タミル文字 Tamiḻ eḻuttu 英 Tamil letters

インド南部のタミル・ナードゥ州(Tamil Nadu),スリランカのジャフナ(Jaffna)周辺,マレーシア,シンガポールなど東南アジアの各地,および南アフリカの一部などで話される,ドラヴィダ語族 を代表するタミル語の話者によって用いられている文字。
1903 年,タミル・ナードゥ州で初めて,紀元前 3 世紀から後 5~6 世紀のものとされる,石窟壁に刻まれた刻文が発見されてから,今日までマドゥライ(Madurai)やティルチラーパッリ(Tiruchirapalli)周辺など 26 遺跡から 83 の刻文が発見される。また,陶器片に刻まれた短い刻文が 20 ほど発見されている。これらに刻まれた文字は,南インドで発見されたアショーカ王碑文に用いられているブラーフミー文字と基本的には同一であるが,次の特徴からタミル語であることが判明した。1) タミル語表示に必要のない文字,半母音の 〈r,l〉, アヌスヴァーラ〈 ṃ〉とヴィサルガ 〈ḥ〉, 有声閉鎖音 〈g,j,ḍ,d,b〉, 帯気音 〈kh,gh,ch,jh,th など〉, 歯擦音を表す文字は用いられない。 2) 他方,タミル語特有の音を表すための子音文字 〈ḻ,ḷ,ṟ,ṉ〉 が加えられている。3) a を内包する従来の子音文字を,a を内包しない基本子音文字として用いる。
これらに続く 4 世紀から 6 世紀になると,多くの刻文が残され,それらに用いられる文字は,グランタ文字,タミル文字,ヴァッテルットゥ文字 (Vaṭṭeḻuttu)である。これらの文字はいずれもブラーフミー文字に由来し,発展したものと考えられている。これら 3 つの文字は 11 世紀頃までは互いに密接な関係をもっていたが,チョーラ王朝(9~13 世紀)が半島南部を統一するのにつれて,タミル文字が王朝下の統一文字として普及する。タミル文字は王朝のもとで文芸が隆盛するのに伴い,装飾性を加えて美しい文字となり,13 世紀頃にはほぼ今日の字体となった。 [1]
文字構成
現行のタミル文字体系は,12 の母音文字,18 の子音文字,母音表示記号を含む若干の記号,それに,サンスクリット語転写のための若干のグランタ文字からなる。
母音文字
母音文字は,5 つの短母音と,5 つの長母音および 2 つの二重母音からなる。o と ō は,印刷物によっては差異が明瞭でないものがあり,注意を要する。

子音文字1
他のインド系文字と同様に音節文字であり,子音文字の基本形は〈子音+a〉を表示する。他の音節を表すには,子音字に下表で赤字で示す母音結合記号をつける。一方,子音のみを表示する際は,基本形の上にプッリ(puḷḷi)と呼ばれる点〈˙〉をつける。また,k のように子音のみを読む場合には,習慣的に i をつけて ik のように読む。
1950 年,タミル・ナードゥ州政府は文字の簡素化のために委員会を設立し,下表で青字で示したように母音結合記号の不統一の解消を試みた。70 年代に入り州政府はこの制度の義務化を打ち出したが,当初はあまり普及しなかった。しかし,80 年代半ばから徐々に普及しはじめ,現行の書記法が確立した。

子音文字2(グランタ文字)
グランタ文字では,u および ū につく母音表示記号がタミル文字と異なる。
他にアーイダム(āytam)と呼ばれる記号 があり,k と転書される。これは短母音と閉鎖音の間に立ち,摩擦音であるが,今日ではあまり用いられない(例
iktu 「これ」)。ただし,今日でも英語の f を転書するのに用いられる。
子音連続
グランタ文字の (ks)と
(śrī 「聖なる」)以外には,子音結合文字は現行タミル文字組織には存在しない。
数字
今日ではアラビア数字を用いる。ただし,近世以前のテキストの出版に際して,次の文字を用いることがある。10,100,1000 を表す文字はより古い形である。

各種記号

タミル語テキスト
サンプルテキスト

出典:『世界人権宣言1条』 Free Font: Akshar Unicode
テキスト入力
ユニコード
タミル文字のユニコードでの収録位置は U+0B80..U+0BFF である。

Free Font: Latha (Windows 搭載)
表示テスト
下表右下セルにキリル文字が正しく表示されない場合は,ユニコード対応フォントをインストールする。 (表示は使用するフォントにより左側の書体(Arial Unicode MS)と異なる場合がある。)
正しい表示 | お使いのコンピュータでは |
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タミル語入力方法
タミル語用キーボードを設定すると,タスクバーにはISO言語コード ISO 639-1 の言語コードでタミル語を表す「TA」が表示される。【参考】 多言語環境の設定


文字改革以前の伝統的な書記法(上掲「子音文字1」)と,現行の書記方の違いを e-Tamil OTC フォントと e-Tamil OT フォントを用いて次に示す。両フォントは INDOLIPI から入手する(現在,サイト停止中)。

関連リンク
タミル文字 | Tamil script | Vatteluttu alphabet
- 中西コレクション (国立民族学博物館)タミル文字
- Omniglot Tamil
- Ethnologue: Languages of the World
- Department of Archaeology: Tamil-Brahmi Script | Tamil Script
- Online Tamil radio BBC | Tamil FM
- Tamil News Papers
- タミル語碑文:ティルマライ・ナーヤカ宮殿 所蔵 (Thanks: 佐野彩さん)
注
- ^ 高橋孝信(2001)「タミル文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)