エブラ文字 Eblaite/Eblaitic/Eblaic script
エブラ文字は,シュメール系楔形文字の一種で,シリアの遺跡テル・マルディク(Tell Mardikh,古代名 Ebla ないしはイブラ Ibla)から出土した文書に使用されている文字。エブラの文書庫が発見されたのは 1974 年で,これまでに掘り起こされたエブラ文書の数は 1 万 5 千点ともいわれるが,小さな破片も 1 点と数えられているため,粘土板の実数はこの半分以下になると考えられる。これらの文書が書かれたのは前 2300~前 2250 年頃と推定されている。[池田 p. 176]
発見当初,文書の言語は西セム語,あるいはカナン語の先祖とすらいわれたが,現在ではこの説は支持されていない。現段階では,1)古アッカド語の一方言,2)アッカド語と並んで東セム語派をなす一言語,あるいは,3)東セム語派と西セム語派の中間的な言語,などの諸説があり,結論は出ていない。
文字体系はアッカド文字に準じるが,次のような特色が見られる。1)表語文字の割合が著しく高い(行政経済文書では約 9 割),2)閉音節がしばしば開音節文字の組み合わせによって表記されている(たとえば,/ʼummu/ 「母」を ú-mu-mu と書く),3)‘l’ を含む音節文字で /r/ を書き表す場合がある,4)呪術テキストでは暗号化表記(たとえば,/kabkabu/ 「星」を gaːgaːbaːbu と書く)も見られる,といった特異性が見られる。1)と 2)の特徴は古アッカド語にも見られるが,3)と 4)はエプラ独特の特徴である。このことから,楔形文字は,メソポタミア北部からエブラにそのまま輸入されたのではなく,シリア地方において独自の発展を遂げていたことが窺える。
文字資料
エブラ王宮のアーカイブ [Davide Mauro / CC BY-SA 4.0 / 出典] |
注
- 池田順 (2001)「エブラ文字」河野六郎 [ほか] 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂.
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[最終更新 2022/03/14]