カローシュティー文字 Kharoṣthī script

カローシュティー文字は,ブラーフミー文字と同様,インド系の言語を表記する文字である。この文字は,インド系言語を表記できるようにアラム文字を改良してできたものであり,アラム文字と同じように右から左に書かれる。これは,西北インドがアケメネス朝ペルシアの版図に入り,この帝国の公用語であるアラム語がこの地方で使われていたことによるものである。しかし,子音文字であるアラム文字の体系に対し,音節文字であるカローシュティー文字では,アラム文字の表音組織そのものが改変されている [1]。 右図拡大
カローシュティー文字で書かれた資料の中,シャーフバーズガリー(Shahbazgarhi)とマーンセーフラー(Mansehra)にあるアショーカ(Aśoka)王の2つの碑文が最古の資料で,前3世紀中葉のものである。その後,この地方を支配した諸王朝の王や諸侯たちによる碑文や,貨幣・金属板・舎利容器の銘などがこの文字によって書かれている。それらのほとんどは西暦紀元前1世紀から後2世紀のもであるが,一部には紀元後4,5世紀にまで下るものもあるとされる。
この文字による資料はまた,中国西部からも出土している。代表的なものには,コータン(Khotan)出土の漢字とカローシュティー文字による銘のある,いわゆるシノ・カローシュティー(Sino-Kharoṣṭhī)銭(一説に紀元後1世紀から2世紀頃のもの),および,白樺の樹皮に書かれた『法句経』(紀元後2世紀頃のものとされる)や,ニヤ(Niya),ローラン(Loulan),エンデレ(Endere)出土の木簡類(紀元後3~4世紀)がある。
文字構成
カローシュティー文字は,ブラーフミー文字と同様,音節文字である。下に掲げるのは,基本的な音節を示す文字である。1つの文字は Ca を表し,Ci, Cu, Ce, Co の音節は,Ca を表す文字に補助記号を付け加えることによって表記される。
子音字

母音字

数字
数字は普通の文字同様,右から左に書かれる。1の位の数では,1から3までは1を表す文字を数だけ並べることによって,4以上では4を表す文字と1を表す文字の組み合わせで表される。 10 から 99 までの数は 10 を表す文字と 20 を表す文字とそれら以下の数の組み合わせで, 100 から 999 までの数は 100 を表す文字とそれ以下の数の組み合わせで表記される。

句読点

テキスト
サンプルテキスト
タキシラ出土の壷の銘文
出典:吉田豊(2001),赤字で記した子音結合文字 kṣi については注 [2]を参照。
テキスト入力
ユニコード
カローシュティー文字のユニコードでの収録位置は U+10A00..U+10A5F である。Noto Sans Kharoshthi などが対応する。
関連リンク・参考文献
カローシュティー文字
Gallery
- Omniglot: Kharosthi alphabet
- AncientScript: Kharosthi
注
- ^ 吉田豊(2001)「カローシュティー文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- ^ 子音結合は原則的には,2つの文字,あるいは文字の一部を組み合わせることによって表現される。主な組み合わせ方法が3通りある。1)C1 を 表す文字の下に C2 を表す文字を添えて表記する。2)C1,C2のどちらか一方あるいは両方が y, t, l, v の場合,各々の文字本来の形によってではなく,一種の補助記号を用いる。3)各文字の本来の形式が失われる場合。下記の例は,カローシュティー文字フォントにおける入力方法の一部を示したものである。 [VIRAMA] は文字コード U+10A3F を指す。詳しくは,Kharosthi Unicode proposal
(3.19 MB)を参照。