レプチャ文字 英 Lepcha script
レプチャ文字は,インド北東部のシッキム州(Sikkim)と西ベンガル州に居住するレプチャ族がレプチャ語の表記に使う文字である。ロン文字(Rong script)とも呼ばれる(レプチャは他称であり,自称はロンという)。母音含有型の文字(文字体系;アブギダ)であり,直接にはチベット文字からの派生字と考えられているが,チベット文字と関連しない字形も多く含まれ,字形伝承の詳細は十分解決されていない。チベット時代のシッキム王チャクドル・ナムギェー (phyag rdor rnam rgyal,1686~1704/07)によって,1720 年に創られた。[1]
現行の字形と綴字法は不明なところがあるが,一般に知られているレプチャ文字は,イギリス人マネリング (G. B. Mainwaring) の「ロン語文法」(1876)の中で使われている字形と組織である。 [2]
レプチャ文字構成[3]
単子音字
レプチャ文字の単子音字 28 字は下表のような字形をもっている。大部分はその来源形を想定できるが,不明のものもある。チベット文字と想定できる文字は,1-6,8,9,12-14,16,17,21-24,ビルマ文字と想定されるのは 3,7,26 である。29 はいわゆる担母音字であって,母音に始まる音節の場合,母音符号を担う字形として使われる。レプチャ文字として新しく追加された f- (15) は ph- (14) から,v- (25) は b- (16) から,それぞれ誕生した文字である。
子音字形全体を見ると,レプチャ文字はチベット文字を左向きに 90 度傾けた印象を与える。後述する母音字の項でも触れる。
子音結合字
子音結合字には,i) -y- 型,ii) -r- 型,iii) -l- 型があり,それぞれチベット文字 ya-btags,ra-btags,la-btags に該当する。レプチャ文字では,初めの2種類 ya-btags,ra-btags はチベット文字と同様に,各子音字に -y-,-r- をつけて連書する形態をとるが,la-btabs にあたる型には特別な合体時を作り出している。また,レプチャ文字には,チベット文字にはない,iv) -ry- 型と v) -ly- 型がある。
i) -y- 型
ii) -r- 型
iii) -l- 型
iv) -ry- 型
v) -ly- 型
母音字
レプチャ文字の子音字は a 母音含有型であるから,a 母音以外の母音には,7種類の母音字が使われる。それらの母音字は,子音字の左側または右側あるいは下方に置かれる。レプチャ文字にはビルマ文字のような母音専用字がなく,母音に始まる音節では上述のように担母音字形が使われ,それに母音字がつけられる。
母音字がつけられている位置を見ると,さきに述べたように,レプチャ文字は本来の位置から左に 90 度傾いていることがよく理解できる。現在の形を時計回りに 90 度回転させると i 母音字と o 母音字は上方に,u 母音字は下方に移って,チベット文字の形態と一致する。そして,e 母音字はビルマ文字の e と同じく,もともとは子音字の左側に置かれていたことになる。下図参照。
末尾子音符号
いわゆるアヌスヴァーラなど,末尾子音を文字の上方に書く書法はレプチャ文字独特のものである。
数字と数詞
次の表で,1段目は数字を,2段目は数詞を示している。
レプチャ語テキスト
サンプルテキスト[4]
ユニコード
レプチャ文字は,Unicode 5.1 (2008) からユニコードに追加(U+1C00..U+1C4F) された。Noto Sans Lepchaが対応する。
注
- ^ 西田龍雄 (2001)「レプチャ文字」河野六郎, 千野栄一, 西田龍雄 編著『言語学大辞典 別巻 (世界文字辞典)』三省堂, p.1143.Caption
- ^ Gramar of the Rong (Lepcha) language
- ^ 西田 pp.1144-1145.Caption
- ^ Grierson, G. (1903) Linguistic Survey of India, Vol. III, pt. 1 (Calucutta), pp. 247-248.
関連リンク・文献
- 中西コレクション (国立民族学博物館)レプチャ文字【参照】中西亮 (1994)「シッキムのロン文字」『文字に魅せられて』同朋舎出版, pp. 63-66.
- Omniglot: Lepcha script
- YouTube: Himalayas: Lepcha