フェニキア文字 英 Phoenician script

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フェニキア文字の起源は,原カナン文字およびこれと同種と考えられる原シナイ文字を経由してエジプト聖刻文字(エジプト文字)に遡るとする説が最も確からしいといわれる。その際,原カナン文字からフェニキア文字への移行は連続的であって,明確な境界線を設けることは困難であるが,絵文字的特徴を完全に払拭した 22 個の字母からなること,右から左へ横書きされていることが,目安となる。
文字構成
22 個の字母からなり,それぞれ互いに異なる1子音を表し,母音を表す字母はない。これは,エジプト単音文字に倣った原カナン文字の特質を継承したものと思われるが,子音文字だけで事足りたのは,表記される言語たる北西セム語の語根が子音だけで構成されていたおかげである。その言語を知る者は,子音さえ与えられれば,文脈によって母音を肉づけして音形を再構成することができるのである。
「アルファベット」というギリシア語が裏書するギリシア字母配列順も,その字形・名称とともに前8世紀頃までに,フェニキア人から伝えられたものである。アルファベット順がこのように決まった理由は不明である。先にできていたアッカド楔形文字表の配列順序に影響されたとする説,占星術に基ずくとする説,我々の「いろは歌」のように記憶に便利な有意味の単語を並べたとする説,音特徴の類似に基づいてまとめられたとるす説,など様々である。

フェニキア語テキスト
サンプルテキスト
フェニキア文字は,右から左に書かれる。 b や h が,普通のギリシア文字の場合と反対に左に向かって開いているのはそのためである。語と語の間は,初期の碑文では,縦線や点で分けられているものも多いが,多くは語間を空けることもなく続けて書かれている。次の文字見本は,レバノン,ビブロスのアヒラム王石棺蓋刻文,前 1000 年頃(冒頭行のみ)のもの。→ 松田


フェニキア文字碑文
図左は,ウル出土の象牙箱にあるフェニキア文字碑文。図右は,キプロスのティオン出土の大理石板にインクで書かれたフェニキア文字碑文。
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フェニキア文字手紙
エジプトのサッカラで見つかった,前 6 世紀にパピルスに書かれた手紙,

文字入力
文字コード
フェニキア文字のユニコードでの収録位置は U+10900..U+1091F である。

文字表示テスト
Noto Sans Phoenician などのフェニキア文字フォントがインストールされていれば,下表右下セルにフェニキア文字が表示される。
正しい表示 | お使いのコンピュータでは |
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関連リンク・参考文献
フェニキア文字
- Omniglot: Phonician/Canaanite
- phoenicia.org A Bequest Unearthed, Phoenicia, Encyclopedia Phoeniciana
- The Phoenician Alphabet
注
- ^ 松田伊作(2001)「フェニキア文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)