ワラング・クシティ文字 英 Varang-Kshiti

ワラング・クシティ文字は,オーストロアジア語族のムンダ語派に属する言語であるホー語(Ho、Bihar Ho、Lanka Kol)を表記するために考案された文字の一つで,ある程度の支持者を得ていた文字である。(参照 ムンダー諸語の文字)
この文字の考案者は,ビハール州のシンプーム県パセヤ村に生まれたラコ・ボドラ(Lako Bodra)である。村のシャーマンとして活躍する一方,ムンダ人やホー人に伝統文化保存のため,シンプーム県のジンクバニ村にアシュラム(道場)を開き,そこを拠点に,ボドラ自身が考案した文字を広めていったのである。
ボドラがこの文字を考案したのは 1950 年代半ばのことである。したがって,この文字が考案されたときには,サンタル語のオル・チキ文字がある程度広まっていたはずで,ボドラがすでにオル・チキ文字を知っていたことは間違いない。オル・チキ文字の考案者であるラグナート・ムルが,文字は考案されたのではなく神話の中から発見された,と主張したのと同様,ボドラも,この文字を考案したのではなく発見したと主張する。彼によると,ワラング・クシティ文字はもともと 13 世紀にダワーン・トゥリ(Dhawan Turi)という人によって考案されていたという。それを,シャーマン的儀礼を通して再発見したにすぎないと,ボドラは述べている。しかしながら,ボドラ死後には,この文字の考案は 13 世紀ではなく,インドのあらゆる文字よりも古い時期に考案されたのだと,ボドラ信奉者は主張している。ボドラはこの文字を使い,自分の著作をアシュラムで印刷した。その内容はこの文字の解説書をはじめ,教科書など教育に関係する本が多く,それらはかなり流布している。
ワラング・クシティ文字構成
ワラング・クシティ文字が大文字と小文字を有することは,この文字の特徴の一つである(下記ユニコード文字表参照)。こうした文字は,インド亜大陸においてはヨーロッパから導入されたローマ字とワラング・クシティ文字のみである。ワラング・クシティ文字は表音文字で,インド系のような音節文字的要素は見られない。この点は,オル・チキ文字と同じである。
子音文字

母音文字

数字

ワラング・クシティ文字見本

ユニコード
ワラング・クシティ文字のユニコードでの収録位置は U+118A0..U+118FF である。例示に用いたフォントは unifont-9.0.06/ttf である。

関連リンク
注
- 長田俊樹(2001)「ムンダ諸語の文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- Omniglot Varang Kshiti alphabet (文字表)
- Final proposal for encoding the Warang Citi script in the SMP of the UCS
(文字見本)