フルリ文字 英 Hurrian writing
フルリ楔形文字,また,フッリ文字とも。紀元前 2 千年紀の中頃にオリエント世界で活躍したフルリ人が記録を残すために使用した楔形文字。フルリ人の言語であるフルリ語はウラルトゥ語と親縁関係にあることは確認されているが,それ以外の言語との系統的な関係は不明のままである。[大城]
メソポタミア上・中流域からシリアにかけて勢力を伸ばし,楔形文字の使用をはじめとするオリエントの文化を,小アジアや北部シリア地方に伝えるのに重要な役割を果たした民族がフルリ人で,彼らの言語,すなわち「フルリ語」は,ボガズ・キョイ(Bogazköy)のヒッタイト資料だけでなく,さまざまな地域から発見された楔形文字およびウガリト文字の記録によって知られる。紀元前 2 千年紀の半ば頃,フルリ人が建てたミタンニ王国は,エジプトやヒッタイトと並ぶ強国となった。[松本]
Hurrian foundation document-AO 19937-IMG 3470-gradient [Rama / CC BY-SA 3.0 fr / 出典] |
右図「ウルケシュのライオン」青銅製のウルケシュのライオンと呼ばれる小像にフルリ語最初期の文章が書かれた石版が添えられている。碑文:『ウルケシュの王ティシャタル(エンダン)はネルガル神の神殿を建てた。ヌバダグ神がこの神殿を守りますように。ヌバダグが誰であれこれを破壊する者を破壊しますように。その者の祈りに神が耳を傾けませんように。ナガールの淑女,太陽神シミガ,そして嵐の神がこれを破壊する者を一万回呪いますように。』 [Hurrian foundation pegs]
文字組織
古バビロニア文字を基にしたフルリ文字の表記はすべて表音的で,「母音(V)」「子音+母音(CV)」「母音+子音(VC)」の 3 種に区別され,総数約 80 個あまりである。これらの文字以外では,少数の「子音+母音+子音(CVC)」の文字と,ごくわずかの決定詞(または限定詞)と表語文字が見られる。
文章例
ミタンニ書簡 [Jon Bodsworth / free / 出典] |
女神ニッカルへの讃歌
ウガリトの第 15,17 発掘調査(1950~1955 年)で見つかった 3 つの断片がつなぎ合わさると,1 つの完全な粘土板となった。これが,史上最古の楽譜が含まれるテキストである。粘土板の大きさは 7.62 × 19.05 cm であって,表裏に楔形文字が記されている。最初の 1~4 行目は,表面に始まり右へと続き裏面に到りフルリ語で記される。その 4 行の下には 2 本の画線が引かれ,表面には更に 5~10 行目にわたりアッカド語の単語がほとんどの場合数字を伴って書かれている。裏面には奥付が刻まれる。【参照】Hurrian songs Listen to the Oldest Song in the World
バビロニアの諸テキストと照合してみると,5~10 行目に現れるアッカド語の単語が音楽用語であって,何らかの音符を指し示しているのではと考えられた。そして,アッカド語の部分が示しているのは,フルリ語の部分(1~4 行)を如何に歌うかということであると想定された。[小板橋]
女神ニッカルへの讃歌 [Unknown / Public Domain / 出典] |
注
- 大城光正 (2001)「フルリ文字」河野六郎 [ほか] 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p. 877.
- 小板橋又久 (1980)「ウガリト出土のアッカド語注釈付フリル語の詩(うた)」『オリエント』(32-1)
- 杉勇 (2006)『楔形文字入門』講談社, p 190.
- 松本克己 (1988)「アナトリア諸語」亀井孝 [ほか] 編著言『言語学大辞典 第1巻 (世界言語編 上 あ~こ)』三省堂.
参考サイト
- Hurrian language | フルリ人 | ミタンニ
- ScriptSource Hurrian