ウガリト文字 英 Ugaritic script

ウガリト楔形文字ともいう。1929 年に 48 枚の粘土板文書がシリアの地中海沿岸のラタキヤ(Latakia)の北,約 15 km に位置する現在のラス・シャムラ(Ras Shamra)で発掘された。そこは古代のウガリト王国(紀元前 1400 ~ 前 1182)の都市であった。これらの粘土板文書に記されていた楔形の文字は,それまでまったく未知のものであったが,翌 1930 年には,バウエル(H. Bauer),ドルム(E. Dhorme),ヴィロロー(C. Virolleaud)の3人の学者によって,次々と解読が行なわれ,その年のうちにほとんどすべての文字の音価が確定し,その言語(ウガリト語)がヘブライ語やフェニキア語に近い北西セム語の 1 つであることが判明した。
現在知られている最古のウガリト文字資料は,紀元前 1360 年頃のニクマド 3 世の治世からのもので,前 14 世紀半ばにはウガリト文字が広く用いられていたと考えられている。しかし,前 12 世紀初頭すなわち後期青銅器時代の終わりには,ウガリト王国の崩壊とともにウガリト語およびウガリト文字の使用は終わったようである。ウガリト文字の使用がいつ始まったかについては,十分な歴史的情報がないが,次のように推測されている。ウガリトの楔形アルファベット文字体系は,紀元前 14 世紀頃に当時すでに流布していた原カナン文字の線文字アルファベットを,バビロニアのシュメール・アッカド文字の伝統に従って粘土板上に記すことから発案されたもので,本来 27 文字からなっていたが,のちに3文字が追加されて 30 文字となった。→ 津村
文字構成
ウガリト文字の音価は左下の表に挙げたとおりである。個々の文字の音価の確定は 1930 年にはほぼ完了していたが,その後 1955 年に発掘された右下図のテキスト KTU 5.14 (→ Dietrich) はこの解読を裏付けるものとなった。それはウガリト文字のリストで,アッカド(音節)文字によってウガリト文字の読みが一つ一つ定められている(図 a,b;左欄がウガリト文字,右欄がアッカド文字)。
音価とローマ字転写 | ; | テキスト KTU 5.14 |
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ウガリト語テキスト
サンプルテキスト

出典;O'Conner,Free Font: ALPHABETUM Unicode font
文字入力
文字コード
ウガリト文字のユニコードでの収録位置は U+10380..U+1039F である。

Free Font: MPH 2B Damase
文字表示テスト
Noto Sans Ugaritic など,ウガリト文字フォントがインストールされていれば,下表右下セルにウガリト文字が表示される。
正しい表示 | お使いのコンピュータでは |
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入力方法
Unicode ウガリト文字フォントに対応する入力メソッドは存在しない。他方,アスキーコードに対応したウガリト文字フォント Ugaritic 3.0.1 には,キーボードの配列表が付属する。【参考】 多言語環境の設定
関連リンク・参考文献
ウガリト文字 | ウガリト語
- Omniglot: Ugaritic cuneiform
- AncientScript: Ugaritic
注
- 津村俊夫(2001)「ウガリト文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- Dietrich, M., O. Loretz, & J. Sanmartin (1976) Die keilalphabetischen Texte aus Ugarit. (Neukirchener Verlag) [=KTU]
- O'Conner, M.,熊切拓訳「碑文セム系文字体系」,Peter T.Daniels, William Bright [編] ; 矢島文夫 総監訳 (2013)『世界の文字大事典』(朝倉書店)