ロンゴロンゴ文字 英 Rongorongo script

イースター島文字(Easter Island script),ラパヌイ文字(Rapanui script)ともいう。チリ共和国ラバヌイ島(イースター島)でかつて使われた,絵文字あるいは象形文字である。ただし,文字性に関する議論はまだ決着していない。「語り部の板」(kohan rogorogo,/g/ は軟口蓋鼻音 [ŋ])と呼ばれる文字板などに陰刻されて伝わる。運用に関する知識はほぼ完全に失われた。19 世紀末以来,多くの研究者が解読に努めたが,現在に至るまで解読に成功していない。図はレイミロ(文字板 L)と呼ばれる紫檀製の胸飾りで,44の絵文字が刻まれている[出典]。白地に赤いレイミロを配したものがラパヌイの旗となっている。


この文字は,発見当初こそラパヌイ文化の古い伝統に属すると考えられたが,現在では,ヨーロッパ接触(1722 年)以後,島民によって創作されたと考えられている。古い伝統ではないとされる理由は,その存在が考古学的には証明できないこと,文字をめぐる口頭伝承が矛盾だらけであること,などである。また,島外からの伝来が否定される理由は,個々の文字の形状として象形された事物が,すべて島の自然と伝統文化の中に存在していることである。創作の材料となったのは,石刻絵文字(petroglyph)や刺青の図案などである。 [1]
現存する資料は,木材に刻まれた 26 点のテキストで,それぞれ 2 から 2,320 の単独の絵文字と,合計で 15,000 以上の合字の絵文字が刻まれている。そのうち,状態が良好で,本物であることに疑いがないのは約半分のみである。ロンゴロンゴのほぼ完全な収集で,唯一公刊されているものは,バルテル (Thomas Sylvester Barthel) が 1958 年に発表したものである。バルテルは個々の文字に 3 桁の識別番号を付けて,文字をグループ(基本形 120 程と,480 はその異体字,あるいは合字)に分類した。下図を例にすると,100 の位の2は「耳」のあるもの,3 と 4 は口を開けているもの,5 はその他様々な形の頭部,6 は嘴のあるもの,7 は魚もしくは節足動物などである。10 の位と 1 の位は,文字の形状についての特徴に応じて付けられており,外見の似たものはすべて同じ番号が付けられている。

ロンゴロンゴ文字テキスト
文字性に関する議論には,この文字が備忘のための絵文字(pictograph)にすぎないとする説と,十全の象形文字(iconomatography)であるとする説がある。現在も解読を続けている人々は,この文字を表語性と表意性を備えた象形文字と考えている。
サンプルテキスト
下図は,小サンティアゴ文字板(Recto of rongorongo Tablet G [Small Santiago])と呼ばれるものである(32 cm × 12 cm × 2 cm,上が表面,下は裏面)。720 の絵文字が刻まれた紫檀製の文字板。浅い溝(行)がある。表裏とも 8 行のテキストが刻まれている。模写 330 KB 出典 Fischer (1997) [2]


倒立牛耕式文字配列
テキストは左下に始まり左上に終わる。倒立牛耕式(inverse boustrophedon)と呼ばれる文字配列をとる。各行は左から右に横書きされている。奇数行の文字は正立しているが,偶数行の文字は倒立している。したがって,各行の終わりで文字板を 180 度回転し,天地を逆転させて読むことになる。図は,RongoRongo Glyphs を用いて作成した。

ペトログリフ
イースター島はポリネシアの中でも,さまざまな種類のペトログリフが最も多くみられるところである。家屋や石壁や,モアイ像,「プカオ」と呼ばれるモアイの頭の被り物の表面など,絵を描くのに適していると思われる壁面のほとんどすべてにペトログリフが見られる。図形のデザインは,古くからの鳥人信仰に基ずく競技における勝者(tangata manu =鳥人)の図など,儀式の中心として描かれたものや,創造神マケマケの肖像,ウミガメ,マグロ,タチウオ,サメ,クジラなどの海洋生物,ニワトリ,カヌーなどがある。ペロトグリフに見られる人間型や動物型の図形の中には,ロンゴロンゴ文字に対応するものも存在する。
![]() |
a) 擬人化した像, (b) 鳥人, (c) 亀, (d) 植物, (e) 二つの頭を持つグンカンドリ, (f) アジサイ, (g) グンカンドリ, (h) 魚, (i) 眼帯, (j) 陰門, (k) 三日月, (l) レイミロ, (m) 釣針。出典:Macri (1996) [3] |
絵文字
バルテルが 1958 年に発表した絵文字の一例。出典 Wikimedia Commons File:Rongorongo-sample-en.png

下図は,Easter Island Foundation が販売しているフォント“Rapanui Dingbats” に含まれる,ペトログリフと絵文字の例である。

関連リンク・参考文献
地球ことば村:ラパヌイ語
ロンゴロンゴ | Rongorongo
- Barthel, Thomas S. (1958) Grundlagen zur Entzifferung der Osterinselschrift. (Cram, de Gruyter)
- The Rongorongo of Easter Island
- Proposal for the Unicode Character Set: RONGORONGO
348 KB
- Sergei V. Rjabchikov: RONGORONGO Home Page
- Easter Island Foundation
- Jacques B.M. Guy: The Easter Island Tablets [邦訳]
- Horley, Paul (2012). Rongorongo Script: Carving Techniques and Scribal Corrections
- Splendid isolation : art of Easter Island / by Eric Kjellgren with contributions by Jo Anne Van Tilburg and Adrienne L. Kaeppler
- Pozdniakov, Konstantin; Igor Pozdniakov (2007). "Rapanui Writing and the Rapanui Language: Preliminary Results of a Statistical Analysis". Forum for Anthropology and Culture 3: 3–36.
(290.32 KB) . イゴール・ポズドニアコフとコンスタンティン・ポズドニアコフが、2007 年に発表したロンゴロンゴの新しい絵文字目録。ここでは,52 種類の基本となる絵文字を示し,その他はそれらの異体字と,組み合わせた合字であると述べる。
注
- ^ 柴田紀男(2001)「ラバヌイ文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- ^ Fischer, Steven Roger (1997) Rongorongo : the Easter Island script : history, traditions, texts. (Oxford : Clarendon Press)
- ^ Macri, Martha J. (1996) Rongorongo of Easter Island. In: Daniels, Petre T. and William Bright (ed.) The world's writing systems (Oxford) 邦訳:矢島文夫[総監訳」『世界の文字大事典』(朝倉書店 2013)