres lectionis)」として,子音としての価値を失った ʼ[ʔ] と ʻ[ʕ] が不特定の母音表記に用いられることがあり,また,外国の固有名詞に限定されるが, w/y もときに母音表記に用いられた。
1: フェニキア文字, 2: ポエニ文字, 3: ヘブライ文字転写, 4: ローマ字転写, 5: ギリシア文字
テキスト
サンプルテキスト
アルジェリア州デレスで石に刻まれたポエニ文字が発見された。Jerjem の娘 Amet Baal がこの石を置いた,とある。[Jongeling; Dussaud / Public Domain / 出典] |
イタリック体
[Jensen]
ユニコード
つぎは,本項で使用したフォント Phoinike の文字コード表である。
注
- 高階美行 (2001)「ポエニ文字」河野六郎 [ほか] 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂 p. 913.
- Jensen, Hans (1958) Die Schrift in Vergangenheit und Gegenwart. (VEB Deutsche Verlag der Wissenschaft) pp. 270-271.
関連リンク・参考文献
- Punic language
- Omniglot: Punic